もしローゼンメイデンのポジションが逆だったら R 第3話ー2
「なに? 何かあった?」 真紅が覗き込むと、そこはさっきの廃墟のページだった。「…この一樹ってやつ、なかなか良い目を持ってるな」「そこがどうかした?」「これ、別のドールが住んでた所だ」「えっ?」 ジュンがそう言い、真紅は思わず聞き返した。それに答えるようにジュンは続ける。「…じーさん…懐かしいな」「しーさん? …そんなドールもいたの?」「ああ…。もういないけどな…」「いないって事は…」「ローザミスティカを奪われたよ。巴にな…」「…そう…」 少し悲しそうに顔を歪めるジュンに、真紅はどう声を掛けて良いのか分からなかった。 そんな真紅を察してか、ジュンは少し笑った。「そんな顔するなよ。もう何年も前の事だ。ずっと昔の、な」「ジュン…」 ジュンはそう言うが、その表情はどこか少し哀愁が浮かんでいる。 そんな表情を浮かべる事は今まで無かった。初めて見る表情が、少し辛く感じた。
そこでインターホンが鳴り響いた。 ドアを開けると階段の下からのりがはーいと言いながら玄関へ向かう足音が聞こえて来た。 それを聞いてドアを閉めようとすると、のりが階段から真紅を呼んできた。「真紅ちゃーん、金糸雀ちゃんが来たわよー!」「金糸雀が?」 呼ばれて部屋を出ようとすると、ジュンが後ろから声を掛けてきた。「これ読んでても良いか?」「好きになさい。ただ、綺麗に扱ってね」 それだけ忠告しておくと部屋を出て行った。 玄関に来ると、今にも泣き出しそうな金糸雀が立っているのが目に入った。「し…真紅ぅ…!」「どうしたの金糸雀!?」 金糸雀の様子を見て何事かと思って駆け寄る。すると、突然金糸雀が真紅に抱きついてきた。「うわあぁー真紅ー! 助けてかしらぁー!!」「わ、分かったから訳を説明して頂戴! 何があったの!?」 金糸雀を離し、少し落ち着かせる。やがて落ち着くと、金糸雀は口を開いた。「う、梅岡が…!」「梅岡先生がどうかしたの?」「梅岡が宿題を出してきたかしらー! 手伝って欲しいかしらー!!」「…は?」「遅刻した罰として宿題を押し付けてきたかしらー! このままじゃ徹夜になるかしらー!」
金糸雀の訳を聞いて真紅は開いた口が塞がらなくなってしまった。 何か重大なミスでもしたのではないかと、少しでも心配した自分がバカみたいに思える。「お願いだから手伝って欲しいかしらー!」「何で私が金糸雀の宿題を手伝わなきゃならないのよ! 自分でやって頂戴!」「そんな薄情な事言わないでー!」 玄関の扉を閉めようとしたものの金糸雀がそれを手で防いで閉めさせてくれない。 閉めようにも物凄い力だ。「お願いがじらぁ~!!」「手を離しなさい!」「大体真紅が遅くまで残ってるから私まで巻き添え食ったかしら~! 責任とるかしら~!!」「う…」 確かにそうだが、今ここでそのことを引き合いに出されても困る。 そう攻防を繰り返していると、隣の家の主婦が夕刊を取りに玄関から出てきてモロに目が合ってしまった。「あ…ど、どうも…」「え、ええ…」 思いっきりの引き攣り笑顔で挨拶を交わす二人。「真紅ぅ~! 宿題ぃ~~!!」 金糸雀はその雰囲気も気にせずに喚いている。
「…ああもう分かったわよ! 手伝うから入りなさい!」「本当!?」「だからもう叫ぶの止めなさい!」 金糸雀の執念に根負けして、玄関を開けて金糸雀を招き入れた。 真紅はウンザリして溜息を吐き、金糸雀は真紅の手を取って感謝の意を述べる。「ありがとう真紅! やっぱりクラスが離れても友達かしら~!」「…はあ、分かったから先行ってて。後から行くから」「分かったかしら!」 それだけ言うと金糸雀は勝手知ったる他人の家とばかりに家に上がり、階段を上がっていった。 その様子を眺めていたのりがキッチンから顔を出す。「…なんだか大変だったわね…」「本当よ…なんだか最近貧乏くじばっかり引いてる気がするわ…ジュンにしろ…あっ!」 ジュン。今の騒ぎですっかり忘れていた。 真紅が急いで階段を上がっていくと、金糸雀が今まさに部屋の扉を開けようとしているところだった。 今開けられたら確実にジュンを見られる。そうなってはますます騒ぎが大きくなる。「ちょっと待ちなさい!!」「ひぇっ!?」 真紅が大声をあげると金糸雀はビクッとしてノブから手を離した。 その隙にドアの前に立ち塞がり金糸雀をガードする。「ちょ、ちょっと掃除してて散らかってるのよ。すぐに片付けるから待ってて!」「う、うん…」 金糸雀をそこに待たせて部屋に入る。
予想通りジュンはベッドの上で寝転がりながらさっきのオカルト雑誌を読んでいるところだった。「…ピュア・ゴールド・王将か…いいなあ胡散臭そうで…。ん、どうした真紅?」「ちょっと鞄の中に入ってて!」「え、ええ!? ちょっと待て真紅! いったいどういう…」 ジュンの言う事も聞かず鞄の中に押し込み、更にそのまま押入れに無造作に放り込んだ。 それから辺りを見て、ジュンを勘付かれる何も無い事を確認し、扉を開けて金糸雀を招き入れた。「お…お待たせ…」「…なんだか物凄い音がしてたけど…」「気にしないで…」 ゼイゼイと息を切らす真紅に疑問を抱きつつ、金糸雀は中へ入っていった。 金糸雀は部屋の真ん中のガラステーブルに着くと、真紅もその向かいに座った。「で、どういう宿題なの?」「このプリントを明日までにやって来いって…」 そう言って金糸雀は鞄の中からプリントを取り出した。 両面刷りで5枚。それを見た真紅はげんなりして溜息をまた吐いた。「こ、こんなに…!? 鬼ね…」「だから終わらないって…!」「分かったから泣かないの! ほら、半分貸しなさい、やってあげるわ」「ありがとうー!」
――――
必死になって二人掛かりで宿題を進めていると真紅は喉の渇きを感じてきた。「ちょっと飲み物もって来るわ」「分かったかしら」 真紅は立ち上がり部屋を出て行った。残された金糸雀は一人で集中して宿題を進めて行く。 その時、押入れからゴトッという物音が聞こえてきて金糸雀は一瞬手を止めた。「?」 気のせいかと思い、再開しようとするが今度ははっきりと何度も音が聞こえてきた。「ひっ!」 金糸雀は驚き、思わず手からペンを落としてしまった。 その間にも音は鳴り続け、更には押入れの戸までガタガタと揺れ始めた。「な、な、な…!?」 あまりの事に腰が抜けて押入れから後退りする金糸雀。 やがて一瞬音が止んだと思うと、更に大きな音が響いて押入れの戸が激しい勢いで中から開けられた。 金糸雀は短い悲鳴を上げその押入れを見ると、中からジュンが怒り肩で出てくるところだ。「くそ、なんだってんだいきなり…ドールを何だと思って…ん?」
ジュンが金糸雀に気付き、その方を見る。 金糸雀は呆然としており、何がなんだか分からないといった様子だ。「に、人形? 生きてるかしら?」「…あんた誰?」 訝しげにジュンが尋ねると同時に、部屋の扉が開いた。「……ジュン…何してるの…」 紅茶を持ってきた真紅は、その光景に一瞬めまいを感じて頭を抱える。「あっ、真紅! どう言うつもりだいきなり鞄に押し込んで! しかも押し入れん中に入れやがって!」「何で勝手に出てくるのよ! 少しぐらい状況を把握しなさいよ!」「把握も何も無いだろあんな状態で!」「仕方ないでしょ急だったんだから!」「急過ぎだろ!」 いつもの様に口論を始める二人。だが、そこに忘れ去られた人が一人。「…し、真紅…?」「あ…か、金糸雀…」「金糸雀って言うのか?」「…そ、それってまさか…」 唖然としつつも状況を把握してきた金糸雀に、真紅はがっくりと肩を落とした。
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。