花火大会のありがとう
久しぶりに残業なしで帰れた私を迎えてくれたのは、黄色い浴衣の女の子だった。この家で引き取った時のよそよそしさはもうなく、その幼さも面影を残すに留まっている。「みっちゃん・・・えと・・・その・・・」妙にもじもじする貴方を見て何を言いたいのか理解する。「うふふ、『花火大会に一緒に行きたいけどみっちゃんお仕事で疲れてないかしら』当たりでしょ」どうしてわかったのか? と不思議な顔をする貴女も愛おしい「そんな格好してて解らないとでもおもったの?」「う・・・たしかにそうかしら」「大丈夫!カナの浴衣姿見たら元気出たから、じゃあ浴衣に着替えるから待ってて」「了解かしらー!」笑顔の貴女を尻目に浴衣に着替え、髪を結い直す。久々に着た浴衣、意外と悪くない着心地。カナの呼ぶ声が聞こえる。早く行かないと待ちくたびれるな。そう思って玄関から飛び出した。ドーン「あ、みっちゃん!急ぐかしら!」もう始まってしまった花火を取り返すような勢いで走り出す貴女の後に続く。「待って、カナこっちは方向が違うわよ!?」「モウマンタイかしらー」そう言って走り続けるうちにこの子がどこに行きたいのか分かってきた。やはり行き着いたのはこの町で比較的高い場所に位置する公園だった。なるほど、たしかにここなら人ゴミに巻き込まれずに花火を楽しむことが出来る。でもどうしてこの子がこんな穴場を知っているんだろう?私が教えたんだっけ?自販機で買ったジュースを片手に花火を見ていると、不意に「ありがとう」という声が聞こえた気がしたので横を向いた。「カナ、今、何か言った?」「うん、ありがとうって、言ったかしら」カナはこう続けた「この花火大会は、この公園は、カナがみっちゃんの家に来た夜に初めて連れて来てもらった場所だから、ここで感謝の気持ちを伝えたかったのかしら。」そしてカナは最後にこう言った。「これからもずっと一緒がいいね。」そうか・・・この子は私が考えているより、すっと大人なんだな。ああ、この子の全てが愛おしい、この子がいるから私は毎日頑張れる。貴女の瞳に浮かぶ花火を見ながらそう思った。終わり
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