MISSION no.8[粉砕するもの]
[ARMORED CORE BATTLE OF ROSE]MISSION no.8[粉砕するもの]ガレージの中。まだ陽も昇らない時刻から、一人の青年が黙々と作業をしていた。「これでよし………、と」コックピット周辺の配線を繋ぎ終え、すっかり元通りに塗装しなおされたACを見て呟く。「さすがに疲れたな…。後はシステムの再構成か…」自分が持っていた『点検・修理箇所』と書かれた書類に目を通す。メンテの必要な項目が一覧になっているようで、恐ろしい数の文字が並んでいた。が、それのほとんどに赤いチェックが入り、横に『完了』と付け足してあった。「…3時27分。…あいつらが起きてくる前に終わらせておくか…」腕時計を見ながら、再びジュンは作業に取り掛かった。◇『………と…う…………!』―――誰かが自分を呼んでいるようだ。が、気のせいだろう。そう思うことにする。こんなに眠たい時に起こされては困るからだ。『………水…燈…! …水銀燈…!!』―――夢の世界で地震が起こっているようだ。真っ暗なため見えはしないが、三半規管が確かに揺れを伝えている。しかし自分は眠たいのだ。揺れた位で起きてたまるものか。『…水銀燈…!! …えぇい、いい加減に起きやがれですぅーーーーー!!!』―――おお、体が浮いている。重力の方向が逆転したようだ。自分は鳥にでもなったのだろうか。顔面に風を感じる。それは時間の経過と共に徐々に強くなって―――。「ふげえぇっ!!!」―――痛い。主に額と首の辺りが。どうやら床に激突したようだ。体の感覚から、顔を軸に「く」の字に体を曲げ、床に立っている(?)事が判明した。当然すぐに足は床に着くわけだが、意識の薄れと共に足が地面から離れていくような感覚が―――。「まぁだ寝るつもりですか!? こうなったらホースを口に突っ込んで―――」「やめなさぁい! 冗談じゃなく永い眠りについてしまうわぁ!!」―――殺される。自分の第六感が働き、瞬時に体が跳ね上がる。「やっとお目覚めですか。寝起きが悪すぎですぅ」「だからってベッドごと投げ飛ばさなくてもいいでしょう…。もう少し穏やかに起こせないのぉ…?」「30分間呼び続けたのに起きないからこうなったのです。嫌ならさっさと起きることですね」あちこちに散乱した毛布やら何やらを片付けながら翠星石が言った。「…毎日これじゃ、生活費のほかに治療費まで稼ぐ事態になりかねないわぁ…」「なら選択肢は二つです。『すぐに起きる』か、『ずっと寝ない』のどちらかを選ぶですぅ」どっちも自分にとっては相当つらいものなのだが、さすがに後者を選ぶわけにはいかない。「起きればいいんでしょ…。起きれば…」「先週からずっと言ってるですけどね。…さ、ジュンも叩き起こしてさっさと朝食ですぅ」自分の吹っ飛ばした物を全て所定の位置に戻し、晴れやかにそう言う。そして階段へ向かおうと振り向いた。「えっと…。僕のこと呼んだか?」「どえぇえ!?いつからそこにぃ!?」ジュンがドア付近の壁に寄りかかって立っていた。「5分ほど前から…。お前が水銀燈をぶん投げたところ辺りからかな」「み、見てた…ですか…?」「この目でしっかりと。お前、思ったより腕力あるんだなゴフォッ!!」翠星石がジュンの腹部に思いっきりドロップキックを叩き込んだ。しかも、螺子のように回転しながら。凄まじい衝撃音と共にジュンがドアの外へ吹っ飛んでいく。「落ち着きなさい翠星石! 壁が凹んだらどうするの!?」「カベヨリニンゲンノシンパイヲシテクダサイ」「ふん! 覗き見なんかした罰です!」服の埃を払い落としながらそう言う翠星石。「覗き見ってなぁ…。ま、いいや。朝食食べればいいんだろ? 先に行ってるよ。 …それと、お前達のACはもう整備完了だ。水銀燈の方は少し問題が残っちゃったけどな。 僕にはどうしようもない問題なんで、最善策を考えるが…。まぁ、後で説明するよ」何ともなかったかの様に立ち上がり、ジュンが階段を降りていく。「ふぅん…。技師としての腕は確かみたいねぇ…」水銀燈は感心していた。武装の取り付けから塗装、配線の修理など内部的なものまで、普通のエンジニアチームが二週間はかかる所をたった一週間と4時間で終わらせてしまったのだから。「…もう、昔のような甘えは無くなっちゃったわねぇ…」「その代わりに何だかよくわからない行動が増えたですよ…。さっきみたいに…」全力で暴れまくって疲れたらしい。体中から疲労のオーラがにじみ出ている。「…やっぱりここに呼んでくるべきじゃなかったですぅ…」「あらそう? …その割には、先週からずっと楽しそうじゃなぁい?」「い、いいいきなり何を言い出すですかっ!?そんなの気のせいですぅ!あり得ない妄想ですぅ!!」「おばかさぁん。アナタの嘘はすぐにわかるわぁ。…例えば、手足をバタつかせるとか」うっ、と翠星石が硬直する。「…言ったそばからこれだもの…。正直はいいことだけど、もう少し考えて行動した方がいいんじゃない?」「う、うるせーですぅ!とっとと下に降りて朝食です!」ドスドスと音を立てながら階段を降りていく。その内に床が抜けるのではなかろうか。「…ま、翠星石が冷静に行動するとなったら、その時世界は終わるわねぇ」『何か言ったですかぁ!?』「なぁんにも。妄想じゃない?」階下から響いてきた声を適当に受け流し、自分も階段を降りる。◇「…それで、問題って何?」リビングで水銀燈が朝食を食べながら問う。朝食といっても、スコーンが山盛りになっているだけであるが。パンの一種なので軽食としては丁度よいが、乳酸菌飲料に浸してから食べるのは如何なものだろうか。「結論から言うと、ローザ・デバイスがイカれてしまった…ってことだな」同じくスコーンをほおばりながらジュンが答える。「あの時、急激に稼動させすぎたみたいだな。あっちこっち回路が焼け切れていて使い物にならない」「それ、直せないわけぇ?回路が焼けただけなんでしょう?」「簡単に言うなよ。元々この時代に存在していいはずがない技術なんだ。 普通の人間である僕に、そんなオーバーテクノロジーは手に負えないよ」「AC二機を一週間で整備完了して『普通』なのぉ…?」「…とにかく、それについては心配するな。近々、ある人物に相談するつもりだからな」スコーンにジャムを塗り、口に放り込む。「ある人物? 心配ね…。アナタの知り合いって、ロクなのがいないのよねぇ…」「それよりも、ジュンに他人との繋がりがあったことに驚きですぅ」水銀燈はヤ○ルトを飲みながら、翠星石はテレビのニュースを眺めながら自分が思ったとおりのことを口にする。「酷い言い様だな…。お飾りだったとはいえ、一応真面目に所長をやっていたんだ。 嫌でも人に会わなきゃならない時だってあるさ。…それでその人、結構な権力者でな。 向こうもこっちに色々と借りがあるし、相談ついでに少し契約しようかとも思っている」「…昔じゃ考えられない行動力ねぇ、ホントに…」「人は変わるのさ。その過程がどうであれ、多少なりとも変化しなければ生きてはいけない。 …でも、流石に乳酸菌飲料だけで生活はできないからな?」「あら、あのプレゼント、お気に召さなかったぁ?」一週間前、水銀燈は『入居祝い』と称して段ボール20箱分のヤク○トをジュンに与えたのだ。その数実に7200本。当然飲みきれるはずもないのだが、それが全体の一部だというからたまったものではない。「あれは新手のテロだろ。600リットル近い乳酸菌飲料をどうやって処理しろと言うんだ…?」「飲めばいいじゃない。とても簡単なことよぉ」「お前本当に人間だろうな…?」げんなりした様子で再びスコーンを食べ始める。「それにしても、あれから一週間、一度も研究所のニュースが流れないですね…」「…白崎の奴が根回ししているのさ。飄々としている割に、強烈なコネがあちこちにあるからな。 政界や財界はあいつが実権を握っているも同然。報道関係だって例外じゃない」「それであんな非合法な研究ができたわけねぇ…」「そういうこと。…ま、政府の中にはそれに反抗している連中もいるみたいだけど、極少数さ。 反抗したって何の得にもならないからな。場合によっちゃあ―――」ジュンが首の前で、手を水平に素早く動かす動作をする。「物騒な話ねぇ。どうせそれも表には出てこないんでしょうけど…」「世は事もなし…ってやつですね…。所詮作り物の平和ですか―――」その時、テレビから特徴的なピコーンという音が流れた。即座に画面が切り替わり、アナウンサーらしき人物が映し出される。「? 何かあったですかね…?」『―――緊急ニュースです。たった今入ってきた情報によりますと、 コイロス地方B地区に、突如謎の兵器が出現し、ミラージュ社の本社ビルを襲撃している模様です』「!」それを聞いて、ジュンが急に立ち上がる。「なんてこった…! 本社が破壊されればミラージュは立ち行かなくなる…。さっきの話は全てパァだ…!」「『ある人物』って…。ミラージュの人間だったのぉ?」驚いたような顔をして水銀燈が尋ねる。実際に驚いていたのだが。「そう。…それも社長さ。社長にしては随分と若いんだけどな」「丁度いいですぅ!この一大事に駆けつけてピンチを救えば、きっと何か見返りがあるに違いないですぅ!」「結局そうなるのねぇ…」「よし。一刻も早く駆けつけて恩を売っておくんだ! そうすれば交渉も有利になる!」「…なんだか別の人間みたいよぉ…アナタ…」「もう昔とは決別したのさ。外には出たくないけどな」「はいはい…。それじゃ、久しぶりに出撃といきましょうか…!」三人がそれぞれ仕度をし、部屋を出る。しかしテレビを消すのを忘れてしまっているようだ。エネルギーの無駄遣いである。『―――尚、謎の兵器は今までに確認されていない、全く新しいタイプのようです。 これに対し、ミラージュ社は独自開発のACで対抗するようで―――』◇再びガレージ内。綺麗に整備され、塗装も終わった二体のACが、そこに格納されていた。「―――さっきも言った通り、ローザ・デバイスは使えない。よって、エネルギーは通常のジェネレーターでまかなう事になる。 前のような超常現象は起こり得ないぞ。…だから無理はしないでくれ。死んでしまったら何も残らないからな』「心配しなくても、私はアナタが思うほど弱くはないわぁ」コックピットに乗り込みながらそう言う水銀燈。「蒼星石のバカチンをぶっ飛ばすまでくたばる気はないですよ!」同じようにコックピットのハッチを閉めながらそう言う翠星石。「なんとも頼もしいことで…。一応武装だけは元の機体と同じにしておいた。 ミサイルその他の弾薬も全て装填済みだ。ただエネルギー切れには注意してくれよ」「言われなくても。…それじゃ、行ってくるわぁ…!」カタパルトに機体をセットし、そのまま出撃する。近場なら歩いて向かうところだが、場所と事態の深刻さだけに、そんな悠長なことはしていられない。「あ! 先に行くなです、水銀燈!」翠星石機も同じくカタパルトで高速発射される。二つの機体は、瞬く間に小さな点となり、やがて見えなくなった。「…さて、僕は僕で頑張るかな…」二人を見送った後、そう呟きガレージを後にする。◇上空を高速移動中の二機。後十数分もすれば目的地に着くだろう。まだ兵器や建物らしき物体は見えない。ただ荒野が広がっているのみであった。「…ねぇ翠星石。テレビで言ってた『謎の兵器』って何だと思う…?」ふと頭に浮かんだ疑問を翠星石に向けてみる。「『謎の兵器』なんだから翠星石が知ってるわけがないですぅ。UNKNOWNとかその辺りじゃないですかね?」「でもそれだったらちゃんと『UNKNOWN』とか『特攻兵器』って言うはずよぉ? あれは知らない方がおかしいほど有名になったんだから…」「なら完全にわからんですぅ。それ以外に思い当たるフシはないですよ?」「そうねぇ…。あら、あの巨大な建造物って…」「ふむ、あれがミラージュの本社ビルですか。ちぃとばかし大きすぎやしませんか?」前方に見えてきたのは、2000mを軽く超えているであろう巨大なビル。高さだけでなく、その直径も小さな村ぐらいはあるような大きさだった。遥か上空へ続いているようだが、上のほうは薄く雲がかかっていてよく見ることができない。常軌を逸脱していると思われがちだが、この時代においてはあまり大した規模ではないのだ。事実、火星への玄関口である宇宙港は5000m以上の高さであり、その火星には衛星軌道にも達する高さの『ハンマーヘッド』と呼ばれる施設が存在する。「まぁ、街一つぶんの巨大戦艦も存在していたらしいから、驚くような大きさじゃないと思うけど…」一応迎撃システムらしきものも作動しているらしく、ミサイルの発射音や小刻みな機銃の音が聞こえてくる。が、ビルの表面ではあちこちで小規模な爆発が起こり、所々煙を上げている。「迎撃システムじゃ相手にならない…と言う事ねぇ」「面白ぇです! 一体どんなやつか、少し拝ませてもらうですぅ!」機体速度を更に上げ、ビルへ近づく二機。近づくにつれ、『何か』が見えてくる。「―――アレですかね…?」ビルから6kmほど離れた場所で静止する。まだ少し遠いのでよく見えないが、前方で黄色い機体が、まだ見えない何かと戦っている。「データベースには合致するデータはないわぁ。 …それにしても、全身真っ黄色とはふざけたカラーリングねぇ…。さっさと撃ち落してあげるわぁ…!」3kmほど前方にいるその機体に、高速で接近する。「水銀燈! なんだか急ぎすぎじゃないですかぁ!?」翠星石も急いで水銀燈の後を追う。◇「うぅ…。また見失ってしまったかしらぁ…」黄色い機体の中。そこに乗っていたのは、まだ少女と言っていいくらいの人物。「このままじゃビルが崩壊してしまうかしら…。何とかしないと…。 ―――! レーダーに反応アリ! えっと…。う、後ろかしらぁ!? しかも二機!?」慌てて振り向く黄色の機体。前方から、黒いAC、緑のACがそれぞれこちらに向かって移動してきていた。「あれは…さっきの不気味な兵器じゃないかしら…。普通のACかしら…?」様子を見ていると、その機体は800m程前方で停止した。「捕まえたわぁ…。ミサイルの餌食になりなさぁい!!」黒い方の機体から、上空へミサイルが伸びていく。それに連動し、複数のミサイルがまっすぐこちらへ向かってくる。「ひえぇえ!? 襲ってきたってことは、敵かしらぁ!?」黄色い機体が軽快な動きでそれをかわす。素早い動きに翻弄されたミサイルは空中をでたらめに飛び回り、やがて爆散した。「全弾回避…? 素人にできる技じゃないわねぇ…」「単機のようですし、武装集団崩れのゴロツキじゃなさそうですね。 早めにケリをつけたいですが、ああもチョコマカと動き回られると…」「あの不気味な兵器も気になるけど…今はこっちが優先かしら!」黄色い機体が距離をとる。そして、両腕を前方へ向けた。「第一楽章(フォーメーション)…『攻撃のワルツ』!!」両腕から、六機の小型兵器が飛び出していく。兵器とは言ったものの、それは球根のような形をしたとても奇妙なものだった。「まずは一番近い黒いやつを狙うかしら!」小型兵器が不規則な軌道で水銀燈機へ向かっていく。動きはかなり速く、とても目で追えるような速さではなかった。その内三機が水銀燈機を囲むようにして停止し、それぞれの銃口からレーザーを放つ。「オ、オービットぉ!? ミラージュ社の最新兵器が何故!?」ほとんど本能的に機体を上昇させ、レーザーを回避する。が、その回避した先には、既に残りの三機のオービットが待機していた。「まずいっ…!」今度は機体を逆さまにし、高速で降下する。レーザーはかわせたが着地の衝撃は凄まじく、機体が大きく傾いた。「チャンスかしら!第二楽章…『追撃のカノン』!!」再び両腕から六機のオービットが射出される。オービットが一列に並び、まるで蛇のように水銀燈機に襲いかかる。先頭のオービットからレーザーが発射される。それをジャンプでかわす。そしてそのオービットが最後尾にまわり、二番目のオービットがジャンプで移動した先を狙う。着地する直前にブースターを使用し、狙いをそらす。そのレーザーが大地を抉り、オービットは最後尾へとまわる。「ああ鬱陶しいわぁ…!これでも喰らいなさぁい!!」水銀燈が左腕のブレードを伸ばす。レーザーに対して機体を水平にし、オービットの列をかすめるようにして前進する。そしてすれ違いざまにオービットを真っ二つにしていく。「あぁ~! 壊したかしらぁ~!」「真っ直ぐに並べたのがアダになったわねぇ…」機体を反転させ、再び距離をとる。「むぅ…再装填には時間がかかるかしら…。なら、こっちの方も使うしかないかしら…!」黄色い機体の肩に搭載された武装。そのドラム缶を短くしたようなものから、少し形の違うオービットが飛び出した。テトラポットのような形をしたそれに、襲い掛かってくる気配はない。次々と発射され、最終的には合計で八機のオービットが現れた。「…近づかないほうがよさそうねぇ…。翠星石、注意しなさ………って翠星石ぃ!?」「それそれぇ!!戦闘中に止まってると、消し炭になるですよぉ!!」水銀燈の忠告よりも早く、翠星石が突進していく。右手のハンドレールガン、左手のエネルギーマシンガンを乱射しながら、猛然と突き進んでいく。明らかに罠っぽい状況の中で突撃してくるそれに、黄色い機体のレイヴンは多少動揺する。「この状況で近づくなんてどうかしているかしらぁ~!? 『反撃のパルティータ』!!」が、すぐに落ち着きを取り戻し、冷静に命令を下す。そして周りで待機していたオービットが、一斉に火を噴いた。どうやら、一定の距離まで接近すると自動で迎撃するタイプのようだ。多数のエネルギー弾が翠星石を襲う。それはもう雨のように。風のように。「なななぁ!?不意討ちとは卑怯なり!ですぅ!!」と言いながらも、迫るエネルギーの嵐を必死で回避する。後退しようにも弾が多すぎて、無駄な動きを少しでも見せれば撃ち抜かれてしまうような状況だった。「あらあら…。これは凄いわねぇ…」「感心していないで助けろですぅ!!」「言われなくても助けるわよ。今は準備中なのよぉ」オービットはその小ささと機動性から目視することすら難しい。並みの人間であれば、一体どこから攻撃されたのかを知るまでもなく撃破されてしまうだろう。ミラージュ社の最新兵器であるそれは、値段さえ張るもののそれに見合うだけの威力を持っている。だが、それは動いていればの話。自機周辺に待機するタイプの物は、一発の威力こそ高いものの全くと言っていいほど動かない。ならば…。「射程外からなら…」ロックオンマーカーが表示される。標的は敵機周辺のオービット。「…そんなガラクタ、怖くも何ともないのよぉ!!」水銀燈機の背部から、多数のミサイルが発射される。それは吸い込まれるように飛行していき、周りのオービットに直撃した。同時にそれは大きな爆発を引き起こし、一瞬視界が遮られる。「た…助かったですぅ…」「また壊したかしらぁ~!! …ってアレ? あの機体はどこに行ったかしら?」「―――アナタの上よ。おばかさぁん」「えぇ!?」上空を見上げる。黒い機体が、太陽を背にして斬りかかってくる。その手には、名機『MOONLIGHT』。月光の名を冠した高性能ブレードで、黄色の機体を今まさに両断せんとする。「これでチェックメイト―――!」そのブレードの青い刀身を振り降ろす。水銀燈は勝利を確信した。だがその時、突然ビルが大爆発を起こした。地上80mほどの所から、黒煙が立ち上る。「爆発…?アナタ、何かしたのぉ?」水銀燈が訝しげに爆発のあった方を見る。「それはこっちの台詞かしら! あなた達はあの不気味な兵器の仲間じゃないのかしら!?」「不気味な兵器…って…。アナタがビルを攻撃してたんじゃないのぉ?」「全然違うかしらぁ! カナはビルを守ってた方かしら!」―――まさか…。「どうかしたですか?水銀燈?」「………どうやら、攻撃する相手を間違えていたみたいねぇ…」「マジですかぁ!? …じゃあ、謎の兵器ってのはどこに―――」その時、黒煙の中に、微かだが青白い光が見えた。「!! 離れなさい! 早く!!」水銀燈が叫ぶ。言われたとおり、全員が瞬時に機体を移動させる。水銀燈は上昇し、翠星石は横方向へ機体をずらし、黄色い機体は急降下した。その直後、全員がもといた場所を強烈なレーザーが通過していく。外れたレーザーは減衰することなく突き進んでいき、遥か遠くの山を吹き飛ばした。「な、何ですかあれはぁ!?」「あいつ、ビルの中を抜けてきたかしら…!」煙の中からその兵器がゆっくりと姿を現す。中から出てきた『それ』は、空中を滑るように移動する。『それ』の姿があらわになる。確かに今まで見たことのない兵器だった。オレンジとも茶色ともつかない奇妙な配色。間接部分は灰色。恐らく腕と思われる場所から生えている、巨大な青いレーザーブレード。脚部は十字架のようにクロスされ、その上に胴体が乗っかっている。そして、その胴体の所々に灯った、微妙に揺らめく青い光。明らかに機械の外見なのにも関わらず、どこか生きているような感じさえ受ける。それは人々が歴史に封印した禁忌。悪魔の化身。破壊の象徴。かつてその兵器はこう呼ばれていた。―――粉砕するもの、『パルヴァライザー』―――。To be continued...
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