二日目-1
私たちの朝は、とっても早い。午前七時に、梅岡先生のモーニングコールが響く。部屋はよく乾燥していたのか、干しておいたタオルがからっと乾いている。梅岡「さあ、みんな朝だよ! 今日もフルスロットルで行こう!」小鳥のさえずりで目覚めるのが理想だけど、これじゃあまるで地獄の怪鳥の鳴き声だ。そんな事を寝ぼけ眼で考えながら、翠星石や雪華綺晶と鏡の前で押し合いへし合い顔を洗ったり髪をセットする。みんな髪が長いから、手鏡だとセットが難しいのよ。あっ、軽くお化粧もしておくのだわ。そして朝食。昨日枕投げの戦場になった大広間にはお膳がずらりと並んでいる。卵焼きに、海苔に焼き鮭……典型的な和風の朝食ね。私は朝はパン派だけど、食事に文句を言うのは失礼よ。ちゃんと残さず食べるわ。ジュン「ふあぁ~っ……おはよう、真紅」紅「おはよう、ジュン」あくびをかみ殺しながらジュンが言った。どうやら男子もかなり遅くまで起きていたらしい。同室の笹塚君や仗助君もかなりゲッソリしてるみたい。けど……残りの二人はセロリの様にしゃっきりしてる。鬼の様な体力なのだわ……笹塚君が夕食の時と同じ様にみんなに簡単な挨拶を済ませてから、朝御飯を食べる。
金「真紅、カナの鮭と卵焼きを交換して欲しいかしら」紅「貴方って、本当に卵が大好きなのね」金「カナの朝は卵焼きから始まるかしらー!」金糸雀が鮭と卵のトレードを持ちかけてきたので、OKしてあげたのだわ。鮭は軽く塩気が効いてて美味しいわ。翠「いっひっひ、ちび苺のおかずを奪ってやるです」苺「やーなのー! 翠星石にあげるおかずなんてないのー!」翠「それっ……ひひひ、たくあんを頂いたですぅ」苺「うわーん! たくあん取られたのー!」蒼「やめなよ、翠星石。……雛苺、僕のをあげるよ」苺「蒼星石……ありがとうなの」翠星石が雛苺のおかずを奪おうとしている。全く朝から騒々しい……あっ、雛苺が沢庵を取られたわ。蒼星石が自分の沢庵の入った小皿を雛苺のほうに寄せている。いつも翠星石のフォローに回るのは彼女だ。そのドタバタの隣では雪華綺晶がスッスッとご飯を口に運んでいる。食べ方には品があるが、スピードが半端無い。見る見るうちにお茶碗の中のご飯が減っていく。薔薇水晶がニコニコ顔でそれを眺めていた。
朝食の後は布団をたたんだり、部屋の簡単な掃除をした。一日しか居なかったけれど、沢山の思い出が詰まっている。蒼「ねえ、記念写真を撮ろうよ」翠「大賛成ですぅ! さあ、おめーら並びやがれですぅ!」紅「ちょっと、急かさないで頂戴」蒼星石が高性能のカメラをびしっと構える。蒼「タイマー撮影でいくよ。十秒後だからね」苺「ピースなのー!」雪「もう少し左によってください。私が隠れてしまいます」翠「す……すまんですぅ」ドヤドヤとカメラの前で思い思いのポーズをとる私たち。がらんと片付いた部屋で撮ったこの写真―――絶対に忘れないのだわ。
急いで荷造りをして私たちは『白蛇館』の玄関に集合した。みんなの代表として、笹塚君が斉藤さんにお礼の挨拶をしている。ハンカチを目に当てながら、それを聞く斉藤さん。たった一日だけど、いろんな思い出が出来たのだわ。お風呂をベジータに覗かれたり、枕投げ大会をしたり、パジャマを脱がされそうになったり……。私たちを乗せて、エンジン音を立ててバスが走り出した。窓からブンブンと手を振る私たち。斉藤さんたちも次第に見えなくなっていく。バスは次の目的地である『飛龍高原』へと向かう。
バスの中は昨日と同様、活気に満ち溢れている。一体……この元気はどこからくるのかしら。今日はベジータがどこからか『黒ひげ危機一発』を取り出したので、皆でそれをすることにした。ベジータ「よっしゃ~! 俺から行くぜー! セーフだぁぁぁぁぁ!」ジュン「五月蝿い黙れ。バスから叩き落すぞ」ベジータ「つれないなぁ~~~」雪「次は私ですね」雪華綺晶はセーフだった。その後、金糸雀、薔薇水晶、蒼星石も無事に切り抜けた。仗助「おれの番か……。よしッ! セーフだぜ~~~~」翠「ちっ……。次は翠星石のターンですぅ」翠星石が剣をタルに突き刺すと、ポーンと音を立てて黒ひげが飛び出した。翠「えええ~~~っ!? なんとぉ!」薔「……やっちゃった」蒼「ドンマイ、翠星石」蒼星石がうなだれる翠星石の肩にぽんと手を置く。気を取り直して次のゲームを始める。次は私の番ね。みんながタルをじっと見つめている。私は、カラフルな剣の入った箱の中から赤色の剣を取り出して、タルに突きたてた。
紅「え?」一本目で黒ひげが宙に待った。嘘でしょ……。私はこの前テレビで見た、『巨大黒ひげ危機一発』で芸人の一人が、私と同じ様に一発目で黒ひげを飛ばした事を思い出した。 一瞬の静寂の後、バスの中は大爆笑に包まれた。銀「嘘……まだ一本目よぉ!! あはははははは! 傑作ねぇ!」翠「おなかが……おなかが痛いです! 笑い死ぬですぅ!」苺「ヒナもおなかが痛いわ! おかしいのー!」みんなおなかを抱えてげらげらと笑い転げている。もう、そんなに笑わないで頂戴!すると、私に向かってお菓子の袋が差し出された……ウルージ君だ。ウルージ「これでも食べて、元気を出しなされ」紅「……貰っておいてあげるわ」……笑いをこらえた顔でそんなこと言われてもどうしようもないわ!仕方無しに貰ったお菓子をかじる。……モナカね。甘い香りが鼻の奥へと広がっていった。その後も、みんなで『黒ひげ』をしたり、クイズ大会をした。クイズ大会はどれもこれもマニアックな問題ばかりで、私には難しかった。特に金糸雀の『おいしい卵の見極め方』は誰も正解出来ないという有様だったわ。――――そんなこんなでワイワイやっていたら、時間はあっと言う間に過ぎていった。私たちを乗せたバスは、飛龍高原に到着した。
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