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2-4 坑内に踏み込んだジュンたちは、まとわりついてくる闇の濃さに閉口した。月光が射すのは出口の付近だけで、奥には圧倒的なまでの深淵が広がっている。まるで、おたふくソースに沈んでいくような……そんな錯覚に、息が止まりそうだった。 「気をつけろよ。どこから不意の襲撃があるか、分かったもんじゃないぞ」 何が潜んでいるやも知れない坑道を睨んで、ジュンが呟く。この、いかにもな風情の廃坑なら、酔狂な連中にとっては格好の遊び場だろう。だが、どれほど剛胆な者でも、照明なしには絶対に踏み込まないはずだ。ジュンとて、めぐの相棒と楽器を奪還するのでなければ、訪れたいとも思わなかった。 「静かね。留守番の盗賊って、案外さっきの1人だけだったりしてー」 場を和まそうとしてか、みつが、人差し指をピン! と立てて戯ける。……が、他の3人は硬い表情のままだ。冗談で和めるほどの余裕がなかった。坑道内から吐きだされる、そよ風ほどの気流は生暖かく、饐えた臭いを含んでいる。地下鉄を彷彿させる生活臭に、誰もが、盗賊の存在を近く感じて戦慄いていた。 「とにかく、進もう。ここに突っ立ってても、始まらないからな」 湿る岩壁に片手を滑らせながら、ジュンが、おずおずと足を進めた。この調子で、大がかりな戦闘もなく、楽器とメイメイを取り戻せれば御の字だが……。 それにしても、闇とは原始的だが安上がりな防御装置だと、ジュンは思った。何も見えないことで想像力が活性化され、闇の中に怪物の幻影を浮かび上がらせる。マイナスに働く暗示――いわゆる、ノーシーボ効果と呼ばれる代物か。 「気味が悪いね。なんだか……おばけでも出そう」 ジュンの背にしがみついて続く巴が、震えを帯びた声で囁く。 「あっれぇ~? 巴ちゃんって、もしかして幽霊が苦手だったりー?」「い、一般論を言ってみただけよ」 三番手を歩く姉御サモナーに冷やかされ、巴が心外だとばかりに語気を強めた。「心霊スポットっぽいから、つい……」 ここで怖がってみせるとか、もう少し素振りを考えれば、愛嬌ある娘になれるのだろう。けれども、巴は安易な思い付きで行動できるほど、向こう見ずではなかった。たとえ、いまが敵中でなかったとしても、自制心が強力に働いただろう。 共に旅する仲間として見れば、それは彼女の長所だと、ジュンは思っていた。多少、調子はずれた感はあるものの、巴の冷静さと慎重さには幾度か救われている。しかし巴自身は、それを思い切りの悪さ、意気地の欠如として、恥じている様子だった。 一縷の光明も見えない世界に、ざりざりと、素掘りの路面を踏む4人の足音が響く。その単調で疎ましいノイズを掻き消すように、みつが陽気に喋りだした。 「まあ確かに、鉱山って落盤とか漏水とかで、死亡事故は多そうだよねー」「実は亡霊でさえも、このテーマパークの見世物だったりしてね」「それは……さすがにないと思うよ、柿崎さん」「あははー。あたしとしては、幽霊ぐらい出たほうがスリリングで面白いんだけどー」 なにやら場違いな話題に花を咲かせまくりの乙女たちへと、「おまえらなぁ――」漆黒の中から、ジュンの脱力しきった声が投じられた。「ここが敵の真っ直中ってこと、忘れてないか?」 山歩き中のクマ避けに、自分たちの存在を知らしめるためならまだしも、奇襲こそが成否の鍵である場面で騒がれては、災いを呼び寄せているに等しい。 ここは盗賊の巣。いつどこで生命を狙われても、おかしくない状況だ。危機感と焦躁を露わにするジュンに、みつの緊迫感のない声が言う。 「まあまあ、焦らなーいのっ。この闇が不利に働きかねないのは、相手も同じよ」「――と、言うと?」「解らないかなぁ。要するに、こっちの人数を多く見せかけるってワケよ。 独りで留守番してるところに暴徒が山なして襲ってきたら、ジュンジュンはどうする? 無理に争うよりも、安全な距離を保つほうを選ぶんじゃない?」「場合にも因るけど……まあ、余程でない限り、いきなり反撃はしないな」 盗賊たちとて、普通の人間。状況も確かめず死に急ぐことは、しないだろう。地の利……抜け穴の位置も熟知しているのだし、窮鼠になる危険は、まずない。ならば、じっくりと侵入者を観察、分析して、駆逐する機会を窺うのがベターだ。少ない戦力で反撃を試みた挙げ句に全滅したら、元も子もない。 「こっちを大軍と錯覚させて戦意を挫ければ、無駄な戦闘をしなくて済むかもな」「でしょでしょー。それに、別のメリットも期待できるわよ。 あたしたちの声を聞いて、メイメイちゃんが返事してくれるかも知れないしね」「おお! そこまでの発想はなかった。さすがだな、みっちゃん」「やーまぁ、それほどでもぉー」 ジュンの褒詞に、満更でもない声を出す、姉御肌の赤貧サモナー。ここが明るい場所だったなら、しまりのない照れ笑いも見られただろう。しかし、少年の和やかな想像は、その後に紡がれた一言で、無残に凍りついた。 「ふーん。無駄に歳くってるワケじゃないのね」 発したのは、最後尾を歩く、薄幸にして冷笑的な吟遊詩人の女の子。すぐさま、「ほほ~ぉ」と、みつの乾いた笑いが返された。 「……めぐめぐ~。なにか言い遺すことがあるなら、聞いといてあげるけど?」「それじゃあ、パパに『死ね。氏ねじゃなくて死ね』って伝えといて」「柿崎さん、それは冗談にしてもマジキチだと思うな」 はたして、本当に冗談だったのやら……。言われた経験者として、ジュンはめぐの口調に、そこはかとなく本気を感じとっていた。その辺の機微は、同性である巴たちのほうが、彼よりも的確に察しているかも知れない。 囂しい乙女たちのやり取りに苦笑を浮かべた、その刹那――ジュンは踏み出した足裏に、奇妙な感触を覚えた。有り体に言えば、硬いはずの岩盤が、ぬるりと沈み込んだ。 まさか、対侵入者用のトラップか?! それとも穴居型のモンスターを踏んだ?ジュンの背筋を、戦慄が走った直後、いきなり真昼のような光が浴びせられた。それを遮るべく、誰もが咄嗟に手を翳した、その向こう――彼らが指の間から覗いた先には、燃え盛る篝火の列と、ふたつの大柄な人影があった。 「くそっ! 待ち伏せか?!」 ジュンの悪態を掻き消すように、どこからともなく音楽が流れ出してくる。それも、聞く者を威圧するかのごとき、おどろおどろしくも勇ましげなオーケストラだ。坑道という閉塞空間において、肺腑を震わす音響効果は、重厚そのもの。 「な、なんだよ、この音楽はっ!」「これ……バットマン・ビギンズのメインテーマだわ」 めぐが即答する。さすがに吟遊詩人。ジャンルを問わず、音楽については明るいようだ。それにしても、どうしてバットマンなのだろう?洞窟と言えばコウモリ。ちょっと捻ってバットマン! そんな安直な発想からなのか。改めて立ちふさがる人影に目を注いだジュンは、思わず叫んでしまった。 「こ、こいつら人間じゃねえっ!」「見れば分かるってば、ジュンジュン。これ、着ぐるみよね」「いや、そこでマジレスされると、僕の立場はなんて言うか……セガサターン・シロ」「そのセリフ、言ってみたかっただけなんだよね、桜田くん?」「……うん。正直すまんかった」 女の子3人に冷たい視線を浴びせられ、ジュンは身悶えながら、手をひらひらさせた。「まぁ、こまけぇこたぁいいんだよ。それよりも――」 気を取り直して、少年は坑道に立ちふさがる着ぐるみを見上げた。彼に倣った乙女たちも、どうしてこんな物がと、首を傾げる。 「わたし、野球のことは詳しくないんだけど」最初に口を開いたのは、めぐ。「これって、球団マスコットじゃなかったっけ?」 「正解だ。ジャビット君と、トラッキーだよ。廃坑で呉越同舟なんて皮肉だな」「でも、なんで球団マスコットが置いてあるのかしらね?」「そりゃあ、柿崎。ダジャレだろ、きっと。バットマンには違いないしさ」 吐息混じりにジュンが言うと、3人娘は揃って、「あぁ!」と手を叩いた。どうやら、彼女たちの理解が及ぶには、ネタが低レベルすぎたらしい。 「たぶん、テーマパークの設備だったんじゃないかな? ほら、よくあるだろ。 蝋人形で、当時の作業風景を再現したディスプレイ」 ジュンは、小学校の修学旅行で訪れた、佐渡島の金山資料館を思い出していた。あそこに展示されていたのとは毛色が違うけれど、それに近いモノなのだろう。鉱山と野球……脈絡がなさそうで、実は、なにか深い関連が隠されているのかも。 「ないない、そんなの。あー、鉱山テーマパークが潰れた理由、解る気がするわー」「みっちゃんも? 実は、私も……」「ミートゥー」 乙女たちの口さがないお喋りに、ジュンも「だよな」と同意する。そればかりか――「大体さ、僕は前からジャビット君のデザインが気にくわなかったんだよね」などと言いながら、ジャビット君の頭を竹刀でバシバシ叩きだした。すると突然っ! 予期せぬ出来事がっ! 「う゛ぼおおおおおおおおっ!」 着ぐるみが雄叫びを上げて、動き出したではないか。これには一同、度肝を抜かれた。なんの根拠もなく『中に誰もいませんよ』と思い込んでいたのだ。 「それがまさか、自動人形のガーディアンだったとはな」「ちょっと迂闊すぎたね。どうするの、桜田くん?」「どうするったって――」 竹刀を構えながら、ジュンは近づいてくる着ぐるみたちを睨んだ。ジャビット君とトラッキーは満面の笑顔で、にじり寄ってくる。その手には、どこに隠していたのか、これ見よがしに釘バットが握られていた。
あんな物で殴られたら、大怪我は必至。最悪、死んでしまうかも知れない。けれども、男子として、女の子たちには怪我をさせられない。ここは、いよいよ覚悟を決めて、肉のカーテンになる時がきたのか――震える顎にチカラを込め、ジュンが雄叫びと共に斬り込もうとした、次の瞬間! 「リボルビーングっ」 みつの凛とした詠唱が洞内に響きわたり、バブシュー! と、白煙が広がった。けれど、そこにイッシュ・カーンや、お自動さんの姿はない。目眩ましだろうか。自動人形に効果があるかはともかく、さすがの機転だ。 「いまよ、みんな! 走り抜けて」「よし! 柏葉は、柿崎を連れて先に行け。僕が、しんがりを務める」「分かった。桜田くんも、気をつけてね」「うん。さあ、急げよ。みっちゃんも、早く!」 乙女たちが去って間もなく白煙は晴れたが、着ぐるみたちはキョロキョロしていた。急に目標を見失ったことで、一時的に混乱したのだろうか。やがて、人形はハッ! と互いの顔をまじまじと見つめ合うや――いきなり釘バットを振り上げ、互いの脳天に打ち下ろした。それで、すべて終わり。 「因縁の対決は、これで幕引きか……。ともかく、共倒れになってくれて助かった」 ジュンは、篝火から火の着いた薪と釘バットを手にすると、足早にその場を離れた。先行した乙女たちとは、すぐに合流できた。 「あ、きたきた。大丈夫だった、ジュンジュン?」「なんとかね。みっちゃんたちは?」「平気よ。巴ちゃんも、めぐめぐも」「よかった。急に走らせたから、柿崎が体調を崩さないか心配してたんだ。 ところでさ、さっき召喚したのは、なに?」「え? 『むじんくん』だけど」「……マジ有り得ねえ。いっそ姿を消してくれれば楽できたのに、使えないな」「あ、あぅ……。そんなイジメないでよー」 それなりに利便性の高い術になると、術者にも高いレベルが要求されるのだろう。みつは、残念ながら、まだそのレベルではないようだ。巴が話していた『クラスチェンジ』とやらが、必要なのかも知れない。 「まあまあ、桜田くん。事なきを得たんだし、結果オーライでいいじゃない」「……それもそうか。あ、そうだ柏葉。これ渡しとくよ、護身用に」 言って、ジュンが釘バットを差し出す。「素手とか、壊れた竹刀よりは心強いだろ」巴は躊躇いもなく受け取って、にこりと微笑んだ。 「気にしてくれてたんだね。ありがとう……遠慮なく使わせてもらうね」 柏葉巴は『釘バット』を装備した。攻撃力が、500上昇した。 ~ ~ ~ その後、さらに坑道の奥を目指す彼らの前に、分かれ道が横たわっていた。いつかは分岐が現れるはずと覚悟はしていても、いざ前にすると悩むのが人の常。 「どっちに行ったらいいんだよ、これ」 先頭に立つジュンが、独りごちた。坑道は二股に分かれ、奥に続いている。しかし、効率重視と称して別行動をとるのは、浅慮に過ぎる。この状況での戦力分散など、自殺行為と大差ない。 どうするべきか――ジュンが振り返って、意見を訊こうとした矢先。 「しっ!」めぐが鋭く言って、掌で耳に笠を作った。「いま……声が聞こえたわ」 他の3人も即座に、めぐに倣って耳を澄ませた。すると、反響によって不明瞭ながらも、人の声らしき低音が聞こえた。単なる風洞の唸りだろうか? 更に、聴覚に神経を集中すると…… 「メェ~イメェ~イちゃぁ~ん。あ~そび~ましょ~」 やたらと間延びしてはいるが、確かに、男性と思しい声が、そう言っている。盗賊の仲間だろうか? 常識的に考えるなら、その公算は大だ。声が届くからには、彼我の距離も、そう遠くないはずだ。 「あっち! あっちから聞こえてくる」 めぐの聴力は、誰よりも先に、進むべき道を探り当てた。そちらに向かって走り出そうとする彼女の腕を、ジュンが掴んだ。 「痛いわね! 離してよっ!」「独りで先走るなよ、柿崎。罠かも知れないだろ」「だって、メイメイが――」「落ち着けって。気持ちは解るけど、だからこそ焦りは禁物だ」 めぐは、なおも言葉を返そうとしたが、キュッと唇を噛んだ。物事は詰めが肝心。成功したければ、最後まで慎重を期すべきだった。 松明がわりの薪を持ったジュンを先頭に、声のした坑道を進んでいくと、奇妙な構造物が現れた。余った支保工を流用したらしい格子の填った横穴が、坑道の両脇に、一定間隔で並んでいたのだ。その数、およそ10ほど。 「これって……牢屋だよな?」 どうやら、古い採掘跡を、岩牢に転用したらしい。身代金目当ての誘拐も、盗賊たちの重要なシノギだと聞いているから、ここは、そんな目的で連れ去られた人々を監禁しておく場所なのだろう。メイメイが囚われている可能性が、一気に高まった。 早速、4人で手分けして、それぞれの牢を見て回ると―― 「きゃぁっ?!」 突如としてあがる、黄色い悲鳴。声の主は、よほどビックリしたのか、口元を手で押さえて棒立ちしていた。最も近くにいたジュンが、すぐさま駆け寄って訊ねた。 「どうした、柏葉!」「ささ、桜田くん……あ、あれ……」「ん? なんだよ?」 ジュンが、火のついた薪を翳して、巴の指差す岩牢のひとつを覗き込む。すると、ぬらぁり。牢の奥の暗がりで、黒い影が蠢いた。なにかが居る! さらによく見れば、黄色っぽい、顔らしき物が確認できた。黒い体躯に、黄色い顔――『千と千尋の神隠し』のカオナシを彷彿させる姿。 もしかして、これがメイメイ? ちっとも可愛くねえ!めぐの説明から、同級生の雛苺みたいな容姿をメイメイに重ねていたジュンは、あまりにもイメージとかけ離れた醜悪さに、顔を歪めた。そんな彼の隣りに、期待に瞳を輝かせためぐが並んだ。「見つかったの?」 めぐは両手で格子を握り締めて、牢の奥に呼びかける。「メイメイ! わたしよ! 助けにきたわよ」 その呼びかけへの反応は、速やかだった。カオナシもどきの胴から、電光のごとく黄色い小動物が飛び出してきたではないか。猫ほどの大きさのソレは、格子を挟んで、めぐと向かい合った。 「メイメイっ! ああ……よかった。こうして、また逢えるなんて夢みたい」「なあ、おい、柿崎。それってさ……」 嬉々として格子の間に手を差し入れ、メイメイを撫で回すめぐに、ジュンが訊ねる。「あの有名な電気ネズミだよな?」 そう。めぐが撫でているのは、あまりにも有名な生き物。ボケッとモンスターの電気ネズミだった。ご丁寧にも、メイメイと刻まれた首輪を下げているので、まず間違いなかろう。 「見つかったんだー。よかったね、めぐめぐ。 それじゃあ早速、格子を壊しちゃおっか。イッシュ・カーンにお願いね」 みつに召喚されたゴリマッチョな巨漢が、飴細工のように格子を捻り曲げる。その隙間から抜け出たメイメイを、めぐは両手で抱きしめた。とても幸せそうな表情で、電気ネズミの和毛に頬を埋めている。 しかし、そんな感動の再会を喜ぶ4人に、「あのぉ~」怯えの滲んだ男の声が、控えめに話しかけてきた。「僕も助けてくれませんかぁ~」 洞窟の闇が感染したかのような、陰気な口調。それは紛れもなく、先刻、メイメイに「遊ぼう」と話しかけていたのと同じ声だった。岩牢に眼を向ければ、さっきのカオナシもどきが身を起こし、ジュンたちを見ていた。 「僕も、盗賊に誘拐されて、閉じ込められてたんですぅ~」 また、おかしなのが出てきたな。口元まで込みあげた罵声を、少年は別のセリフに置き換えた。「おまえ誰だ? なんで、電気ネズミのお面で顔を隠してんだよ」 カオナシもどきは、ジュン同様、真っ黒のローブに身を包んでいた。顔には、縁日の屋台で売ってそうな、電気ネズミのお面。 「いやぁ~、実は僕、人見知りなもんで。素顔を見せられないんですぅ~」 いちいち鬱陶しい喋り方をする輩だ。声質から察するに、若い男らしいが……。これ以上の会話に嫌気が差して、ジュンは、ぶっきらぼうに言った。 「まあ、いいや。でも、取り返す物があるんでな。助け出すのは、その後だぞ」「ちょっと、ジュンジュン。そんなアッサリ信用しちゃっていいのー?」「状況が状況だけに、やむを得ないだろ。困ったときは、お互い様だしな」「ああ……ありがとう。親切な人たちに巡り会えて、僕はなんて幸せなんだ」 カオナシもどきの男は言って、ジュンに右手を差し伸べてきた。 「僕のことは、マブダチと呼んでください~。ええと……ジュンジュン?」「ジュンだ。桜田ジュン」「わ~、いい名前ですねぇ~。では、ジュンくん。よろしくお願いします~。 ところで、なにを取り返すんですか~?」 ジュンからここに至った経緯を聞くや、マブダチは手を打ち鳴らした。「あ~。お役に立てるかも知れません~。それらしい物に見憶えがありますよ~」 本当だろうか? それが事実ならば、大幅な時間短縮になる。信じる者は救われるとも言うし、ジュンたちは、マブダチに案内を頼むことにした。 実のところ、ジュンも乙女組の3人も、早く洞窟から出たくて仕方がなかったのだ。
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