男だと思ってた 前編
「この服をデザインしたのは…桜田ジュン君です!!」壇上に立つ教師が、誇らしげな表情でそう言った。ヒソヒソ…「えー、マジでー」「キモーイ」クスクス…「ヘンタイみたいじゃーん」「コワーイ…キャハハ…」女子の嘲笑うような声が聞こえる。「う…あ…ぁ…」僕は意味不明な言葉を呟き、その場に膝をつき…「それ以上…僕に近寄るなァーーーーーーーッ!!」「―――――――――!!」自分の叫び声で目を覚ます。そして…そこが見慣れた自分の部屋の、自分のベットの上である事を確認した。「…中学での事、夢で見たのは…」随分と久しぶりだな。そう考えながら、モゾモゾと学校に行く準備をする。僕が通うような、私服の学校は…服のチョイスが面倒だ。同じ服でも良いんだが、流石にそれはかっこ悪い。アレ?お前その服、週に四日位着てね?なんて言われたら目も当てられない。まあ最も、誰も僕の服なんて見ちゃあいないだろうけどね…フフフフフ…とりあえず、まあ大丈夫じゃね?と思える服に着替え、「行ってきます」と声をかけて部屋を出る。 バカだなぁ。居るじゃないか、そこに…違うよ!フィギュアじゃないよ!れっきとしたアンティークドール、ってやつさ!彼女達は素敵だ…僕を蔑んだり、罵詈雑言を浴びせてきたり、スイーツ(笑)なんて言ったりしない。僕の作ったドレスを嬉しそうに着てくれるし、常に優しい視線を僕に向けてくれる。ぁぁ…ホント…素敵だよ…「おはよう…桜田君…」家から出ると、幼馴染の柏葉と偶然居合わせた。「もうすぐ三年…そうなったら、受験だね…」「受験か…柏葉はもう進路とか決まってるのか?」そんな何気ない会話をしながら…僕は心の中で呟く。…何で女子大は有るのに、男子大は無いんだ!?いや、そんな極論でなくったって良い。発想の転換だ。男子大が無いのなら…せめて男子率の高い理系に進めば良いんだ!大丈夫。僕の成績なら、問題なく行ける!メイビー!多分きっと!そうこうしてる内に、学校に着く。「それじゃあ、またね…」そう言い自分の教室に入っていく柏葉を見送り…その姿が消えたのを確認して、そっと自分の手を見る。…汗でぐっしょり濡れている。幼馴染の柏葉との短い会話でさえ、コレだ…。僕は女性恐怖症です!なんてカミングアウトしようものなら、弱肉強食のこの世界では格好の餌食になるのは見えている。僕は決して背中を見せない殺し屋の気分で、自分の教室に入る。 誰かが部屋に居るのかって?「よう!桜田!」「ああ、おはようベジータ。今日も光ってるな(Mハゲが)」「当然だろ!俺様を誰だと思ってやがる!」「おはよう、桜田!」「今日は遅刻してないんだな。笹塚」「おはよう、桜田君」「ア…ハイ、オハヨウ桑田サン」オーケー、落ち着け僕。たかが級友との朝の挨拶じゃあないか。視線を泳がせるな!挙動不審な男という印象を持たれたら、裏で何言われるか分かったもんじゃないぞ!心の中で素数を数えるんだ!2…3…4……4は素数じゃない!落ち着け僕!「そう言えば桜田君…進路希望の一時調査、もう出した?」「エ…イヤ…アア、早メニ出シテオクヨ!」…オーケェー…今の僕、最高にクール。心の中の恐怖感を微塵も表に出さない、完璧な仕事をしてたね。「それと、後ね…」 キーンコーンカーンコーン女子との会話から救ってくれたチャイムが、まるで福音のように心に響いた。 …その日の授業が終わり、僕は疲弊しきった心を引き摺りながら家路につく…だが…平穏の神はすでにこの世には居ない事を思い知った。何で女子バレー部が校庭で練習を!?お前らの敷地は体育館の筈だろ!…大丈夫。邪魔にならないように、端を通って校門まで進む。何も難しいミッションじゃない。僕なら出来る。それ位、訳無いさ…そして足を一歩踏み出し…裏門に向かった。何も、あえて危険な事に及ぶ必要な無いじゃないか。そうだよ、裏門から帰ればいいだけの話じゃないか。この桜田ジュン…まさに策士!…ククク…校舎の裏を通り、出口に向かう。その時…向かう先から何か騒がしい声が聞こえた。何だろう?そう思いその方向を見ると…花壇を荒らしている一匹の猫。それを追い払おうと悪戦苦闘している一人の人物。…確かに僕は、超の付く女性恐怖症のチキンハートの持ち主さ。だけど、猫の一匹位、訳無いさ。 それに…猫を捕まえようと躍起になってる人物を見る。短い髪。青いジーンズ姿。…それに、胸も無い。あれは…間違いなく男子だ。困っている男に手を差し延べず…何が漢か!僕は気配を殺して花壇を荒らす不届きな猫に近づき…素早い動きでその首根っこを捕まえた!捕まった猫は暫くジタバタしていたが…やがて諦めたのか疲れたのか、大人しくなった。グッタリしている猫を、そっと塀の上に放す。…今度僕の前に現れる時は…もっと俊敏になってる事だね…。「ありがとう、助かったよ」塀の上を颯爽と逃げる猫を見ていると、後ろから声をかけられた。「ん?ああ…」とりあえず、曖昧に返す。「最近、花壇が荒らされて困ってたんだよ」そう言い、荒れ果てた花壇を悲しそうな目で見つめる。「とりあえず、ありがとう。…ええっと…?」僕に視線を戻し、そう言い首をかしげる。「ん、僕は1組の桜田ジュン」「ありがとう、ジュン君。僕は4組の蒼星石っていうんだ」そう言い、手を差し向けてくる。 …短い髪。青いズボン。一人称が僕。つまり、男子だ。…つまり、敵ではない。味方だ!という事は…今日からお前も友達だ!僕は差し出された手をガシッと掴む。夕日に照らされる、友情の握手。夕日に赤く染まった、蒼星石の横顔。こうして僕は…蒼星石と出会った。
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