「とある夏休み」15ページめ
15ぺーじめその日は朝から曇り。いつもよりは少し過ごしやすいようです。少し前に真紅姉妹と孤児の少女たちが出会ったあの川原で、彼女らは合流しました。魚釣りが今日のイベントです。真「私達は釣りは初めてだわ」銀「じゃあまずはエサの付け方からねぇ。この針をしっかり持って、川虫のお尻を…」既に水銀燈たちが川底の石の裏から採取していた川虫を、真紅は恐る恐る釣り針に刺しました。非常に勇気がいる事でしたが、雛苺が薔薇水晶と雪華綺晶に教わって面白そうに同じ作業をしているのを見ると、弱音を吐いてはいられませんでした。おそらく近くの山から採ったものであろう竹を二本継ぎ足してできている手製の釣り竿と、釣り糸と玉ウキとおもりと釣り針。真紅は、川釣りの道具が意外にシンプルなのに驚きました。銀「で、こうやって仕掛けを川に振り込むのよぉ」水銀燈の見よう見まねで、真紅は人生初の魚釣りを開始したのでした。真「貴女達は…こうしてよく魚釣りをするの?」銀「ええ。私達の食料自給率は高いわよぉ」真「何が釣れるの?」銀「ヤマメとかハヤとかウグイねぇ」真「へえ…」聞いたこともない魚の名前を頭の中で繰り返しつつ、真紅は、水銀燈が何気なく言ったことを思い返していました。自分達で食べるものは出来る限り自分達で調達する…彼女達のたくましさが垣間見えたような気がしていました。児童養護施設の運営には少なくないお金が必要です。その負担を少しでも軽くするために、少女達は自主的に敷地を耕したり、時々釣りをしたりして足しにしている…と真紅は前に水銀燈から聞いていましたが、実際に参加してみるとその苦労を否応なく実感するのでした。自分達なりに自立する訓練をしているの?それとも…孤児として養われていることに対する負い目を感じまいとしていることなの?銀「…く、真紅!引いてるわよぉ」真「!!」考え事をしていた真紅は、いつの間にか自分のウキが水面下に引き込まれている事に気付きました。しなる竿を通じて、何かが糸をごつごつと引っ張っているのが手に伝わってきます。真「えっと…」銀「焦らないで、ゆっくり竿を立てて…」水面近くで、銀色の何かが動きまわり、水を蹴立てています。ぴんと張った釣り糸を横からつかんだ水銀燈は、手慣れた様子で糸をたぐり、暴れる魚を水面から取り上げたのでした。ぶら下げられてぴちぴちとはねている魚に真紅はたじたじでしたが、それにおかまいなく水銀燈は魚を左手でつかみ、右手で器用に釣り針を外しました。川魚といえばコイくらいしか見た事のない真紅にとって初めての釣果です。銀「大きなウグイねぇ。初めてにしてはすごいわぁ」雛「真紅すごいの~」雪「雛ちゃんのも掛ってますわよ」薔「竿立てて…」雛「うぃ~」真紅の手には、まだ魚と綱引きをした感触が残っていました。水銀燈はと見ると、彼女は魚を左手につかんだまま何かを取り出しました。アーミーナイフの刃を開いた水銀燈がおもむろにその刃を魚の尾びれの付け根に入れると、魚の体から真っ赤な血が流れ出し、滴り落ちるのが真紅にもはっきりと分かりました。銀「あ…こういうの苦手だったぁ…?血抜きっていうんだけどぉ…」手を真っ赤に染めて申し訳なさそうに振り返った水銀燈に対し、真紅は首を横に振りました。それは三割方は嘘でしたが…それよりも真紅は、目の前の少女の生きる力と言うべきものに驚嘆していたのでした。結局、正午までに真紅は4匹のウグイを釣り上げ、何とか自分で針を外しせるようになりました。さすがに血抜きは水銀燈にやってもらうしかありませんでしたし、釣果も水銀燈には及ぶべくもありませんでしたが…。翠星石と蒼星石が起こしたたき火で焼いた魚の塩焼きは、想像以上に美味しいものでした。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たき火を遠巻きに囲んではしゃぐ少女達を、白崎執事が遠くから見ていました。つづく
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