【繋いだ手と手】
はぁ、僕って魅力ないのかな?何で双子なのにこうも違うのだろう。女の子らしい翠星石とは正反対だ。「はぁ…」思わずため息がもれる。翠星石だけじゃない、水銀燈に真紅、雛苺。みんな個性的な魅力を持っている。それに引き換え僕はどうだ?髪は短いし、言葉使いだって決して女の子らしいとは言えない。僕っ子だなんて世間では言うけれど、それは褒めているの?僕だって直したほうが良いと思うけれど長年の癖がそう簡単に直るものじゃない。「はぁ…」本日二回目のため息。ため息をすると幸せが逃げると言うけれど、このままだと幸せが全部逃げてしまいそうだ。「そろそろ帰ろう」ネガティブ全開な気分を変えようと帰り支度を始める。姉の翠星石は大事な用があるからと先に帰ってしまい、今日は珍しく一人で帰宅だ。運動部の声が聞こえる誰もいない教室から、逃げるように帰ろうとするとがらりと扉が開く。「お、蒼星石じゃないか。翠星石と一緒じゃないのか?」「やぁジュン君、翠星石なら先に帰ったよ」桜田ジュン。特に目立つような人ではないけれど、優しくて細かな気配りが出来る人。僕の片思いの人。「そっか、なぁ蒼星石。一緒に帰らないか?」どきりと、胸が高鳴った。「…うん、いいよ」「よし。じゃあ行こうか」「うん!」正直かなり驚いた。ジュン君から下校のお誘いがあるなんて。ジュン君は誰隔てもなく優しい、みんな平等に優しいから一人だけ特別にって事はしない。女の子からお誘いは受けるけれど、ジュン君から誰かを誘うなんて見たことなかった。ふふっ何だか嬉しいな。さっきまでの沈んでいた気持ちがまるで嘘のよう。「うう、寒いな」「うん、もう冬って感じだね」外に出ると風がひゅうっと吹き抜け、寒さを余計に感じさせる。「なぁ蒼星石、ちょっと時間あるか?」「うん、特に用事もないし大丈夫だよ」「よし。じゃあ、ちょっと走るぞ!」彼はそう言うと急に走り出した、慌てるように僕も彼の後を追う。「ジュン君、ちょっと待って!」以外にもジュン君は足が早いみたいだ、油断すると距離を離されてしまう。「暗くなる前に目的地に着きたからね。そうだ、競争しよう。蒼星石が僕に触れたら勝ちだ」ジュン君は明るく宣戦布告してくる、目的地を知らない分僕が不利な気がするけれど勝負に乗ることにしようか。「もう…僕が勝ったらジュースでも奢ってもらうからね」「わかった、僕に追いついたら…ね!」ジュン君がスピードを上げる、僕も負けじとスピードを上げた、正直スカートで走るのは恥ずかしいけれど。商店街を抜け、いつもの登下校の道から少し山のほうへ抜ける。「ねぇジュン君、いったいどこが目的地なのさ?」少し息があがってきた、全速力で走ってはいないけれど、もう結構な距離を走っている。「この坂道を登ればそこが目的地だよ、ほらもう少し」ジュン君も状況は同じみたいだ、ゆるやかな坂道があと残りわずか。二人そろってラストスパートを掛ける。僕とジュン君の差はほとんど無い。一歩、二歩とどんどんとジュン君の背中が近づく。「届いてっ」最後の一歩をぐんと詰めて、ジュン君の肩を目指して手を伸ばす。ここで届かなければ僕の負けだ。とんっとした衝撃とジュン君のうわぁという声。僕が肩を押した衝撃でバランスを崩したのだろう、ジュン君は前のめりに転んでしまった。「ああっごめんジュン君!大丈夫?」僕が慌ててジュン君の顔を窺うと。「くくっ…あははは」笑っていた、しかも大声で。つられて僕も笑ってしまう、よくみると葉っぱが顔中に付いて、ひどい有様だ。「あー疲れた、しかも負けちゃったし、本当に蒼星石は足が速いな」「そんなことないよ、ジュン君も速かったよ。僅差だったしね」これは本当だ、あと一歩の差だったし、僕の手が届かなかったかもしれない。「それで、ここが目的地なの?」「そうだよ、僕のとっておきの場所。ここからの景色が綺麗なんだ」見てごらんと言われ気づいた、回りを見渡すと緑、赤、黄色が織り成す自然の絵画のよう、僕は思わず、わぁと声をだしてしまう。「すごいだろ、この時期しか見れないんだ」「綺麗だね、この季節ならではの楽しみってやつかな」本当に綺麗だ、ちっぽけな悩みなんて忘れてしまうほどに。「ジュン君はどうして僕をここに連れてきてくれたの?」「蒼星石が最近落ち込んでるように見えたからかな」核心をつかれ、僕はどきりとしてしまう。「何があったかはわからないけどね」彼は優しく微笑む。僕を安心させてくれる笑顔。大好きな人の笑顔。ジュン君は僕を元気づけるためにこの場所に連れてきてくれたのだろう。自分のとっておきの場所に。「悩みがあったら聞くよ?僕が嫌なら翠星石に相談してもいいし」「…」言葉が出てこない、僕はどうしたら良いの?ここでジュン君に話してもいいの?自分の気持ちを。どのくらいそうしていただろう、数秒かも数十分かもしれない、ちょっと居づらい雰囲気。「あ!ごめん、蒼星石。変なこと言っちゃって、僕じゃ役不足だよな」「え?」僕は気づいた、自分が泣いているのを。「ごめんな、寒いのにこんな場所まで連れてきちゃって。もう帰ろうか」ジュン君はくるりと背を向けると坂に向けて歩き出そうとする。誤解を与えたままで良いの?良いわけがない。どうするの?ジュン君の気持ちに答えたい。…頑張れ僕。「ジュン君、待って!」僕は精一杯の声を出してジュン君を呼び止める。勇気を出してジュン君の名前を呼ぶ。「ずっと悩んでたんだ、ジュン君の周りには可愛い女の子ばかりで僕はどうしたらいいのかずっと悩んでた」「蒼星石…」「ジュン君に気持ちを伝えてもいいのかな、女の子っぽくない僕がジュン君を好きになってもいいのかなって」また涙が出そうになる。もう少しだから、もう少しだけ頑張るんだ。「でも、もうウジウジしない。僕はジュン君のことが…ジュン君の…ことがっ…」我慢したのにまた涙が出てくる、泣かないように頑張ったのに、ジュン君の前なのに。「もういいよ蒼星石。もう頑張らなくてもいいよ」優しいジュン君の声。どんな顔をしているかは涙のせいでよくわからない。「僕も鈍感って言われるけれど、蒼星石もだいぶ鈍感だな」ふふっと笑うジュン君。「好きな子に泣きながら告白されたんだから、僕もそれに答えないといけないな」「え?」どういうことだろう、よくわからない。頭の中が真っ白だ。「君が好きだ蒼星石。僕と付き合ってくれないかな」それは僕がさっき言うはずだった言葉。それをジュン君が僕に伝えてくれた。「…ジュン君」「さぁもう帰ろうか、体が冷えてきちゃったよ」ジュン君はそっと右手を僕に差し出してくれる。「ありがとうジュン君。僕もジュン君が好き…です」僕は笑顔でジュン君の手を受け止める。ジュン君の手はとても暖かくて、心まで暖かくなってくるようだった。落ちる太陽を背に向けて、僕たちは手を繋いで歩き出す。Fin
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