ぱたーんあお、くもりぞら
水銀燈と金糸雀が愉快な水族館で愉快な休日を過ごした次の月曜日の昼休みのことです。鞄をゴソゴソ漁る水銀燈を翠星石は急かすようにニヤニヤ眺めていました。そんな翠星石を眺める真紅は呆れ顔です。 「はい。お土産」やっと取り出したお土産を翠星石と真紅に手渡します。子供のようにはしゃぐ翠星石はなんとも可愛らしいものです。もちろん淑女の優雅さを振る舞う真紅も可愛いのですがね。 「あら、かわいいハンカチね。水族館のお土産としては合格点よ」「おお。ヒトデ型クッキーとはなかなかですぅ」「ただの星型よぉ?」水族館のお土産はなかなか好評です。全部金糸雀が選んだとは言いにくいので、水銀燈は黙っていることにしました。恐らくこれがイーブンってことでしょう。「にしても金糸雀が不登校になってからもう二か月ぐらいかしら」「金糸雀は元気だったですか? やっぱ家の方向が違うと会いに行きにくいですぅ」「元気に決まってるじゃなぁい。別に具合が悪くて休んでるんじゃないしぃ」甘ったるい独特の声色で水銀燈は答えました。心なしか楽しそうです。「梅岡先生も大変ね。教育委員会まで引っ張りだされて……もう少し考えて行動をしてくれればいいのだけれど」「アイツは自業自得よぉ。さっさと辞めればいいのよ」少し低めの独特の声色で水銀燈は答えました。心なしか機嫌が悪そうです。「ところで水銀燈、このクッキー食べていいですか?」そんな空気を読んでいるのかいないのか、翠星石はクッキーの缶を開けてから言いました。昼休みは終わり、授業も終わり、あっという間に放課後になりました。3人は家に帰らずお喋りを始めます。大半がテレビアニメ、探偵犬くんくんの素晴らしさについてです。「そうねぇ、やっぱり彼氏にするならくんくんみたいに夢を追う男の人がいいわぁ」「むしろくんくんなのだわ。この真紅はくんくんの許婚になってみせるのだわ!!」「馬鹿はほっとくとして……うーん、私は現実を見据えたイイ男が欲しいですぅ」翠星石がそう言うと、水銀燈は、ふふん、と挑発的に笑いました。真紅はどこか別の世界にインストールされてしまったようです。こうなるとしばらくは現実世界に戻っては来ません。 「随分と現実的なのねぇ」「現実的で堅実、安定した仕事を持つ人ってだけです。」「つまぁんなぁい。そんな腐りかけのキャベツの芯みたいな男つまらなすぎるわよぉ」「なんですか? その珍妙な喩えは」「あぁ、くんくん、ダメよ。ニンジンは私にはまだ早すぎるのよ」自分の世界に酔いしれる真紅を気にせず、ドシン、と水銀燈は机を強く叩きました。少し顔をしかめます。痛そうです。「そもそも翠星石、もう少し夢を追ったらどぉ? 貴女の妹みたいに」「あーんな勝手にひとりでイギリス留学しやがった妹なんて知らんですぅ」「くんくん大好き愛してるのだわだわ。」脊髄反射のように腕をブンブン振り回す翠星石の傍らで、やや棒読みに真紅がぶつぶつ何か言っていますが、水銀燈はそれに気がついたりはしません。人をからかっている時の水銀燈には雑音と同じなのです。 「そうねぇ、確かに蒼星石はそんなイメージあるわよねぇ。ひとりで勝手に行動してぇ――」「蒼星石の悪口は許さんですよ! イギリスから鉄拳制裁代理ですぅ」「キスは一日3回までよ、くんくん。」「ちょっ、まだ悪口じゃないわ。ポカポカしないでってばぁ」くんくんとの甘い生活の妄想に真紅が戻る頃には、翠星石と水銀燈はじゃれあっていました。仲良しなのはよいことです。そんな傍目には心地よい騒がしさが溢れる教室の中で誰かさんが似た者同士うるさいのだわ、とか思いましたが思っただけでした。色々終わってから思い返すと、確かにそのふたりはどこぞの双子によく似ていましたが、まだ終わってないのでよくわかりません。そんなある日のお話はこれでおしまいでしたとさ。よっつめ ぱたーんあお、くもりぞら おしまい
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