・今そこにある未来 編
20.【穏やかな】【微笑みを】 「ひどい顔してるね」 私を見つめながら、蒼星石が言った。だから、私も彼女の鼻先に、指を突き返した。「蒼星石だって、窶れてるですよ」 「目元にチカラが感じられないです」「キミだって、他人のことは言えないでしょ」 その自覚はある。運営委員に選出されてからというもの、心身ともに憔悴気味だ。不慣れな環境で、慣れない役目を全うしようと思えば、当前の反応だろう。眉間になじみつつある縦皺が気になって仕方がない、今日この頃だ。 「でも……休むワケには、いかないです」もう一人の委員である水銀燈先輩に、私の分まで負担をかけられない。すべてを投げ出して逃げるなんて醜態を曝すのは、私のプライドが許さなかった。蒼星石だって、私が無様な真似をすれば怒るに決まっている。 「なぁに、この程度のこと、余裕のよっちゃんイカですぅ」口にしたのは、気持ちを奮い立たせるための空元気。そんな私に、「そう言うと思った」と、蒼星石が微苦笑を投げかけてきた。 「強がるのもいいけど、あんまり無茶しないようにね」「解ってますです。蒼星石、お姉ちゃんを見くびるんじゃねーですよ」 存続を訴える活動で入院なんかしたら、有栖川荘にとってマイナスイメージになる。それに、もしそんなことになれば、私は実家に連れ戻されてしまうだろう。だから、心配ない。そう言って笑いかけると、蒼星石も――鏡に写った私も、笑みを返してくれた。 くだらない独り芝居。重圧による心細さを誤魔化そうと、陳腐な演技をしただけ。でも、本当に蒼星石とお喋りできた気がして、私は少しばかりの安らぎを覚えていた。
なぜなの、涙が止まらない。こんなことで、いいのかしらん?
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。