スレタイもの
NGword sinineta
楽しい思い出は色褪せやしない、なんて緑のあの子が私と楽しそうに話していたのも数時間前のお話で、私はそんな彼女の顔を思い浮べながら自動車のハンドルを握り直した。緑の彼女、翠星石はみんなからも慕われる、要はアイドル的な何かを持ち得ているのだろう、カリスマ性がある。それなれば浮いた話でも聞かされるのか、と内心ため息を吐きつつ耳を傾けよう、なんて思っていたのだが、実際はそれとは全くかけ離れた内容だった。そういえば蒼星石が、昨日、蒼星石が、前に蒼星石が……。彼女の話に必ず入り込む一つのワード『蒼星石』彼女にとって楽しい思い出とは蒼星石がいるから成り立つわけであって、彼女がいなければ、もしそれが他人にとって幸せだと感じることでも翠星石にとってはそれは完成した幸せではない、と言うことになる。逆もまた然り、だ。彼女は片割れに依存しているのだろう。それで彼女が幸せならば別にそれはいい。しかしだ、もう一つの片割れはどう思っているのだろう。双子とはいえ、すべてが同じ思想なんてはあり得ないし、そんなことを許したくはない。そう、例えば私たちのような。雪華綺晶と、薔薇水晶という相対した関係ならば。
バックミラーに移った自分の顔から自らの苛つき、いや、高揚感に近いものを読み取ると、駐車場に車を止める。車から降りると、辺り一帯に芳しく漂う厳かな香りを思い切り吸い込み、助手席側に置いておいた一本の花を手に取った。翠星石の言うことは最もだ。思い出は色褪せることはない。しかしそれは楽しい事ばかりではなく、辛いこと、嫉ましい事だって……色褪せることなんてはないのだ。線香の匂いを吸い込みながら私は『片割れ』の眠る場所へと歩む。いつだって甦る、あの日の記憶。『やめて、雪華綺晶ッ!』いつだって蘇る、あの日の感触。刺さりゆく感覚。手に持った黄色い薔薇を投げ付けて、私は無意識に笑っていた。『さようなら、もう一人の私』【思い出は】【色褪せない】
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