いつも偉そうな貴方
「抱っこ」
最近は発言が投げやりでもある。真紅のお願い、もとい命令は面倒くさいのか簡潔に言うのだった。「はいはい」と僕は真紅を抱えて椅子に座る。テレビもついていないし、窓の外から特に何かの音もない。鳥の姿も見えず、BGMもなしでゆったりとしていた。いつからか静かな間で気まずくならず、幸せを感じるようになった。
「最近はぐーたら姫になりましたこと」
そんな事を言うとぷくーっと真紅は膨れ上がった。そっぽを向いて目を合わせてくれない。しかし従順に静かに抱かれているのだから可愛いものだ。という訳で静かに頭を撫でる事にする。……なんだかお姫様というよりも猫のように思えてきた。
「真紅ちゃん」「へ?」
猫を呼ぶような感じで真紅に囁く。戸惑う真紅に理由を説明すると、噛まれた。僕の顔に自分の顔を近づけてきたのだ。そうして僕がどきどきしている時に鼻をがぶりと。全く痛い。
「何すんだ」「からかうからよ」
生意気なお嬢様なこった。
「来なさい」
そう言って真紅は自分の部屋へと僕を招いた。おとなしくついていく。綺麗に整理された部屋、優しく匂わせる香りが心を和ませる。女の子って感じだなー。
「はい、じっとするのだわ」
真紅は机から何かを取り出したと思うと僕の顔の前につきつける。絆創膏である、僕は大人しく貼られる。
「怪我してたのかよ」「ちょっと血が出てたのだわ」「ひどいことしてくれる」
逆に今度は僕が頬を膨らました。人差し指で強く頬を突いて来るので空気が抜けてしまった。ちょっとむかついたので人差し指に噛み付いてやった。ちゃんと優しく。びくっと指を咄嗟に引っ込める動作が可愛くてつい笑ってしまった。
「やらしい」
そうさやらしいさ!まぁそんな事はいい、互いに暴れるのも疲れるので必然とおとなしくなった。真紅がコンポの電源を付け、タイトルも知らない曲が耳の中を流れていった。心が落ち着くようなメロディーで、静かに語りかけてくるように感じた。 何やら僕には理解できない言語で構成される本を読んでいる真紅の背後に立つ。そして抱きしめてみた、こういう不意な動作にはいつまでたっても慣れないのか体を一瞬震わせて、おとなしくなった。真紅は本を読んで、僕は抱きしめる。壁掛け時計の秒針の音も交えたBGMだけが室内の音。甘くおとなしい時間である。
「で、最近なんだか一言のみってのが多いよな」「そうかしら」「そんな感じそんな感じ」「あまり意識してないのだわ」
「けど」と一息置いて口を開く。
「気持ちは伝わっているでしょう? 」「全くその通りで」
言葉とは表現するためのものであって、ある種大切なものでないのだ。純粋な気持ちが密接していればそんなのどーだっていい。あ、そんな感じで喋るのも考えるのも面倒くさくなるわけか。成るほど!
「静かな真紅は不気味だけどな」「あら、私はおしとやかなのよ」
軽く流す。確かにそうではあるが自覚されるとなんか変な感じである。やるせない気分というかなんというか。こんな感じで長い時間をたまに僕が頭を撫でたり、真紅が頭突きしたりで過ごした。首筋を噛んでみるとまたも体を震わせた。 「うー、苦手なのだわそういうの」「順応したらどうだい」「貴方と同じよ、中々慣れないの」
そう言った後、小声で真紅はうるさいと言った。そんなに口うるさいような事を言っただろうか。怒ったのかな、そんな事を僕は暫く考えていた。首がだるいので顔を肩に置いて問うてみる。
「そんなにうるさかったかな」「今もうるさいわ」「へ? 」「心臓、ずっとどきどき言ってうるさいのよ貴方」
思わず顔を肩から離して自分の胸元を見てみる。そして手を当てて、どきどきしている事に気付いた。うん、色々と慣れないのは真紅だけじゃないらしい。真紅といつも傍に居るのにこんなにどきどきしているとは。どきどきが止まらない、という感じか。
「背中に当たってるだけでわかるもんなのかい」「どうでしょうね」
食えない返し方をしてくれる。ちょっと真紅を抱いてる腕の力を強める。そうしてると暫くして「痛い」と一言呟いてきた。
「けど悪くないだろう」
そう言ったが返事はなかった。だが、暫くして恥ずかしそうに言った。
「ばーか」
たどたどしく何時も言わないような事を言うので、僕まで恥ずかしくなるのだった。
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