あなたはわたしでわたしはあなた
はなれたら、いきがくるしくなるの はなれては、いきるのもむずかしい だって、あなたはわたしでわたしはあなた。「離れていくのは、許さねぇです」 ぐすぐすと涙目の姉を、蒼星石は抱きしめる。 小さい頃と同じように。 いや、小さい頃、本当に抱きしめられたのは、自分だったのかもしれない。 勝気で負けん気の強い姉は、いつだって立ち向かっていった。 負ける度にボロボロと泣いて、慰めるのは自分の役目だったけれど。 そうやって、自分に役目を与えてくれていたのではないかと、今ならば思える。 蒼星石は、自己主張が苦手な子供だった。 いつだって、他の姉妹たちの声をまとめて、最善になるように勤めてきていた。 そこに自分の意思をいれるのを、忘れたかのように。 時折、翠星石に意見を求められれば口も出したが、それとてそう積極的だったわけではない。 だから余計に、翠星石が自己主張をし、蒼星石の分まで押し通そうとしていた。 それが、揉め事にさらなる火種になったことは否定しないが。 彼女はいつだって、蒼星石のことを気にかけて、守ってきていた。
気づいたのは、本当についさっき。 翠星石が、名前も知らない他校の男子に告白される現場に、居合わせた為だった。 愕然とした。 彼女の傍に、ずっと自分だけがいるわけはないのに。 いつだって、傍にいるものだと思っていた自分に。 自分の内側の声を聞いて、我侭を押し通す振りをしながら、自分の求めるようにしてくれた、姉、翠星石。 彼女だって、女子高生なのだ。 告白くらいされるだろう。 恋人だって、欲しいと思うに違いない(実際、その手の愚痴は聞かされることもあった) なのに、いつも傍に居てくれるから。―――いつまでも傍にいてくれるものだと、勘違いをしていた。 無理に決まっているのに。 だから、距離を置こうと言ったのだ。 いつも自分がいたのでは、告白してくる人だって限られてしまう。 休日を独占して、良いはずが無い。 そんなことを知られれば、デートにも申し込めないのは必至。 だから、距離を置いて。 恋人でも、作ったら? それとももう、他に好きな人、いる? だったら僕は、協力するよ。 双子ノ妹ナンダカラ。 自分でも空々しいほどの態度で、そんな言葉が出た。 瞬間。―――ばちん。 音だけは大きく、痛みなどほとんどない平手が、蒼星石の頬に飛んだ。
「告白なんざ、へのかっぱです。蒼星石と翠星石は、ずっと一緒に居て、墓もおんなじのに入るのです。だから、だから………」 きゅ、と、両手を重ねて、指を組む。 手の大きさも、指の長さも。 巡る血の鼓動さえも、まったく同じ。 あなたはわたし。 わたしはあなた。 離れて生きていくなど、無謀も良いところ。「離れるのは、許さないのですよ、蒼星石」 涙交じりの笑顔で、微笑んだ。
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