「とある夏休み」10ページめ
10ページめ真「ただいま…白崎さん」白「お嬢様、御帰りなさいませ。おや雛様はお休みのようですね」水銀燈と別れた真紅は、眠っている雛苺を背負って別荘へと戻ったのですが…真「その…実は今日、私達二人とも川で溺れてしまって…。疲れたから少し休むわ。お昼ご飯もパスするわ…」白「!! それは無事でようございました…では、夕食のほうは…」ところが、白崎がそこまで言ったところで、真紅は急に目の前が真っ暗になり、膝をつき、雛苺を背負ったまま前のめりに倒れこんでしまいました。白「お嬢様!!」気を失った真紅の顔は熱で真っ赤で、全身は冷や汗でびっしょりでした。その頃、「薔薇十字児童養護施設」の一室、二段ベッドと机が並ぶ部屋では、四人の少女が向かい合ってベッドのへりに座り、話をしていました。翠「まさか…私達のことが、今日偶然出会った女の子に知られているとは思わなかったです…」雪「そうですわね…。もし相手が何も知らずにいてくれたら、この夏だけのお友達になれたでしょうにね…」蒼「…確かに、この村では見かけない姉妹だったから、多分このあたりの農家のお孫さんか誰かが夏休みに遊びに来たって感じなんだろうけど…」薔「残念…」翠「…でも、どうせまた避けられるに決まってるですぅ…孤児だって知ったら…」雪「学校に行ってないって知られている時点で、いぶかしく思われてるでしょうね…」一同「…」重い沈黙が部屋を支配しました。誰かがドアを開けるまで、その沈黙はたっぷり五分間は続いていたでしょうか。銀「ただいまぁ」蒼「あ…お帰りなさい水銀燈」翠「あの真紅って娘、何か言ってましたかぁ?」薔「銀ちゃん…何か嬉しそう…」雪「ですわね」銀「あの娘…私達と友達になりたいんだってよぉ」翠「ええええ!?」蒼「それホント!?」薔「ウホッ」雪「ちょっとお待ちください銀ちゃん。貴女、もしかして私達が孤児だという事をあの娘にお話ししたのですか?」銀「それは言ってないけどぉ…あの娘なら薄々感づいていると思うわよぉ?」蒼「友達になりたい…か…」翠「それは嬉しいですけど…」銀「…まあ、そう言う事だから、私達も深く思い悩む必要はないんじゃなぁい?」薔「…でも…」雪「確かにうれしい事ですわよ…でも、私達の外見と、私達が孤児だからという事で、今までに受けてきた苦しみ…忘れたわけではないでしょう?」 一同「…」雪「…もし…あの娘たちとお友達になっても…裏切られたりしたら私…怖い…」銀「…そうねぇ。結菱財閥の御令嬢が…私達のような境遇を理解してくれるかどうか…」翠「!! あの娘たちは結菱の一族だったですか!!」蒼「と言う事は…あの洋館で過ごしてるわけか…」銀「…でも、あの真紅という娘は、間違いなく私に、私達とお友達になりたい、そう言ったわ。だから私、もう一度あの娘と会ってみるわぁ…そしてお話してみるわ」薔「もう一度会うって…」雪「お約束したんですの?」銀「ええ、またあの川で会うってねぇ」雪「そうですの…」翠「なら翠星石も会いに行ってみるですぅ…」蒼「…僕も行こうかな」薔「お姉ちゃん…」雪「確かに…お話してみないことには…」部屋の引き戸がノックされ、二人の女性が入ってきました。蒼「あっ…佐原先生とのり先生…」桜「みんな、ご飯できたわよぅ。今日は冷麺よぉ」佐「あら、みんな揃って何のお話?」銀「私達、さっき川で溺れてた姉妹を助けたのぉ。その娘たちとお友達になろうと思って…」翠「ですぅ」雪「結菱家の御令嬢だそうですわ。今度またお会いすることになっていますの」二人の先生は、これを聞いて対照的な表情を浮かべました。桜「あらあら、それは良かったわねぇ。仲良く…」佐「駄目よ。外の子とお友達になっちゃ。その娘たちの事は忘れなさい」桜「!?」施設長の佐原先生の鋭い言葉に驚いたのは桜田先生だけではありませんでした。五人の少女達も、その言葉に押し黙っていましたが…銀「何で…よぉ」佐「貴女達が外の世界から傷つけられるのは…もう嫌でしょう?必要のないつながりを外と持ったって…」銀「ふん…先生が言いたいのは、私達は卑屈になりさえすれば社会から傷つけられずに済む、そう言うことでしょお…?」佐「…」銀「そんなの分んないじゃなぁい!!何よぉ、先生が言ってるのって、私達を気にかけていてくれるようで、実は私達の事をを先生自身が認めてくれていない、そう言う事なのよぉ!?」佐「水銀燈、先生はそんな事」銀「馬鹿ぁっ!!」水銀燈は、二人の先生の横を抜け、戸の外へと走り去って行きました。残された六人は、皆一様に押し黙っていました。…その翌日、佐原先生が出張で施設を後にしたのを見計らい、水銀燈はあの川原へ足を運びました。真紅と雛苺は現れませんでした。つづく
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