この町大好き!増刊号20
『大は小を兼ねる』と言いますが……それは裏を返さば、小さいという事を軽く見てる事かもしれません。人それぞれ、好みや悩みも有るでしょうが、それでもままならぬのが人の世の常。こればかりは、卑しい兎の身にはどうしようもありません。………何の話か、と?クックック………無論、おっぱいですよ。そうそう……そう言えば、こんな話を聞いたことがあります。『大きなおっぱいが存在する訳は…その中に夢や希望が詰まっているから。 そして、小さなおっぱいは存在する訳は…周囲に夢や希望を分け与えているから…… 』もし、それが本当なら……世界の狂気がこの程度で収まっているのも……あるいは、胸の小さな彼女のお陰かもしれません……クックック……◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 世にも奇妙な コノマチダイスキ! 2 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 風呂上りで、バスタオルを素肌に巻いただけの真紅は、日課となっているコップ一杯の牛乳を飲み干した。そして自分の部屋に戻ると、寝巻きへと着替え始めた。着替えの途中……真紅は一糸纏わぬ姿で、鏡に向かい合う。シミ一つ無い、美しく細やかな肌。余分な肉は一切無い、しなやかな体。そして……胸部に広がった、凹凸の無い……「…クッ…! 」そこまで見渡して、真紅は涙を堪えながら視線を逸らした。何故、こんなに平らなのか。毎日の牛乳を欠かした事はない。バストアップ体操もしてるし、怪しげな通販にまで手を伸ばした。だというのに…何故、この胸は膨らまないのか。真紅は自分で自分の事を、美しく、頭も良く、気品に溢れており……つまり、完璧なレディーだと自負していた。ただ一点……女性らしさを微塵も感じさせない、この胸を除いては。それだけに、悔やまれる。それゆえに、努力もした。だがその結果は……先ほど視線を逸らしてしまった、この胸に張り付いたまな板。真紅は鏡で自分の胸を見ないように注意しながら、寝巻きへと着替える。そして着替えも終わり、明日の学校の準備でも……そう思いながら鞄を開き……見慣れぬメモが一枚、ひらりと地面に落ちた。 「…何かしら? 」首をかしげながら、真紅は身をかがめてそれを見てみる。そこに書かれていたのは…記憶には無いが、自分の筆跡で走り書きされた一つのURL。インターネットのホームページアドレスだった。「…こんなの…書いたかしらね…? 」疑問に思うも、自分の筆跡であるという事実が、それ以上の思考を中断させる。「……とりあえず…見てみれば分かる事ね… 」そう呟きながら、真紅は机に置かれたパソコンへと進んでいった………◆ ◇ ◆ ◇ ◆『ラプラス科学研究所』全く可愛くない兎のマスコットキャラが飛び交う、怪しげなホームページ。そんな、限りなくブラクラに近い画面を…真紅は目を血走らせながら見ていた。『 当研究所が研究の末に開発した、この『トンでもボイ~ンZ』は、控えめな胸にお悩みのお客様に……… ……形状は指輪を模したアクセサリーで……… ……詳細は企業秘密の為、これ以上お教えする事は出来ませんが……… ……代金は、ご使用後一週間以内に、「満足のいく結果になった時」のみ、下記の振込先に…… 』先述したが、真紅は決して馬鹿ではない。これが明らかに怪しいのは分かっている。ただ……その支払い方法からも窺える、商品に対する圧倒的な自信。その上、値段も…これまで試してきた通販グッズに比べると、格段に安い。お小遣いでも十分に買える額だ。正直、商売として成立しているとは……とてもじゃないが、思えない。そうは思うけれど……「ふ…ふふ……うふふふ……買い…ね…… 」話題の種にする為。そう、これは軽い冗談。自分にそう言い聞かせながら、真紅は『購入』と書かれたボタンをカチっとクリックした……と。『ありがとうございます』という文章の書かれた画面に飛び……送り先や氏名を入力する画面は ――― 出てきて然るべき画面は、いつまで経っても出てこない。これでは…手元に商品が届くわけがない。「……全く!タチの悪い冗談なのだわ!! 」真紅はインターネットにまで胸の事をおちょくれれたと思い、激昂しながらパソコンの電源を切る。そしてふてくされた表情で、さっさとベッドに潜り込んだ。◇ ◇ ◇翌朝……リンリンと鳴る目覚まし時計をパチッと止め、真紅は目を覚ました。そして、寝起きでしぱしぱする目元を、ゴシゴシとこすり……―――― 「―――…あら? 」見覚えのない、お世辞にも可愛いとは言い難い…むしろ、恐ろしげな竜にすら見える。そんな指輪が、自分の指に嵌っている事に気が付いた。お父様が、寝ている間にプレゼントでもしてくれたのだろうか?いや、それにしては…「…趣味の悪い指輪ね… 」真紅は小さく呟き、指輪を外そうと引っ張ってみる。だが…まるで指輪は、指そのものから生えてきたかのように、外れない。指と指輪が一体化?そんな非現実的な事、ある訳が無い。今度こそ。もっと力を込めて…!そう思い、胸の前まで手を持ち上げて、真紅は全力で――――!! ぽにょ「………え? 」何だか不自然な感触が腕に当たり、真紅は素っ頓狂な声を上げた。まさか……いや、でも……ひょっとして……恐る恐る、手を自分の胸に当ててみる。 ぽにょ「きゃあ!? 」驚きのあまり、真紅はその場で飛び跳ねた。そのままベッドから飛び降り、部屋に置かれている鏡に飛びつく。 「……あ……あぁ……そんな…… 」声が震える。膝もガクガクするし、熱いものがこみ上げてきて視界が滲む……。鏡に映ったその姿は……これでもか!という程の巨乳美人だったのだわ!!(本人談)◇ ◇ ◇制服姿で登校する真紅は、とっても幸せそうな表情でスキップをしていた。実際、長年の悩みでもあった貧乳とオサラバ出来た喜びもあるのだが……スキップする度に、ボイ~ンボイ~ンと跳ねる自分の乳が楽しくって仕方なかった。あーもう!生きてるって楽しいな!!真紅は膨らんだ胸にいっぱいの希望が詰まっているのを、心から実感していた。ついつい、笑みがこぼれてしまう。いや、それどころか……「うふふ……ふふふふ……… 」笑顔を浮かべる少女の目の端から、キラキラと小さな滴が風に舞う。彼女は今、泣くほど嬉しかった。◇ ◇ ◇ 大きな胸をたぷたぷ揺らしながら、真紅は教室へと入る。昨日までとの、あまりの胸の大きさの違いに…クラスはざわ…ざわ…と、異様な雰囲気に包まれた。(こんなものは、3日もすれば収まる事。でもこの胸は…一生のトレジャーなのだわ…! )真紅は自分にそう言い聞かせながら、自分の席に着く。そして、授業の用意にと鞄を開け……再び、自分の筆跡の、記憶に無いメモが鞄の中に入っている事に気が付いた。『 大きな胸は、中に希望と夢が詰まっているから。 小さな胸は、周囲に希望と夢を与えてるから。 小さな胸が一つ無くなるという事は、それだけ世界から希望が失われるという事 』気味が悪い。何故……記憶に無いが、書いたのは自分自身だろう。筆跡がその証拠。…何故、私はこんなメモを書いたのか。真紅は眉間に皺を寄せ、いぶかしげな表情で、考え込むように腕を組み…… ぽにょその感覚で、まあいいか、と思い直した。◇ ◇ ◇そんなこんなで…当然、突然の変化にトラブルも有ったが……それでも、大きな問題も無く数日が過ぎた。だが、その内に……真紅は異変に気が付いた。 ニュースでは、異常気象の発生が取り上げられる。原油価格の高騰は、もはや世界経済にパニックを起こさせる程に。世界情勢も不安になり、テロ対策という名目で、各国間の関係はピリピリしてきた。金曜ロードショーでは『コマンドー』ばかり放映され、第三次世界大戦の予感が広がる。それもこれも……胸が大きくなって以来、ほんの数日で。「………私には…関係無い事よ…… 」真紅は高級メロンのように立派な胸を切なそうに押さえながら、新聞を悲しげに眺める日々を送った……◇ ◇ ◇そして……そんな日々を送るうち……事件は起こった。その日も真紅は、いつもと同じように学校に行き、すっかり彼女の胸にも慣れたクラスメイト達と談笑していた。何の変哲も無い平和な学園生活。今日も学園は、平和だった。この時は、まだ……◇ ◇ ◇異様なまでの静寂で、耳が痛くなる。限りなくそれに近い…何か、異質な空気。何の前触れも無く、世界に―――町に―――そして授業中の教室に、広がった。ざわざわしていた教室は…誰もが、その妙な空気に気付いたのだろう。隣の席の子と話をしていた生徒は不意に言葉を止め、ノートをとっていた生徒の手がピタリと止まる。―――― その瞬間、空気が震えた。いや、それは厳密には空気だけではなかった。大地が砕けたのかと思うほどの揺れ。窓が割れ、天井からは蛍光灯の破片が降り注ぐ。鉄とコンクリートで出来た校舎に亀裂が走る。それは……世界の終焉を知らせる地震だった……◇ ◇ ◇「…………ぅ……ぅぅ…… 」真紅は…背中に広がる硬い感触で目を覚まし…自分が気を失っていた事に気が付いた。体を起こし、周囲を見ようとしてみるが……薄暗くて何も見えない……。「……どういう…事なの…… 」呻くように、そう漏らす。すると……「……やっと…起きたわねぇ…… 」聞き覚えのある声。水銀燈の声が、近くから返ってきた。「…水銀燈……これは…… 」「……大方、地震か何かで瓦礫に埋まっちゃった、って所でしょうねぇ……全く、ツいてないわぁ…… 」「…助けは…救助はまだなの…? 」「……考えてもみなさいよぉ……避難所に指定されてる学校ですら、この有様…… つまり、外は……想像もしたくもないわぁ…… 」「……そう……そうね…… 」「…そんな事より真紅、あなた、携帯持ってない? 」水銀燈はおもむろに、そう切り出してきた。「そうよ!携帯電話で助けを呼べば! 」そう言い、真紅はポケットから携帯を取り出すが――――「……ダメよ水銀燈……圏外なのだわ…… 」救いの手に思われたそれは、何の手立てにもならなかった。「…違うわよぉ…ほら、液晶の明かりをライト代わりに、って事。 こう薄暗くっちゃ…気が滅入るでしょぉ? 」ほんのり明るくなった中で、珍しく弱気な笑みを浮かべる水銀燈。人が二人入れるのがやっと。それ位に小さな瓦礫の隙間の中で、真紅と水銀燈は携帯の明かりだけを頼りに、互いの顔を見合った。「助けは…くるのかしらね… 」「……さぁ?……でも…諦めたくはないわぁ… 」小さな声で、囁くように話し合う。「こうなれば…何とかして自力で脱出とか出来ないものかしら…? 」真紅は壁のように周囲に迫る瓦礫をコツンと叩いてみる。「……そんな事してここも崩れたらどうする気よぉ……もっとも…… 」水銀燈はそう言い、少しだけ身をかがめてみせる。彼女の背後には……ほんの小さな亀裂のような隙間が、瓦礫に埋もれるように存在していた。「あなたが寝てる隙に、柔らかい部分を掘り進めてみたけど……これ以上は…体が入らないのよねぇ… 」ふぅ、と残念そうにため息をつきながら、水銀燈は狭い中、真紅と自分の場所を入れ替える。水銀燈に比べると、ほんの少しだが小柄な真紅が、その亀裂の間に体を滑り込ませようと挑戦してみるも……たわわに実った胸が邪魔をして、思うように進めない……「……ねぇ?…だから、こうやってじっとしてる以外に無い、って訳よぉ… 」本日何度目かのため息が、薄暗い中に二人分聞こえた。◇ ◇ ◇じっと、薄暗い中で、小さな液晶の明かりだけを頼りに、待ち続ける。いつくるのか分からない救助を……いつか来ると信じて……真紅と水銀燈は、すでに会話をしてなかった。万策尽き、耐えるしかないこの状況。無駄な体力は…それこそ、一言発する程度の体力も、今は温存しておきたい。そう考え…自然と、二人とも無口になってきた。 しかし、どんなに体力の節約に努めても……この極限状態。圧迫感や不安には慣れないし…お腹もすくし、喉だって渇く。時間の感覚は……携帯電話の液晶画面に時刻が浮かんでなかったら、とっくに失われていただろう。それでも、とにかく今は耐える事。浅い呼吸を心がけながら、真紅は自分にそう言い聞かせた。◇ ◇ ◇どれだけの時間が流れたのだろう。うずくまるように、じっと動かない水銀燈。瓦礫にもたれ掛かりながら、眠るように目をつぶる真紅。ふと、真紅は指先に何かが触れた気がした。一瞬、助けかと思い、大きな胸を高鳴らせるが……それは、小さなメモだった。「………… 」何故、こんな所に……それに…今まで、全く気が付かなかった……そう思い、真紅はそっとメモを拾い上げ、液晶の弱々しい光にかざしてそれを読んでみる。 『 大きな胸は、中に希望と夢が詰まっているから。 小さな胸は、周囲に希望と夢を与えてるから。 小さな胸が一つ無くなるという事は、それだけ世界から希望が失われるという事 』いつだったか読んだメモと、全く同じ内容。同じ、自分の筆跡。だが…いつかとは違い、真紅はそれを読み、小さな声を上げた。「……希望… 」もし……自分の胸が不当な手段により大きくなったせいで、世界から希望が『失われた』のなら?確かに…世界が不穏な空気に包まれだしたのと、自分のバストが大きくなった時期は一致している……。馬鹿馬鹿しい。そう思い、真紅は首を振る。だが…一度とり付かれた考えは、その程度では消えはしなかった。それは…あるいは極限状態の、追い詰められた思考だったのかもしれない。あるいは…彼女の中で、何か確信が生まれていたのかもしれない。真紅はすっと腕を持ち上げると……「さようなら……いい夢を……見させてもらったわ……… 」そう呟き、指輪を引き抜いた。いつかは指と一体化してるように外れなかった指輪は……まるで始めからサイズが違っていたかのように、音も無く真紅の指から滑り落ち…―――― ◆ ◇ ◆ ◇ ◆「…………ハッ!? 」真紅は自分の部屋の床で倒れていた事に気が付いた。 起き上がり、日付を確認すると……ちょうど、あの怪しい通販を買った日の夜。もしやと思い、胸に手を当ててみても…… ぺたん。何というのか……とっても切ない感触しか存在してなかった…。「……あれは…夢だったの……? 」誰に言うでもなく、呟く。まだボーっとする頭を振り、意識をハッキリさせると……目の前には、一枚のメモ。ホームページアドレスの書かれた、小さな紙切れ。「どうやら…お風呂上りに、急に立ったりしゃがんだりしたせいで、ちょっと立ちくらみで倒れたみたいね… 」何だか無理やりな気もするが……先ほどまで見ていた光景を夢だと自分に納得させるため、真紅はそう考える事にした。そして…握り締めた小さなメモを、再度眺めてみる。確かに、豊満な胸は魅力的だが……それを世界の希望と秤に乗せる事は出来ない。それが例え……あの世界が…本当は存在しない、夢の世界だったとしても……。「……私の胸で、世界に希望が溢れるというなら……残念だけど、我慢するしかなさそうね…… 」小さくため息をつき、真紅はメモを破り捨てた。◇ ◇ ◇ 翌日 ―――――あれは夢だった。そう分かってはいるが……何だか世界を救った気がして、真紅は機嫌が良かった。この太陽も、緑も、風も…この町の全てを愛おしくすら思えた。だから真紅は、ぺったんこな胸を堂々と張りながら、嬉しそうにしていた。と、そんな風に微笑みながら通学していると……「…!!真紅ぅ!!あなた、大丈夫!? 」突然、水銀燈が叫びながら駆け寄ってくる。「あら、おはよう水銀燈 」優しげな微笑でそう答える真紅の肩をガシィ!と掴み、水銀燈はそのまま真紅をガクガク揺さぶる。「何のんびり挨拶なんてしてるのよぉ!大変じゃないのぉ!! 」水銀燈は心配げな表情をしながら、そう叫んでくる。が…真紅には何が何やら分からない。そんな訳で、キョトンとしてると……
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