三日目-3
私達は二人でテーマパークの中を歩いている。ジュンが興味を持ったアトラクション……いったいどんなものかしら? ちょっと楽しみなのだわ。ジュン「おっ、ここだ」ジュンが指差した方向には、大きなお城が建っていた。入り口の上にデカデカと『カートゥーントラベラーズ』とカラフルに描かれていて、レンガで組まれている壁面にもコミカルなアメコミ風の絵が、これも沢山描かれていた。 今にも絵の世界から飛び出てきそうで、とっても面白そうだ。紅「ここ……どんなアトラクションなの?」私はジュンに聞いてみた。すると、ジュンはにやりと笑って言った。ジュン「『アニメの世界を旅する』アトラクションさ。裏人気スポットとして、ネットでも有名なんだ」へぇ~……よく調べてきてるわ……。手元に『へぇ』ボタンがあったら押していただろうに。ジュン「ま、とりあえず入ろうぜ」歩き出したジュンが手招きしてくる。いけない、またポケーッとしていたみたいね。今日はなんだか考え込む事が多い日だ。私はジュンの所に駆け寄り、腕に抱きついた。ジュン「なんだなんだ?」紅「たまにはこうしたいときもあるのよ。黙って抱きつかれてなさい」ジュン「……やれやれ」
係員「ようこそ『カートゥーントラベラーズ』へ!」中に入ると、制服を着た係員さんに案内される。建物の内装も可愛いアニメキャラで埋め尽くされていた。私達は細い通路をしばらく歩く。しばらくすると道が開けて、ズンチャカとマーチが聞こえてきた。紅「何か聞こえてきたわ」ジュン「うはっ! 情報どおりじゃないか!」そして私達は、少し開けた空間に出た。
前にモニターがあって、その手前には座るためなのだろうか、シートが据え付けられていた。係員「このアトラクションは――」ハイ、省略。説明が長いから割愛よ。……要は、特殊なヘッドホンとめがねをつけて、リアルなアニメの世界を体験しましょう。ってところね。ジュンの選んだものにしては、案外面白そうだ。紅「あら、中々いい選択をしたわね」ジュン「お褒めに預かり恐縮です。」ジュンがおどけて答える。そして二人並んでシートに腰掛けた。ふかふかしていて、中々のすわり心地だ。
右側の手元にはボタン……一体何に使うのかしら?係員「お手元にあるボタンを押してください」赤いボタンをポチっと押す。
ちょっと柔らかい感触がした。係員「それでは、よい旅を」私達が準備を終えたのを確認した係員さんが、壁に据え付けられていたレバーを下に下ろす。あれ? なんだか眠たくなってきた……
目覚めたら、大草原にいた。 一体何を言ってるのか私も(ry……じゃなくて。周りを見ても、さっきのモニターのある空間では無い。足をくすぐる草の感触も、現実となんら遜色なかった。服装が全く変わってないのは、ちょっと残念だわ。紅「凄い……」ジュン「予想以上だなぁ」私もジュンも感嘆の声をあげることしか出来ない。しばらく周りを落ち着きのない子供の様にキョロキョロと見渡し、状況を確認する。うん。どうやら大丈夫みたいだ。私達はのそのそと立ち上がる。紅「よいしょ……。ふぅ」ジュン「よっこらせ。……んん~!? 何だあれ」え? ジュンが指差した方に私が目を向けたのと同時に、草むらからガサガサと音がした。段々こっちに向かって……来てるのだわ!紅「ジ、ジュン!?」い、いい一体なにかしら?私はジュンの大きな背中の後ろにこっそりと回りこんだ。いざとなればジュンを盾にして逃げてやりましょう、と言わんばかりにジュンを音のする方に向かって押し出す。しばらく二人で向かってくるそれをじっと見ていると、それはついに私達の前に姿を現した。……ピエロ?ピエロみたいなそれは、私達がそこに立っているのを確認した後、ついてこいとばかりに手招きをしてきた。ジュン「……とりあえず、追うぞ」紅「そうね。それがいいわ」
二人で後を追う。着かず離れずのスピードで、スキップをしながらピエロは先に進んでいく。うぅむ、案外速いわね……。そのまま五分くらい、ジュンと私はゆっくりと走り続けた。すると、小高い岡を登ったところでピエロは急に立ち止まり、くるりとこっちを振り向いた。私達もピエロの隣に立つ。ゼェゼェと機関車みたいに荒い呼吸をしているのはジュン。全く、私よりも体力がないんだから。しばらく、私達は大きく深呼吸をして呼吸を整える。そして顔を上げた瞬間、私は目の前の光景に目を奪われた。紅「きゃあーっ! 凄いのだわ!」そこは、アメリカンコミックの中のキャラクター達のオールスターだった。虹色の鳥が空を舞い、デフォルメされたクマがのっそのっそと歩いている。私たちの足元を小さなリスがサササッと横切っていった。なによりも凄いのは、全てがまるで本物みたいに感じる事だ。ジュンも口をぽかんと開けて、目の前の光景に見とれている。私達が我に帰ったときには、ピエロは既に消えていた。どうやら案内してくれたみたい。……私はピエロさんありがとう、と心の中でお辞儀をした後、試しに目の前を歩いているクマに触ってみる事にした。お腹に触ってみると、柔らかな毛の感触がした。そのままゆっくりと撫でていると、クマは気持ち良さそうに唸り声を上げた。う~ん! とっても可愛い。紅「ジュン、このクマさん、とっても可愛いわよ。」ジュン「そうか? 僕はこのリスの方が……」ジュンはリスを抱きかかえている。デフォルメされているので、可愛らしさがぐっと増している気がする。みつさんじゃないけれど、お持ち帰りしたいわね。
しばらく、私達はアニメの世界を楽しんだ。川辺で斧を持ったワニとお話したり、本の世界のコミカルな悪魔や愛らしい魔術師も見たわよ。魚の群れに乗せてもらったときは、もう大感激だったわ。紅「ふふ、とっても面白いのだわ! ジュン!」ジュン「喜んでもらえて嬉しいよ。調べた甲斐もあったってもんだ」紅「ありがとう」ジュン「どーいたしまして」私達はバカップル特有の(自覚できているだけマシね)イチャイチャを繰り広げていた。……あれ? なんだか眠くなってきた。ああ、時間切れか。
目を開けると、そこは元のモニターのある部屋だった。んっ……眩しいわね。私は瞼をゴシゴシとこすりながら、ヘッドホンとめがねを外し、大きく体を伸ばした。係員「お楽しみいただき、どうもありがとうございました!」係員さんが、私達を出口まで案内してくれた。外に出ると、太陽の光が私達に降り注いだ。今まで薄暗い空間にいたからか、若干眩しく感じる。時計を見ると、もうお昼どき。お腹もぺこぺこだ。紅「ジュン、お腹がすいたわ。お昼にしましょう」ジュン「そうだな。それにしても……はー疲れた」紅「女性の前で疲れを顔に出すものではないわ。しゃんとしなさい」ジュン「何で?」紅「全く。私が……心配するからよ」ジュン「なんだよそれ」
もう……。これだから鈍感な彼氏を持つと苦労するのよ。私はケラケラと笑うジュンの手を掴んで、前へと歩き出した。
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