戦慄の蒼(ブルー)
「さぁーて、てめぇら!ぼさっとしてて流れ弾に当たるんじゃねーですよ!」翠星石が悪態をつきながら、RGM-79Gジムコマンドの足をカタパルトに乗せる。「了解!」「うぃ!ジオンの一つ目小僧をいっぱいやっつけるのー!」2機のジムがそれに続いてカタパルトに固定される。「ザー…今回は新型の実戦データの採取が目的かしら!無理はしないで、楽してズルしてデータ収集かしら~!」その無線を合図に、視界を塞いでいたハッチが開く…――目の前には、どこまでも広がる青空――眼下には、焼け焦げた大地と…一黒いシミのように広がるジオン軍前線基地。「RGM-79G・ジムコマンド…翠星石、出るです!!」カタパルトから機体が射出され――3つのバーニアの光が小さな点となって地面に消えた ※---???---※「本当にこれだけで、そんな給料が貰えるのかよ?」ジオン軍前線基地から数キロ離れた地点で、男がコックピットの声を上げた。「どうせならこの新型で、俺が切り込んでやってもよかったのによ!」「…それは『先生』が残した貴重なモビルスーツだ。こんな所で傷をつけたくなくってね」無線を聞きながら、近くに停めたトレーラーの中で金髪の男が答えた。「…ふん」男は不満げに鼻を鳴らす。(しかし…高見の見物で前線に出るモルモット部隊の連中より金が貰えるとは…いい部隊に配属されたもんだ)今頃、前線で暴れまわっている連中の事を考えると、ついつい笑みが零れてしまう。『…き…だれ…?……ぼく……だ…………』不意に声が聞こえた気がして、耳に付けたインカムをガリガリと引っかく。「あん?何か言ったか?槐先生よぉ?」「ザー 何も言ってないが…どうかしたのか?」「…いや…ただの空耳みたいだ…」トレーラーの中で様々な計器に目を凝らす槐の目に一瞬、不穏な光が過ぎった。 ※---ジオン軍前線基地内---※「ひーっひっひ!…今頃おっとり刀で駆けつけても、遅いですよ!」試験的に装備されているビームガンを撃ちまくりながら突貫する。「出てきたですね!相変わらず緑が素敵な連中ですぅ!」突然の敵襲に倉庫から飛び出してきた2機のザクにカメラを向ける。「データ収集も兼ねて、ここは私が相手するですから…てめぇらは適当に遊んでやがれです!」「了解!」「うぃ!無茶は無しなのよー!」遠ざかるバーニアの振動を感じながら、迫る2機のザクに集中する。「さて…連邦の新型の性能とやら…とくと目に焼き付けるですよ!!」ビームガンの銃口を1機のザクに向け、トリガーを引く――!高熱の光の矢が放たれ――それは全てを焼き払う光――!ザクの胸がボコンと陥没し――一瞬遅れて、爆発する!!「ひゃぁ…大した威力ですぅ…」自分の駆る機体ながら、その性能に目を見張る。僚機が破壊されたのを見たもう一機のザクは、建物の影に身を隠しながら120mmマシンガンを放ってくる!「! きゃぁぁ!!」咄嗟に左腕に備え付けられたシールドで身を守る。振動こそ伝わってくるものの、機体へのダメージは無い。「…ふぅ…。し…新型をなめるなですよ!」こっちの方が強い。そう分かると、俄然やる気が出てくる。当然、負ける気なんてしない。「私を怒らせたらどうなるか…思い知りやがれです!!」※---???---※「始まったようだな…」槐はトレーラー内部に備え付けられたモニターを眺めながら呟いた。「ザー あんたも連邦の仕官なんだろ?そんな他人事で良いのかよ?」呆れたような声で入ってきた通信を無視する。目的は、あくまでデータ収集。実戦に出すのは、時期尚早だ。それに…槐はチラリと手元の書類に目をやる。今、作戦を行っている通称・モルモット部隊。新型の試験の為…多少危険な機体でも、出撃を余儀なくされる連中。その為、殉職率も高い。だが、生きてる者は…『当たり』の機体を引く強運と、それ以上の操縦技術の持ち主。(まあ…どちらにせよ、助けに行っても無駄になるだけだからな)そう考え、槐が再びモニターに視線を戻した時…そのモニターの全てが白く染まった――『君は…誰だい…?……そして……僕は……?』「ザー な…!?何だよ!?何しやがった?」映像の途切れた通信機から、男の声だけが聞こえてくる。「ザー オイ!こいつ勝手に動いてるぞ!どうなってるんだ!?何なんだ!?この機体は!?何か―― ブツン」何の前触れも無く起こった緊急事態に槐はトレーラーを飛び出そうとするが…突然起こった突風にトレーラーはまるで木の葉のように吹き飛ばされる――― …横転し、スクラップ一歩手前のトレーラーのドアをこじ開け、槐が表に出てきた。慌てて周囲に視線を巡らせるも…遥か彼方に、夕陽に染まりながら飛ぶ蒼い機体が見えただけだった…※---ジオン軍基地内---※「いただきです!」モニターの中心で十字と重なったザクにビームガンを放つ。光と爆発が広がり――「甘いですよ!!」振り向きざまに、背後に立っていたザク目掛けて再び引き金を引く――…キンッ「なあ!?もう弾切れですか!?」慌ててバーニアをふかし、回避行動を取りながら通信を開く。「チビカナ!こんなすぐに弾切れになるなんて聞いてないですよ!」「ザー そこも含めてのデータ収集かしら~!」「帰ったらホッペつねって泣かせてやるです!」「ザー 無事に帰ってきたらどうぞかしら~」翠星石は通信機を拳で乱暴に叩く。「…だったら…しっかり帰ってやるですよ!」背負ったビームサーベルを掴み、その光る刃を出す。バーニアを反転させ、ザク目掛けて跳ぶ―― ※---数刻後・同地点--ー※翠星石は、所々から煙を上げるジオン軍基地をモニター越しに眺める。(…もう…敵さんも総崩れですぅ…)何とか今回も命を繋げた事に感謝しながら、撤退の準備をしようとした時――「ザー すい… ザー 敵が… ザザ 蒼い色… ガガ 助けてなの…!」酷く聞こえにくいが、雛苺から救援を求める通信が入った。(蒼い機体…?となると…グフですね。でも、唯のグフなら雛苺はそんなピンチにならんです…となると…)脳裏に、青い巨星といった、非常に嫌な単語が過ぎる。エースパイロット。出来れば戦場はおろか、それが敵ならどんな所でも会いたくはない人物。嫌な予感に、手の平に汗が流れる。それでも…仲間の為…。最悪、脱出の隙位は作れるだろう。通信の在った地点を目指して、バーニアを全開にする。そう広くない基地――雛苺達の機体はすぐに見えてきた――間に合った―― そう考えた瞬間、2機のジムの片方に幾つもの弾丸が突き刺さり――「う…うわぁぁぁぁーー!!!―――」搭乗者の断末魔と共に砕けるように爆発した。(ちぃッ!!)翠星石は思わず心の中で舌打ちをする。相手はエースパイロットか、それに近いと見て間違いない。勝ち目は薄い…なら、仕掛けるべきタイミングは一つ。地面を滑るように低く飛びながら、ザクの残骸が握っている120mmマシンガンを拾い上げる。そしてそのまま倉庫の影から飛び出し――出会い頭に相手目掛けて全力で引き金を引く――ガガガガッ!!だがその弾丸は全て鈍い音と共にシールドに防がれる…そして、そのシールドから覗く機体の頭部…「…蒼い…ジム…」全身に蒼いカラーリングが施され…そしてその目だけが赤く輝いている… 友軍ではないのか?そんな疑問が脳裏を過ぎるが…「ザー …敵味方無く、一人で暴れまわってるの…ここの近くの敵も…見方も…全員やられちゃったのよ…」雛苺からの通信で、少し事情が分かった。いや、事情なんて実際は一切分からなかったが…それでも、目の前に立つジムが敵だという事だけは分かった。 「…だったら…これでも喰らえです!」そう叫び、再び120mmマシンガンを放つ――!だが…蒼いジムはそれを、まるで見通すかのような動きで回避し――目にも留まらぬ動作でビームサーベルを引き抜くと、そのまま翠星石のジムコマンドに迫ってきた――身を守るべくシールドを眼前に構えるが…光る刃はそれをバターのように切り裂き――蒼いジムが返す刀で切りかかってくる――だが、翠星石はシールドを文字通り盾にしていた。相手がシールドに目を奪われてる隙に――防御の要であるシールドをあえて捨て、高く跳んでいた――!翠星石の駆るジムコマンドがビームサーベルを抜き放ち、蒼いジムに斬りかかる――蒼いジムはそれをビームサーベルで受け止める――その時…翠星石はほんの一瞬、真っ白な夢を見た気がした――『君は…誰だい…?』『…私…?…私は翠星石です。…あなたこそ…誰ですか…?』『僕かい?…僕は……―――』蒼いジムはそのまま、力任せに吹き飛ばしてくる。「きゃぁぁ!!」バランスが崩れ、倉庫に叩きつけられる――(マズイ!)半ば覚悟を決めるも…追撃は来ない…。見ると蒼いジムは、一瞬、だが確実に、動きが止まっていた。(チャンスです!)握っていた120mmマシンガンの引き金を引く。もちろん、大したダメージにはならないだろうし、当たるとも思えない。だから…蒼いジムが魂を取り戻したように再び弾丸を避ける――だから…狙うのは、地面に転がるザクの残骸。その手に握られた240mmバズーカ。240mmバズーカが暴発し――全く意外な所から襲ってきた衝撃に、蒼いジムがバランスを崩す。翠星石は軋む機体に無理をさせ、バーニアを大きくふかす。狙うのは…コックピットただ一点。持てる全ての力で、ビームサーベルを振り下ろした――…パチパチと電気系統の弾ける音が聞こえる。胸にザックリと切れ込みをいれられた蒼いジムはそのまま立ち尽くす。燃えるような赤だった目からは光が失われ、静かな緑へと落ち着いていた。「お…おわったですぅ…」操縦桿にもたれかかるように翠星石が脱力する。 ほっと一息つき、目だけでかつてない強敵を見やる。すると…なんと、蒼いジムは突然、再び動き出した!あまりの光景に、翠星石は動けずただ目を見開き――だが、蒼いジムはバーニアを大きく轟かせると、そのまま虚空に消えるように戦線から離れていく…「…コックピットは…胸じゃなかったのですか…?」相変わらずぐったりしながら、翠星石はげんなりと呟いた… ※---???---※突然勝手に動いたかと思ったら、突然帰ってきた。人騒がせにも程がある。ボロボロに傷ついた蒼い装甲板を眺めながら、槐は一人考えていた。コックピットを焼ききったこの一撃。これは…ジム等に装備されているビームサーベルに他ならない。「まさか…通常のモビルスーツでここまでやるパイロットがいるとはね…」手にした書類に視線を向ける。-モルモット部隊所属・翠星石少尉-「彼女なら…あるいは眠れる『彼女』を起こせるかもしれないな…」切り裂かれた装甲板の僅かに上。蒼いペイントが施された、ジムの頭部。どこまでも白い世界を『彼女』は漂っていた。『教えて、翠星石……。僕は…誰なんだろう…』 ~薔薇乙女で1年戦争~ ――戦慄の蒼(ブルー)――
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