『少女ハ世界ヲ拡張スル』
「VCは客人に茶のひとつも出せないのかしら?」「いつからここは喫茶店になったんだ? 茶が飲みたいのならお前の巣に帰れ」「ほれ、ジュン。さっさと課長にこいつらのこと説明してくるですよ」「ココハドコ ボクハダレ」「ねぇ、照明キツすぎなぁい?」「・・・うーん。やっぱり国営だけあって豪華だなぁ」「・・・スー、うにゅーがやまのよーにあるのよー」「貧乏な民間組織と比べるのはアレなのでは」「お茶が入りました」「え? 私の分は? 私が頼んだはずなのに」「淹れて参ります」「ダージリンがいいわ」「かしこまりました」chaos1 無秩序,大混乱 《★【類語】 ⇒→confusion》.→2 [通例 C] (天地創造以前の)混沌(こんとん) (→cosmos).ギリシャ語「深い淵(ふち)」の意; chaotic~新英和中辞典 第6版 (研究社)より~狭い応接間に、えーと・・・いち、に、さん、し・・・私も含め8人がこの部屋に詰め込まれている。私、水銀燈。読心術を使う『神の為す殺戮(マエストロ)』、ジュン。停止の魔法と対人外の結界を弄ぶ少女、翠星石。活殺自在の奇剣と不幸体質の持ち主、蒼星石。心に白薔薇を飼う幼い子供、雛苺。異国の剣、異国の技術を操る異国の者、柏葉。そして今のところ正体不明のチビ女、真紅。そして更に正体不明のメイド(?)、薔薇水晶。ぶっちゃけた話、私にとってはこの部屋、正体不明ばっかりの異空間である。半吸血鬼の分際で言えたことではないのだけれど。「そいじゃあ、翠星石と蒼星石でこいつの話を聞いといて。僕はこいつら連れて課長のところまで行ってくるわ」「ワカッタヨ」「・・・さっきので変なところ打っちゃったんだな。可哀想に」「グリーンダヨ」「もういいよわかったよそれはむしろ翠星石だろ」姉が医者でよかったね、蒼星石。「ジュン、できるだけ早く帰ってきなさい」これは真紅の弁である。あんたは黙ってなさいよ。「水銀燈」ジュンが話しかけてくる。「真紅が気に入らないか」応接間から課長の部屋へ続く廊下をあるく途中。「ええ。ちっちゃいくせに偉そうで腹が立つわ」ジュンが苦笑する。「実際のところ、あいつは偉いよ。あいつが所属しているのは、 吸血鬼とか、人外が起こした犯罪に対処する『対人外機動隊』。そしてあいつは機動隊長。 本部に戻ればあいつにも上司はいるが、現場だとあいつがトップだ」「え・・・」私は絶句する。きっと目もものすごい見開かれているに違いない。「じゃ・・・じゃあ、もしかして・・・あいつの方がジュンより偉かったり・・・するの?」「まぁ、あいつの方が高給取りではあるね」後ろで柏葉が小さく笑う。「そんなこと言っちゃって。水銀燈。いいこと教えてあげる。あの子はもともと桜田君の部下でね。 彼女は桜田君がVCに移ったからその後釜に座っているのよ」「へぇ」ん?つまりもともとジュンがその『対人外云々』の現場のボスをやってたってこと?「んまぁ、な」ジュンが私の心へと、思考へと踏み込む。「それじゃあ、ジュンがやたら強いのは、その『対人うんたらかんたら』にいたからなのかしら?」ジュンは返事をしない。「・・・それはまた別の話だよ」ジュンは一言、そう零した。何となく、話しづらい雰囲気。そしていつの間にやら、私たちは課長室にたどり着いていた。「課長は、まぁ、変わり者だから。あんまり言ってること、真に受けないようにな」ジュンはそういって、課長室の部屋を開いた。「やぁやぁやぁやぁ! 桜田君! よく生きて帰ってきてくれたね! それもこんなにべっぴんさんを連れて! この色男め! そのモテパワーをちょっとだけでも分けて欲しいねぇ!」私たちが部屋に入ったとたん、金髪の男が挨拶もなしにまくし立てる。それをジュンは軽くあしらう。「からかわないで下さいよ。それに槐課長には薔薇水晶たちがいるでしょうに」「そうだねぇ。ふふふ、可愛だろうウチの薔薇水晶は。一体どう?」金髪の男性はふぅ、と溜息をつく。「かまいませんよ。メイドが必要になるような場所には住んではいませんから。 あ、でも、あとで一体だけ、できればオーダーメイドで欲しいんですが」男性は下品に笑う。「ふふふ、桜田君。何に使うんだね。おじさんに言ってご覧」「あー、ご心配なく。課長が思っているようなことにゃあ使いませんから」ジュンはまともに相手にしない。そう言われるなり、男は微笑んだ。「まぁいい。その話はまた後で聞こう。 で、この銀髪の子が水銀燈君、ほくろの子が柏葉君、そっちの小さいのが雛苺ちゃん。 そして・・・雪華綺晶だね。薔薇水晶が一体欲しいというのは、ふむ。そういうわけか」「察しが早くて助かります、課長」男は、私たち『部外者』に微笑みかける。「ようこそ、我らが砦に。私は対人外統合組織、VC部の課長をしている、槐という者だ。よろしく」眠りこけている雛苺、雪華綺晶以外、つまり私と柏葉はよそよそしく挨拶をする。槐、と名のった男は私と向き合う。蒼い瞳からは、先ほどとはうって変わって、深い知性が伺える。・・・道化、か。そしてそれが私を見据える。威圧を受ける。「水銀燈君、君はこの桜田君から私に、『部下にしたい』という手紙を貰っている。 私としては、別にどうだって構わない。 一つ付け加えるなら、仕事をする手が増える事は、歓迎こそすれ忌避されるものではないと思っている。 まぁゴタゴタと言ってしまったがね、要は君の意思次第ってことだよ」槐氏は、そこで一呼吸置く。「ここでVCとして働くか、やっぱりやめておくか」鋭い槐氏の眼差しが、ふっと、緩む。そして、自由にしてくれ、と呟いた。・・・ッフ愚問。何を今更聞いているのだろうか。私は家を失った。確かに家は、父親との思い出が詰まった、私の父殺しの罪が充満した、私の財産だった。けれどそれと同時に私は友を得た。私は今、現在進行形で思い出を作っている。友を知り、仲間を知り、同胞を知った。私の未来は今、作られているのだ。今。進む事に。どうして疑問など持つことがあるのだろう。進むことしか出来ない私は。振り返れない私は。立ち止まることはできない。隣でジュンが噴き出した。私はびっくりする。そうか。この人は、心が読めるんだった。今の思考も全部読まれていたと考えると、泣ける。まぁいい。とりあえず言っておこう。「勿論です。是非、ここで働かせてください」きっと私は。満面の笑みをたたえて。そう言っていた事だろう。ジュンも、私の新しい上司、『槐課長』も微笑んでいた。一方。左斜め後ろのほくろは、無表情だった。「それじゃあ、お前は戻っていてくれ。後は柏葉の話があるから」ジュンはそういって、私を部屋から締め出した。勢いよく、さっき自分が出て行ったばかりのドアが閉まる。あまりいい気分はしないものね。ここにくるまでは緊張していて、よく周りを見れていなかったが、うん、なかなかに凝った装飾だわね。燭台や、カーペットも、よく掃除されている。薔薇水晶。やはり『あれ』が、ここの雑務を執り行っているのだろうか。私はこの施設に入ってから、3回、『あれ』を見た。1,2回目は廊下ですれ違った際に、3回目は私たちに飲み物を運んできたときに。3回目は、正直どうでもいい。問題は1,2回目である。一直線の廊下。そこで、『同じ方向から来る』彼女を、2回見たのだ。あんな芸当、カラクリ屋敷か、双子(以上)かなんかでないと、説明できない。催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ 断じてない。もっと恐ろしいものの 片鱗を味わった気分だった。そして先ほどのジュンと、槐課長の二人の会話を思い出す。『そうだねぇ。ふふふ、可愛いと思うだろうウチの薔薇水晶は。一体どう?』『かまいませんよ。メイドが必要になるような場所には住んではいませんから。 あ、でも、あとで一体だけ、できれば特注で欲しいんですが』・・・一体?彼らは、やはり『あれ』を人として数えてはいなかった。ならばあれは。あれは。あれは一体。「何なのかしらぁ、『薔薇水晶』って」私は物思いに耽っていて、気がつかなかった。私の眼前に迫っていた影に。噂をすれば、影が立つ。「ひぃっっっ!!」「私のこと ききたい?」眼帯、紫がかった髪の毛。メイド服。予想通り、抑揚のまったくない、合成音声のような声。薔薇水晶がそこにいた。そしてまるで笑おうとしているかのように、口元を歪めた。第二十夜ニ続ク不定期連載蛇足な補足コーナー「男たちの挽歌」ジ「よーやく! 二人目の男性キャラです」槐「フヒヒwwwwサーセンwwwwwwww」ジ「このSSの槐課長は、たぶんこんな感じになると思います」槐「酷い言いようだね桜田君。君はいつのまにそんなに偉くなったのかな」ジ「やだなぁ課長。ちょっとからかっただけですよ。真に受けるなんて、大人気ない」槐「あそう? そーだったのね。ゴメンネー。全く出番なかったもんでさー」ジ「たぶんここの(トビセカの)槐さん、このスレの槐さんの中でも一番ジャンクに近いと思います」槐「それでも仕事はちゃんとするがね」ジ「はい、そこはいいところだと思いますよ」槐「実は実戦だって行けるのだ。『人形遣い(ドールマスター)』と呼ばれてブイブイ言わしてたあの頃・・・。 今となってはもう全て過去のこと・・・。今は事務職と薔薇水晶こそが恋人さ」ジ「薔薇水晶は娘でしょう。それと、機会があったら、活躍させられると思いますよ」槐「ゑー。正直働きたくねーよ私は」ジ「逃げちゃダメだ」槐「気持ち悪い」ジ「あなたが言うか」終
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