灯台の下 【3】
ガチャ帰ってきた。あの後一時間も何してたんだろう?いや、何も考えない事にしよう。せめて、今日の事を覚えておいてくれれば・・・・ 「ただいま。」「お帰りなさい。・・です。」 駄目だ、声が震えている。頭が回らない。 「ん?どうした?何か変じゃないか?」「・・翠星石はどこも変じゃないですよ?」「・・・・そうか。気分でも悪いんじゃないかと思って心配したよ。 そんな状態の人に料理をさせるなんて出来ないからね。手伝おうか?」 ああ、この優しさ。飾り気の無い、本心からの優しさ。彼女はここに惹かれたのだ。自分に無いもの、に惹かれたのだ。ジュンも昔は負けず劣らずの意地っ張りだったが、いつからか二人の心はそれぞれ相反するように成長した。しかし、翠星石が全くの冷血人間と言うわけでも無い。彼女も心の奥底にそういった心があるのだが、ただ気恥ずかしさからうまく表現できないだけだった。「・・・・別におめぇなんぞに心配されるほどヤワじゃないですよ。でも、ありがとです。」思い切って訊いてみようかとも思ったが、徐々に薄れていった。まるで麻薬のようである。「手助け無用です。後三十分ほどで完成ですから、そこで涎垂らして待ってろですぅ。」 やっぱり、さっきのは自分が見た幻なんだ、きっと。そして今日の事も覚えていてくれてる。 「うっし!出来たですぅ!」「おお!今日もハンバーグかぁ!でも美味そうじゃないか。」「────え?」───゙も゙ってどういうことですか?「ん、どうし・・・!あ、いや・・その・・・・」 狼狽えるジュン。こういう嘘を吐けないところも彼らしい。しかし、今はそんなこと、どうでもよかった。 「どういうこと、ですか」「・・・・・・・」 そう言えば、一昨日は晩ごはん要らないってメールが来てたっけ。まさか・・・・ 「巴、ですか。」「なっ!?」「やっぱり、ですか・・」「な、何がだよ・・・・」「いいですよ、しらばっくれなくても。 今日、二人で帰るのを見たです。その後も。」「!・・そうか・・・」「ジュン。」「な、何?」「今日が何の日か、覚えてますか?」「・・・・へ?」「やっぱり、・・です・・・・かぁ・・・・っ。」嫌だ。泣きたくない。「翠星石・・・」「ジュンは・・ジュンは・・・・・・・・私と巴とどっちが良いですか?」「いきなり何を言い出すんだ!?」「答えるです!どっちですかっ!」「・・どっちも僕にとって大事だ。」「そ、そんなぁ・・っ・・・・」「だがな、聞いてくれ翠星石。僕は───」「もう・・・・嫌です。 もう・・・・翠星石はジュンの事が信じられないです。」そう言って翠星石は部屋を出ていった。------------------------ 「はぁ・・・・」 溜息を吐くジュン。 「どうしよっかなぁ・・・・」 プルルルル。プルルルル。 携帯の着信を見る。・・巴だ。 「・・・どうした?」「それはこっちの台詞よ。どうしたの?元気の無い声して。」「や、何でもないよ。ちょっと疲れてるだけ。」「そう。ねぇ、今から逢ってくれない?」「え!?今から?」「そう、今から。・・・・ダメ?」「・・ああ。分かった。じゃ、今からお前ん家に行くから。」「うん。待ってる。」行かなくちゃ。重い腰を上げる。『───続いて、海上の波の予想です。 ・・・・県沖は6メートルから8メートルの非常に強い波となっております。 海のレジャーなどは控えるようにしてください。────』
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