MISSION no.9[粉砕の紡ぎ歌]
[ARMORED CORE BATTLE OF ROSE]MISSION no.9[粉砕の紡ぎ歌]「……これはまた、えらく奇妙なのが出てきたわねぇ……」「見た目からして危ない匂いがぷんぷんするですぅ……」ビルに大穴を開け、その中を通ってきたであろうその兵器。自身のの空けた大穴のすぐ側で、静かに佇んでいる。まだ仕掛けてくるような様子はないが、ただそこに浮かんでいるだけでも伝わってくる威圧感。機体各所に灯った青い光が揺らぎ、明滅を繰り返す。まるで呼吸か鼓動のようなリズムで瞬き、それが機体の不気味さを更に増していた。「気は進まないけど、ここは共同作戦ねぇ」「そういえば、まだ名前聞いてなかったですね……」久しぶりにもっともな事を言う翠星石。「私はこのミラージュ一の頭脳派、金糸雀かしら! ……決してカナブンとかカナガワではないかしら」意味不明な肩書きと注釈を交えつつ、黄色いACのパイロットが自己紹介をした。ACを器用に操り、腰に手を当て、胸を張るポーズをとる。そうする必要はどこにもないのだが。「ミラージュ……だからオービットなんて装備しているわけねぇ」「何か関係あるですか?」「まだ噂だけで、市場には出回ってないもの。それを持ってるってことは、関係者ということに他ならないわぁ」「その通り! 私の知的で素敵な頭脳を持って開発した新型ACにかかれば、どんな敵でもイチコロかしら! ただ……」金糸雀がパルヴァライザーの方をチラと見る。まだ動く様子はなく、ただ空中を漂っているのみであった。「ただ……アイツは別格なのかしら……」「……で、あなた達はなんて言うのかしら?」相手の動きを警戒しつつ質問をする。「翠星石ですぅ。で、こっちの黒いのが水銀燈です。 外見だけでなく中身も真っ黒―――」ジャキン、とスナイパーライフルの銃口が翠星石に向けられた。「どうぞ続けて頂戴?」「いいいいやもう紹介は終わったですから、その物騒なもんを下げてくれると嬉しかったりするですぅ!」「(あ、あの兵器よりこっちの方が怖いかしら……!)」危うく余計な事を口走る所だった翠星石。金糸雀の背中に冷たい汗が流れた。「…ま、そんな訳だから。宜しくねぇ。えっと…カナ………カナレット?」※ヴェネツィア共和国の景観画家。本名はジョヴァンニ・アントーニオ・カナール。「違うですよ。確か……カナマイシンですぅ」※<kanamycin>。1967年に梅澤濱夫によって発見された抗生物質の一種で、結核などに効きます。 「どっちも違うかしら! ついさっき『金糸雀』って言ったばかりかしらぁ!」「冗談よ。それで、一体どうするの? 何か策はあるんでしょうねぇ……」「もちろんよ! 即興で三つほど考えたかしら」「そ……即興ですか……」そして通信で作戦の説明をする。その内容を聞いた二人は……。「……一つ目と二つ目はまあ良しとして、三つ目……まさか本気じゃないでしょうねぇ?」「同じくですぅ。例え成功したとしても、こっちが木っ端微塵になる確率のほうが高いですよ……」と、冷ややかな反応。「それでも三番目が一番確実かしら。使わないに越したことはないかもしれないけど……」「そこまでしないと倒せない相手なの? アレは」あまりにも無謀な作戦に、水銀燈が疑問を投げかける。「なら見せてあげるかしら。『攻撃のワルツ』!!」オービットが射出され、パルヴァライザーを取り囲む。レーザーが次々に襲い掛かり、装甲を剥ぎ取っていく。だがその直後、オレンジ色の水のようなものが傷口を覆い、新たな装甲が形成された。内側から滲み出てきたそれは、生物の血小板に例えることができる。ならば少々いびつな形をした新しい装甲は、瘡蓋と言えるだろう。「自己修復機能なんかついているのぉ!?」水銀燈が、いや翠星石までもが驚愕する。「そう……だからカナの武器じゃ、致命傷を与えることが出来なかったかしら……。 さっきみたいに表層の傷なら瞬く間に修復。例え手足をもいでも、2分もあれば元通り。 おまけにエネルギー系の武器はあまり効かないみたいかしら。何故かは不明だけど、表面でエネルギーが拡散してしまうの。 翠星石のエネルギーキャノンでも、恐らく表面の装甲を吹き飛ばす程度で終わってしまうかしら」「……本当に機械なのか疑わしいわね。この上自己増殖と自己進化までやられたら、もう『生物』の域よ……」「そこかしら。もしあいつの修復機能が生物のそれと同義であるなら、必ずどこかに核となる部分が存在するはず。 そしてカナは、あいつの青く光る部分が核だと睨んでいるかしら」「確かにそれっぽいですけど……それって、複数存在する目標を同時に破壊しろってことですか?」「同時に破壊する必要はないけど、もたもたしているとあっという間に復活するのは確認済みかしら。 あなた達がここに来る前の戦闘で大体の特徴は掴めたわ。 重要だと思われる点は、エネルギー兵器は効果が薄いこと。 装甲ぐらいなら瞬時に再生することができること。 そしてあの青い部分を破壊されると、一時的に動きが鈍ること。この三つかしら」そして全員がパルヴァライザーの方向に向き直る。それを合図に、パルヴァライザーがまるで居眠りから覚めたかのように、グイと首を持ち上げた。青い光が、以前より明るく輝きだす。「最初の作戦に失敗したら、即座に次の作戦に切り替えるかしら。三番目をしくじったときは……」「こっちが粉微塵になってるでしょうねぇ」「リハーサルも無しってのは辛いですぅ」三人ともがそれぞれの武器を構え(金糸雀機は腕そのものが武器であるが)、戦闘態勢に入った。先に動いたのはパルヴァライザー。まるで話し合いが終わるのを待っていたかのように、いきなり激しい攻撃が三人を襲う。背部に取り付けられた二門の銃口。そこから繰り出される絶え間のないレーザー砲撃。側面からは、それより小さく短いものの、マシンガンのようなエネルギー弾。両腕のブレードをクロスさせ、それを×の字に振り下ろす。そのクロスされた地点から飛び出てくる巨大な光球。それら全てがそれぞれ独立した兵器のように、的確に個々を狙って飛んでくる。「射撃が正確すぎる……!」目標から嵐のように襲いくる攻撃。それを回避するので精一杯の水銀燈。相当な数の弾丸が発射されているというのに、全く弾切れを起こす気配がない。「少しでも気を逸らすことができれば……!」金糸雀機は他に比べると随分身軽なようで、さほど苦もなく攻撃を捌いていく。攻撃の合間を縫ってオービットが射出される。数にして十五機。「『ディスコード』!!」射出されたオービットが三個単位で密着し、五個の塊となる。そしてそこから放たれる五本の光の束。単機ではいまいち威力に欠けるオービットだが、それが纏めて、しかも同時に命中するとどうなるか。「その脅威は……何倍にも膨れ上がるかしら!」レーザーの束がパルヴァライザーに直撃した、が、やはり大した損傷は認められない。しかし衝撃まで無効化できたわけではなく、僅かだか攻撃が止まる。「水銀燈!」「隙ありッ!」その僅かな隙を突いて、水銀燈がスナイパーライフルを撃つ。胴体部分にクリーンヒットし、その勢いでビルの壁面に叩きつけられるパルヴァライザー。集束され貫通力を高められたエネルギー。さすがにその威力は凄まじく、命中した箇所の装甲が砕け散った。「これでも喰らえですぅ!!」翠星石がインサイドの吸着地雷を大量にばら撒く。が、恐ろしい速さで体勢を立て直し、瞬時に攻撃を回避する。そのため、吸着地雷は機体ではなくビルにくっついてしまった。「すばしっこいわねぇ…」「でも作戦通りです!」再度攻撃を始めようとするパルヴァライザー。その時、ビルの壁が吹き飛び、激しい煙がパルヴァライザーを覆った。「コイツは時間経過でも爆発するタイプです! 煙の中なら視界も悪くなるはずですぅ!」「よくやったかしら! 『うなだれ兵士のマーチ』!!」『攻撃のワルツ』同様、オービットが周りを取り囲んで攻撃するタイプだが、三機一組から四機一組へと数が増えている。第一の作戦。射撃と煙幕による足止めをしつつ、オービットでの同時多重攻撃を仕掛けるというもの。煙の中へオービットが飛び込んでいく。が、中からは金属が切れるような音と爆発音しか聞こえてこない。中に青く尖ったものが見え隠れすることから、恐らくブレードを振り回して攻撃しているものと思われる。「ぜ、全機撃墜されたかしらぁ~!」「全く役に立たんやつですねぇ!」金糸雀が情けない声を上げる。相手がでたらめに振り回したブレードによって、オービットは全て両断されたようだ。直後、煙を切り裂いてパルヴァライザーが飛び出してくる。その飛び出した先には、既に水銀燈機が回りこんでいた。「やはりレーダーの類はついていないようね…。 さて、この距離で……避けれるかしらねぇ!?」ブレードを伸ばし、水平に斬りつける。それを右腕で受け止めたパルヴァライザー。更に左腕を振り下ろして攻撃してくる。切っ先がコアをかすり、あわや真っ二つという所であった。「ああもう! だからブレードって嫌いなのよぉ!」後方へ退避し、ミサイルを可能な限り撃ちまくる。何本も伸びる白煙。爆薬の奔流。大量のミサイルが帯となってパルヴァライザーに襲い掛かる。しかしパルヴァライザーは逃げることも、避けることもしなかった。胴体から突き出した腕と砲身を回転させ、360°あらゆる方向へレーザーを乱射する。それによって水銀燈の繰り出したどのミサイルも、後少しという場所で全て撃ち落とされ、届くことはなかった。「信じられない動きをするわぁ、コイツ……。第一作戦は失敗みたいねぇ」「なら距離をとって、第二の作戦スタートかしら!」散開しながら後退し、相手との距離をとる三人。三方向にわかれることで標的をわざと絞らせようというものであった。そしてパルヴァライザーは、その中で最も遅い翠星石機に目標を定めた。背部から炎を吹き出し、猛烈な勢いで翠星石機に向かっていく。「案の定こっちを狙ってきたですね……予想通りですぅ!」ブレードを振り回しながら突進してくるパルヴァライザー。それに向かって、またもや吸着地雷を放つ。今度は高速で移動していたためか、反応できなかったパルヴァライザーに何個かが付着した。それを全く気にせずに突っ込んでいく。が、ブレードが後少しで届く距離まで接近した時点で爆発し、同時に青く光る部分のいくつかが損傷した。金糸雀の言ったとおり、パルヴァライザーはいきなりバランスを崩し始めた。だが移動の勢いはそのままであり、体勢を立て直すこともなく地面に激突し、そのまま砂煙を上げつつ滑っていった。「そ~れ、もう一発お見舞いするです!」倒れこんでいるパルヴァライザーの上から、地雷をこれでもかとぶちまける翠星石。次々に地雷がくっつき、もう装甲の表面が見えないほど地雷で埋め尽くされていた。「ちょいとばかし手強かったですが、翠星石には遠く及ばなかったですねぇ」パチン、と指を鳴らす翠星石。そうする必要は全くないのだが、タイミングよく張り付いていた地雷が一気に爆発する。時間の関係で同時に爆発しなかった地雷も巻き込まれ、物凄い爆炎がパルヴァライザーを包み込んだ。「これは予想以上の威力! これなら相手がどんな化け物だろうと粉々かしら!」次第に炎も小さくなっていき、代わりに黒煙が立ち昇り始める。「翠星石、アナタ地雷の使い方絶対に間違ってるわぁ」「むぅ、そう言われてみればまともに使ったことないですねぇ」「早めに片付いてよかったかしら~。もうオービットが一回分しか残ってないかしら」完全に緊張の解けた三人。誰もがパルヴァライザーを破壊したと信じきっていた。だが―――。「―――エ、エネルギー反応!? マズい―――!」煙の中からレーザーが何本も撃ちだされる。一番近い上に一瞬反応の遅れた水銀燈は、真正面から攻撃を喰らってしまった。激しく吹っ飛ばされ、今度は水銀燈機が地面に倒れこんでしまった。コックピット内に、装甲減少による『防御力低下』を示す警報が鳴り響く。『左腕損傷。頭部損傷。ジェネレータを含む一部駆動系に異常発生』どうやら衝撃で動力部が一部イカれてしまったらしい。エネルギーの逆流を起こさなかっただけでも幸運だろう。もしそうなっていれば、確実に大爆発。即死は免れられない。「エネルギー出力が30%も低下……! 動くことはできるけど、これじゃブースターが―――!」衝撃波と共に煙が吹き飛ばされ、同時にパルヴァライザーが飛び出してきた。脚部が変形しており、十字ではなく二本の脚となっていた。核の再生こそしているものの、表面は火傷の痕のように溶け崩れている。動きもどこかぎこちなく、時折ガクンと体勢が崩れることさえあった。「むむっ……! コイツ、背中にも核があるです!」「だから地雷で吹っ飛ばなかったのねぇ……」「こうなったら粉々にするしかないかしら! 第三作戦発動!」金糸雀がコアに搭載されたイクシード・オービット(EO)を射出した。肩に装備された浮遊型のオービット『YASYA』と同じく、機体の頭上で待機している。金糸雀が移動し始めると、EOも同時に移動し、一定の距離から離れることはなかった。「まだ試作段階だけど、丁度いい的に―――うわぁっ!?」パルヴァライザーが攻撃態勢に入り、レーザーを雨のように降らせてきた。弱っていてもその戦闘力は健在のようで、レーザーの威力も弱まってはいなかった。「―――威力はあるみたいだけど、数を撃てばいいってものじゃないのよ!」金糸雀は高速で飛び回りながら攻撃を回避する。パルヴァライザーの周りをぐるぐると旋回しつつ、徐々に接近していく。だが機体がどんな方向を向いていようとも、EOはしっかりとパルヴァライザーを捉えている。「これがEOの最大の長所! 例え自分が寝ていたとしても、一定距離以内の敵を自動的に攻撃するかしら! 弾幕を張ろうとも、ECMを使おうとも、『ロックオンしているわけではない』から絶対に狙いを外さないかしらッ!」距離が400m程になったとき、EOが攻撃を開始した。兵器としてはかなり小型であるにも関わらず、そこから撃ちだされたエネルギー弾はとても高い威力を持っていた。二発撃ちだされた弾はパルヴァライザーの頭部と肩部に当たり、相手の体勢が大きく崩れた。「翠星石! もう相手はフラフラかしら! 隙の小さい武器でも十分なはず!」「了解ですぅ!」そして左腕のエネルギーマシンガンを乱射し、弾幕を張る。もう空中を移動する力が残っていないのか、ふらつきながらこちらに歩いてくるパルヴァライザー。弾が当たった所に傷ができる。しかし、以前のように自己再生が始まらない。さらに数発を体に受けながらも止まろうとはしない。「相当に弱ってるですね……なら、コイツでも効くはずです!」右腕のハンドレールガンから、高速で弾が発射された。弾は一直線に突き進んでいき、パルヴァライザーの右足を貫く。バランスを失ったパルヴァライザーが、再度地面に倒れこんだ。「そろそろクライマックスかしら! 『野ばらのプレリュード』!!」地面にうつ伏せになっているパルヴァライザーの上に、オービットが集結する。そして真下に向かって断続的に、何発もレーザーを放つ。稲妻のように降り注ぐレーザーによって、腕や足などが見事にもぎ取られていく。青い光が点滅しているが、その光りかたはとても弱々しく、切れかかった電灯のようであった。「これで機動力は奪ったわ! 翠星石! フィナーレかしら!!」「えぇい! 文字通り当たって砕けろですぅーーーッ!!!」翠星石が大口径レーザーキャノンをぶっ放す。巨大な光が空を裂き、唸りを上げながら突き進んでいく。だが放たれたエネルギーは、あろうことかパルヴァライザーを通り過ぎてビルに直撃した。だがそれこそが、この作戦の完了を示していた。命中した箇所が蒸発し、ビルの外壁が、鉄骨が吹き飛んでいく。さすがにビルに穴を開けるだけの威力はなかったが、『抉る』ことはできた。そしてその衝撃は、中央に大穴の開いたビルの重心を崩すには十分だった。ビルからコンクリートの割れる音が響いてくる。鉄骨が曲がる。窓ガラスが崩れ落ちる。轟音を立てながらビルがその形を変えていく。「ち、ちょっと! ブースターが使えないって言ったでしょ!?」「ならしっかり掴まってろです!」翠星石がOBを作動させ、機動力の落ちた水銀燈機を引っ張りながら急速離脱する。金糸雀機には特に異常はなかったため、自力で脱出に成功した。程なくしてビルが傾き始める。地上80mの所を基点として、そこから上の部分が折れ曲がり、大地に重くのしかかる。そして大爆発。地面が爆ぜ、無数の破片が周りに飛び散る。実際に爆発したわけではないが、大質量を持つ物質落下時の衝撃は、爆発のそれと大差ない。むしろ更に凶悪。地震と間違うほどの衝撃が辺りを襲い、天まで届くほどの砂煙が巻き起こる。それに巻き込まれて吹っ飛ばされる報道ヘリ。そしてまた一つ、荒野に人の造りし岩山が増えることとなった。◇翠星石機に『放り投げ』られ、何とか一命を取り留めた水銀燈。重いのはわかるが、そのお陰で水銀燈は半強制的にヘッドスライディングをかますことになってしまった。普通なら怒るのか感謝するのか迷うところだが、水銀燈は全く別のことを考えていた。「(あの兵器……まさか脚が『変化』するなんて……もしかすると―――)」―――巡る―――。「―――!?」水銀燈が振り返る。だがそこには、瓦礫の山となったビルがあるだけだった。「気のせい……? 疲れてるのかしら……いや、絶対に疲れてるわぁ……」肩にのしかかる重み。ストレスからくる偏頭痛。明らかに疲労によって引き起こされる症状であった。「作戦大成功かしら! 総重量61億8000万トンに潰されて、生き残ったやつは未だ存在しないわ!」「まさにデッド・オア・アライブだったですぅ……」「それにしても、あんな兵器が実在しているなんてねぇ……」「ミラージュではあれを、『粉砕するもの』……『パルヴァライザー』と呼んでいるかしら。 もっとも、粉砕されたのはあっちのほうだったみたいね!」「よくこの状況で冗談言えるわねぇ……」ビルの質量、ギザのピラミッド約1000個分(一つあたり約600万t)。ダージリン・ティーに換算した場合、約60万年分。隕石など比べ物にならない質量をもつ物体を、こうもあっさり倒壊させてしまった。そしてその作戦を提唱した本人は何も気にしていない様子。実に陽気である。「……で、あいつを倒すのにビルまで潰してどうするつもりですか?」「本社ビルが全壊……こりゃミラージュは終わったわねぇ……」目の前に広がる瓦礫の山を見て、水銀燈が呟く。確かにパルヴァライザーは木っ端微塵だろうが、それ以上にビルは粉々になっていた。だがその時、金糸雀が不敵に笑う。「ふっふっふ……『本末転倒』とでも言いたいのかしら? カナはこれが本社だなんて一言も言っていないかしら!」「「へ?」」二人がいましがた聞こえてきた言葉を、頭の中で反復してみる。「このご時世に本社の場所なんて一般に公開するわけがないかしら。 そんなことをしたら、わざわざ自分の急所をアピールしているようなもの。 攻撃の格好の的になってたちまち壊滅してしまうかしら」「…じゃ、じゃあこれは…?」「ダミーに決まっているわ。だからあるのは鉄骨とガラスだけ。中身はスッカスカかしら。 もちろん社員なんて最初っからいないし、壊れて困るようなものは何一つ置いてないかしら」それを聞いて、二人の体から一気に力が抜けていく。「それじゃ、危うく潰されるような危険を冒したのは、一体何のためだったですかぁ……?」「壊れてもいいなら最初から守らなきゃよかったわぁ……」「でも、あなた達には感謝しているのよ? 確かにビル自体はハリボテだけど、 実はこの直下、地面の下に本社があるのかしら。あのビルが扉となって入り口を塞いでいるのかしら。 主に人間用の出入り口だけど、AC程度の火力だったら穴を開けて侵入しようと思えば簡単にできるわ。 平たく言えば……まぁ、とってもピンチだったのかしら」つまりあのビルはとても精巧にできたカモフラージュ。報道陣さえ欺くほどなのだから、余程手の込んだ工作をしているのだろう。「最初に手違いで戦ってしまったとはいえ、あなた達は恩人かしら。 ってことで、ちょっとついてきて欲しいかしら~」そう言って歩き始める金糸雀。あれほど暴れまわったにもかかわらず、ACは以前と変わらず軽快に歩いていく。「……人生で一番疲れたわぁ……」「今日ほど出撃を後悔した日はないですぅ……」憔悴しきった様子で、後に水銀燈と翠星石も続いていく。陽は既に沈みかけ、大地を赤く染め上げていた。『―――運命が――巡る―――』To be continued...
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