「とある夏休み」3ページめ
3ページめ雛苺は、カーテンの開かれた窓から差し込む光で目を覚ましました。最初に目に入ったのは、シャンデリアがつり下がった見知らぬ天井でした。そっか、今日から夏休みで別荘に来てたんだった…と思い出し、目をこすりつつ体を起こすと、お姉ちゃんの真紅が隣のベッドのかたわらでパジャマを脱ぎ、かつて懸賞で当たったくんくんジャージに着替えています。当選のハガキが来た時の真紅の喜びようは雛苺でもうんざりするほどのものでした…雛「おはようなの~」真「あらおはよう、雛苺。ラジオ体操をするから外に行くわよ」見ると、真紅は学校の技術家庭科の授業の時間に作ったトランジスタラジオを持ってきています。雛「いかにも夏休みって感じなの~」真「そうよ雛苺、ダレがちな夏休みこそ、早起きしてラジオ体操で己を鍛えるのよ」二人が洋館の外に出ると、既に起き出した白崎さんが、庭の隅にあるウサギ小屋でウサギに餌をやっているところでした。白「おはようございます、お早いご起床ですね。もうすぐ朝食を用意いたします」真「おはよう白崎さん。この地域のNHK第二放送の周波数は分かる?」白「443kHZでございます。ラジオ体操でございますね。ラジカセがご入用ですか?」真「ラジオは用意してあるわ、ありがとう」雛「ウサギさんがいっぱいなの~」雛苺はウサギ小屋を覗き込んではしゃいでいます。見ると、小さなウサギ小屋の中では、10匹ほどのウサギが一心不乱に餌を頬張っていました。中には子ウサギもいます。別荘管理人の白崎さんは、こうしてウサギを飼育することが楽しみの一つであり、故に雛苺からも「ウサギ兄さん」と呼ばれるのですが…普段10匹もウサギを飼っていて、なおかつそれをここまで連れてくるという努力には脱帽するほかありませんね。しかもこの男、許可を得て自力でここにモルタル製の立派なウサギ小屋を造っているのですから。白「ええ、我が愛しのバニーちゃんたちでございます。ああ、何と言う可愛らしさでございましょう、このつぶらな瞳をご覧ください」真・雛「…」白「真っ赤な瞳は、この私めの美しき姿に見とれすぎてこうなってしまったのでございます…私めときたら、何と罪作りな人間なのでございましょう…」白崎さんは身をよじっています。真「あら、時間だわ」雛「ラジオ体操始まり~なの~」白「…」ラジオ「ラ~ジオ~の声に~貧相な~胸を~この香~る風~にさら~せよ、あ~らぺっ・たん・こ~ シャラララ~ン」真「何なのだわこの歌は!!だわだわだわだわ」つづく
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