BLACK ROSE 第四話
BLACK ROSE 第四話誰かが叫んだ。危ないと。ああ、私は死ぬのか。目の前の異形の怪物が私を睨んでいる。もう駄目だなと思う。だけど、誰かが私を庇った。何で。どうして。「……」夢を見た。飛び切り嫌な夢。私の所為で誰かが死ぬ。こんな夢を見るとは、やはり、気になっているのだろうか。昨日の出来事が。「蒼星石ー、起きてますかー?」「おはよう、翠星石」「おお、もうバッチリのようですね」「うん、お陰様でね」僕はあの後すぐにここに運び込まれたそうだ。幸い、大事には至らなかったけど、医者からはキツく釘を刺された。か弱い女の子が迷宮に行くなんて、と。といっても、医者は翠星石が女の子だと言うまで、僕を男の子と思っていたそうだ。「……」「どうしたですか?蒼星石」翠星石の話では、真紅達は病院まで付いて来たそうだが、水銀燈とは直ぐに別れたらしい。「水銀燈は来ないの?」「……あいつはこねぇです」「どうしてさ」僕は執拗に翠星石に問いかける。少し意地悪かな、と思う。「分からねぇです。地上に出て直ぐに、あいつは何処かへ行っちまったです…」「探したの?」「ええ、真紅とジュンが探してるですぅ」まだ見つかってねぇですけど…、と翠星石は言った。責任を感じているのだろうか。彼女は悪くないのに。僕も早く探しに行きたいな。水銀燈は訳が分からなかった。自分のしていることが。今も色んな事を考えながら歩いている。どうせ、実行することも無いのに。「はぁ…」正直の所、もう一度チームに戻りたい。皆と一緒にいたい。ああ。だけど私は最初に、少しの間だけと言った。それに、蒼星石は私の力を試すと言った。あんな結果では、私は失格だろう。醜い。こんな言い訳を考えている自分が。「気付けばここまで来てたのねぇ…」この街の端まで来ていた。ここは辺鄙な所で、人も余り来ない場所だ。周りを見渡せば、人の姿も見えないし、建物も僅かしか無い。ふと、目に留まった物があった。小さな教会が立っていた。「こんな辺鄙な所に教会建てて、意味あるのぉ?」「ホントよね。私もつくづくそう思うわ」「……誰?」「あ、ごめんね。私は柿崎メグ。この教会のシスターよ」柿崎メグと名乗った彼女は、自己紹介を終えると、私の手を掴み、やや強引に教会の中へ連れ込んだ。「貴女、悩み事があるんでしょ?聞いてあげるよ。どうせ人もこないし」確かに中には誰もいなかった。朝の礼拝の時間は過ぎていても、人っ子一人いないとは、この教会は相当廃れている様だ。悩み事があるのは貴女の方じゃない、と思う。「別に悩んでなんかないわぁ。仮にあったとしても、貴女に教えると思う?」「私なら教えないかな。けど貴女は悩んでますって、顔に書いてるわよ」「貴女に私の何が分かるの?」正直このタイプの人間は苦手だ。私が話をするまでしつこく問いかけてくるだろう。貴女の悩み事は何、と。「私には分かるよ。貴女のこと。本当は仲間の所に戻りたいんだよね」「なっ――」「けど、貴女は素直になれない。何か理由を作って戻れないことにする。 そんな自分が醜いんでしょ?そうして、気付いたらこの教会の前まで 来ていたんだよね」驚いた。私が見透かされるなんて。何より、この柿崎メグという娘に。「…貴女は一体」「私はただのシスターよ」にっこりと、彼女は微笑む。今の自分には眩しすぎる笑顔だった。「それでねぇ…」それから暫く経つと、私は語っていた。自分のこと。真紅達のこと。そして、戻れない理由を。何時の間にか彼女のペースに飲まれている。最初の嫌な気分は吹き飛び、今はとても楽しかった。「…そういう訳で私は戻れないのよぉ」「ふーん。けど、私は戻れると思うな」「どうしてそう思うのぉ?」「だって貴女は特に悪くなんかないじゃない。 その蒼星石っていう娘が傷ついたのも、仕方ないことだよ。 貴女だけの責任じゃない。皆の責任だよ。」(蒼星石は私を庇って怪我をしたのに、私だけの責任じゃ無いと言うの?)そう言われても、やはり私は悪いと思う。それに、見舞いの一つもしないで何が仲間だ、と思う。「貴女の悪い所を挙げるとすれば、蒼星石さんの所に行っていないことね。 本来戻れるのに、そんなことしてたら戻れなくなっちゃうわよ」「けど…」ああ、私はなんて醜いんだろう。この期に及んでまだ言い訳をするのか。でも、そうしないと私が私じゃなくなってしまうから。「あーもうじれったいなあ!貴女は彼女達の所に戻りたいんでしょ!? そんなに卑屈になってどうするの!もっと自分に素直になりなさいよ!」「――っ」水銀燈は驚いていた。今日会ったばかりの彼女が私の為に必死になってくれているから?違う。それもあるだろうが、私は泣いていたのだ。「なんで…涙が出てくるのよぉ」「ほら、泣かないで。」メグは私を抱き寄せると、私が泣き止むまで慰めてくれた。子どもっぽいかなと思ったけど、どうでも良かった。今はただ、気が済むまで泣きたかったから。「もう…大丈夫?」「えぇ…」水銀燈が自分の腕からすっと、離れた時、私は寂しく感じた。こんなに可愛い女の子見たこと無い。まるで天使の様。出来ればもう少し抱きしめたかったなぁ…「そうだ!ねぇ水銀燈」「…何?」振り向いた彼女の顔は真っ赤になっていた。ふふ、ホントに可愛いなぁ…「貴女、精霊は持ってるの?」「…持ってないわぁ。それがどうしたのぉ?」「持ってないんだね。よし、今から貴女だけの精霊を呼ぶわよ!」「はぁっ!?そんなこと出来るのぉ!?」精霊と契約するのはかなりの手間暇が掛かると聞いたことがある。契約出来ても、変な精霊だったりしたら最悪だ。それに、教会のシスターに儀式が出来るのだろうか。「簡単に言うけど、契約の儀式は手間掛かるわよぉ?」「大丈夫だよ。慣れてるし」 何に慣れているのか聞いてみたかったが、それは制止された。突如、部屋一面が紫色の光で埋め尽くされた。光が消えて、視界も戻ってきた時、目の前を紫色の発光体が飛んでいた。「これが…精霊」「そうよ。それは貴女だけの精霊。どう?簡単だったでしょ?」「貴女…本当に何者なの?それに、何で私にここまでしてくれるのぉ?」「何度も言ったけど、私はただのシスターよ。貴女に協力してるのは…」その時、私は自分の考えていたことに笑いそうになった。けれど、あながち間違っても無い、その感情。「協力してるのは、貴女が好きだから…かな?」「ば、ばっかじゃないのぉ!?このお馬鹿さぁん!」彼女は顔を真っ赤にして教会から走り去っていった。彼女の反応を見た私は暫くの間笑いが止まらなかった。「見つからないわね…一体、今何をしているのかしらね…」真紅は水銀燈を探していた。この街の何処かに彼女の姿が無いかと。けれど、いくら必死に走り回っても彼女は見つからない。いい加減、日も暮れる頃だ。一人では何かと危ない。「そこのお嬢さん、ちょっと待ちな」「何かしら?今急いでいるのだけれど」「そんなこと言うなよぉ。ちょっとだけ付き合ってくれよぉ」男はどうやら追い剥ぎでは無いらしい。それでも相手をしてはいけない類の人間だ。いつもなら剣を持ち歩いているが、生憎、今日は手元に剣は無い。精霊をここで使うのは危険すぎる。今襲われたら、たいした抵抗も出来ないだろう。「貴方に付き合っている暇は無いの。どいて頂戴」「んだと、このアマ!」男はどうやら少し酔っている様だ。それにしても、襲い掛かってくる大の男を相手に拳だけで立ち向かわなければならないとは。自分の運の悪さを呪うしかない。水銀燈も見つからないし、今日は運が悪い。「仕方ないわね…何とか気絶させましょう」「何ごちゃごちゃ言ってんだぁ?殺すぞこのアマ!」「その汚い口をとっとと塞いでくれないかしらぁ…?」聞き覚えのある声が聞こえた。水銀燈だ。水銀燈は背中の大剣を抜いた。そして、男を大剣で殴り飛ばした――!男は豪快に吹っ飛び、壁に頭を打ちつけ気絶した。「水銀燈、貴女――」「はぁい真紅久し振りねぇ」「久し振りね…って貴女今迄何をしていたの!?心配するじゃないの!」真紅は心配すると言った。こんな私を心配してくれている。それだけでまた泣いてしまいそうになる。けれど、言わなければいけない言葉がある。「私を、もう一度、皆の所へ連れて行って」「ええ、勿論よ!歓迎するわ、水銀燈」
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