紫水晶の瞳
そは永久に横たわる死者にあらねど 測り知れざる永劫のもとに死を超ゆるものなり (アブドゥル・アルハザード『ネクロノミコン』より)それは誰もが胸のうちに忍ばせるひとときの想い出に過ぎないと、人は言う。時間という網の目を通して濾過され、美化された記憶の断片なのだと。しかし時間が万人に等しく価値を与えるなどと、誰が言えるだろう。宝石の輝きさえも及ばぬあの瞳を目の当たりにしてなお、いったい誰が。まだ高校生だったあの日、僕は未知なる「門」の向こうを垣間見た。確かにこの目に焼き付けた光景だが、いまだに信じられない思いが燻っている。だがあの風景は、ほかの日常の記憶とともに何の矛盾もなく思い出すことができる。日常と非日常の間に線を引くことなど、本当は誰にも出来ないのかもしれない。そう。きっとあの少女は、そんな曖昧極まりない狭間の世界からやってきたのだ。そして、何も言わずに帰っていった。忘れようにも忘れられない、妖しい輝きを放つ瞳の残像を残して。――忘れえぬ面影、紫水晶の瞳。
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