九話「翠星石Ⅱ」
短編「図書館」シリーズ九話「翠星石Ⅱ」突然だが、私、真紅は図書委員だ。元々本が好きで、中一のときに初めて図書委員になり…気が付けば図書室、そして図書委員の常連となり早3年。その間に図書室仲間ともいうべく、同じく本の好きな友達連も出来て、図書館をよく利用する人の顔もかなり覚えた。これは、そんな私の…当番後の帰り道でのお話。「それで、何?蒼星石が最近水銀燈先輩と仲がいいって?」「です…数日前に、昼休みに水銀燈先輩に用事がある、って教室を出てった時からです」「そう…」「それから、お昼休みとかにいつも水銀燈のところに行ってるです!」「『先輩』よ。…そうね。その時事についてなら少し知っているかも」「何です!なんでも良いから知ってる事を教えろです!!」「ちょっと!揺すらないでほしいのだわ!」ガクガクと肩を揺さぶられながらあの時の事を思い出す。漫画の内容を思い出して、思わず赤面。「なんで赤くなるですか!一体何があったです!」「す、翠星石!言うから手を離しなさい!!」無理やり引っぺがして、やっと落ち着いた。じれったいとでも言うような視線でこっちを睨んでくる翠星石に、並んで歩きながらその時の事を話す。「…で、蒼星石は水銀燈先輩に何かお勧めの漫画のことを聞いていたようなのだわ」「お勧めの漫画!それは一体どんな漫画です?」睨んだ顔から一転して、興味津々の表情になる翠星石。言おうと口を開いた所で
(可愛い双子のお姉さんには、ちょぉっと相談できないような内容の漫画が見たかったのよねぇ♪)そんな水銀燈の言葉を思い出す。開きかけた口を閉じようとする。「真紅!知っているなら教えるです!」また肩をつかまれて、目を覗き込まれる。とても真剣な表情。「これは蒼星石のプライベートよ?彼女にも知られたくない事の一つや二つあるんじゃない?」「それはそうですけど…でも…それでも知りたいですよ。知らない間においてけぼりは嫌ですよ…」泣きそうな表情になる。あんな内容の本だし、買ったことを姉には知られたくないのではないか、と思わないわけでもないのだけれど。しかし、翠星石の珍しいこんな真剣な表情を見てしまっては、やはり答えないわけにも…と思ってしまう。…ごめんなさい、蒼星石。ため息をついて足を止めれば、折りしもそこは先日の本屋の近く。「仕方が無いわね…教えるから。…実物を見せるためにも本屋に行きましょうか」「真紅!ありがとうです!!」ぴょんぴょん跳ねながらついてくる翠星石を引き連れて、本屋の入り口をくぐる。そこは見慣れた広めの本屋。ずんずん歩いていった先には、コミックコーナーが広がっている。この前の棚に近づくと、そこには私が中身を覗いた、最後の一冊がまだあった。手を伸ばして、本棚から引っ張り出す。「それですか?」「…ええ。中身、見てみる?」言いながら手渡すが、しかし彼女は首を振り、開かず手に持ってレジへと向かう。
「家に帰ってゆっくり読むですよ!お楽しみは取っておくです!」言いながら、買った漫画をカバンへしまいこんで上機嫌で戻ってきた。そのまま本屋から出て歩き出す。夕日の照らす赤い道を、二人で一緒に並んで歩いた。「…本当に、中も見ないで買って良かったの?」「?さっきから気にするですね。…これ、変な内容の漫画です?」「なんていったらいいのか…」内容といっても…思わず口ごもる私をしばらくキョトンと見ていたが、翠星石は再び話し出した。「あの日、蒼星石は本を買って帰ってきてたです。本屋の紙袋をかかえてたですから。 何買ってきたですか?って聞いても教えてくれなかったですし、 食い下がったら…袋の真ん中から一冊だけ抜いて手渡してきたです。」「あなたね…それは明らかに見られたがっていないじゃないの…」「でも気になったですよ!掃除の時にこっそり本棚覗いても、それっぽい本はなかったですし…」「はぁ…少しは妹のプライベートも大事にしてあげなさい。」「わかってるですよぅ!ともかく、今日はありがとです!また明日です!」笑顔で分かれ道を駆けていく翠星石。まったく呆れた姉である。しかし姉妹のいない私には、そこまで気にしてもらえるというのは…少しうらやましくもあった。翌日。図書室のカウンターで、当番の水銀燈先輩と、返却がてら話していたときに…入ってきたのは蒼星石。「あ、先輩、真紅。」「こんにちはぁ。調子はどう?」「あ、えっと…なんていうか…」
なぜだか頬を赤らめて、蒼星石は視線をさまよわせる。「どうしたの?…翠星石と何かあった?」昨日、本の事をばらしてしまったのを思い出し、多少の罪悪感を感じながら聞いてみる。「え、えっと…何かあったといえばあったんだけど…その…」「蒼星石ぃ!」後ろから、降って湧いたように現れた翠星石が、彼女に抱きつく。「う、うわっ!やめてよ、いきなり…」「気にするなですぅ!昨日はあん…モガッ!」「と、とにかくありがとうございましたっ!二人とも!」「…二人とも?」私の問いには答えず蒼星石は、翠星石の口を塞いでそのまま引っ張っていく。翠星石が、途中ちらりと振り向いてブイサイン。良くわからないがうまくいった、ということなんだろう。あれはきっと。そうして、カウンターには良くわかっていない私と…面白そうに、にっこり笑って見送る水銀燈先輩が残されたのであった。「…先輩。あんまり考えたくは無いのだけれど…二人に何があったかわかったんですか?」「な・い・しょ♪」次回「薔薇水晶」
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