「 what a wonderful world 」-4-
~ ホワット ア ワンダフル ワールド ~ ♯4. 「 侵入者 」 -who killed cock robin- 「なんだか… 釣り上げられたお魚みたいねぇ… 」両手と首を縛られ、宙ぶらりんの水銀燈が苦しそうにぼやく。「そうね… ちょっと待ってなさい。 すぐに助けてあげるのだわ」「気持ちは嬉しいけどぉ… ワイヤーを殴るのは勘弁してぇ。反動で余計、首が絞まるわぁ… 」「そうは言っても、早く何とかしないといけないのだわ」真紅は再び拳を固める。「それはそうだけどぉ… だからワイヤーを殴るのは…って、ちょっと! しん… グぅ!?」奇妙な悲鳴が屋根裏部屋に広がった。―――――翠星石と蒼星石。2人が廊下を駆ける。「きっともう、屋敷の中には居ないはずだ…となると… 」「こっちが近道ですぅ」翠星石の指差した方 ― 1階のリビングに2人で向かう。そして― その窓からは、先程の少女が屋敷の門へと向かう後姿が見える。「急がなきゃ! 」蒼星石はそう叫ぶと、窓を開け、そこから庭に飛び出した。「ほぁちゃぁ!」 ガシャァァン!!翠星石も謎の奇声を上げながら―ご丁寧にも、蒼星石が窓を開けた為にガラスが二枚重ねになってる方をぶち破り―転がりながら庭に出た。「ね…姉さん! 仮にも自分の家なんだから…! 」「なーに甘っちょろい事言ってるですか。こーゆーのは、インパクトをつけて相手をビビらせた方の勝ちなんですよ! 」「僕が一番驚いたよ… 」翠星石は正面を見据えたまま、小さな声で答えた。「… どうやら、そーでもないみたいですよ… 」見ると、音に気付き、少女はこちらに振り返っていた。― 足が止まっている。双子は同時に少女に向かって駆け出した。少女は ― 逃げずに、不気味な笑顔でその場に立ち続けていた。ようやく声の届く距離まで近づき、少し息を整えてから話しかける。「お前は何者ですか!? さっき盗った石を返すです! 」「それはただの綺麗な宝石なんかじゃあないんだよ。すぐに返してくれるかな」双子の問いかけに少女はニヤリと笑い返した。「せっかく追いかけてきてくれたんですもの… 貴女のも頂いていきますわ」そう言いながら、翠星石の方に歩み寄ってきた。「おぉーっと、会話が成り立たないアホの登場ですぅ~。怪我したくなかったらそれ以上近寄るなです! 」そう叫んだ翠星石の手には、いつの間にか豪華な装飾の如雨露が握られていた。しかし ― そんな翠星石の警告を無視して少女はなおも近づいてくる。「少しばっかし、驚かせてやるですぅ…! 」蒼星石が一歩下がったの気配を感じると、翠星石は周囲に如雨露で水を撒きだした。すると、翠星石の持っていた赤い宝石が光を放ち ―水を受けた植物が急速に伸び、巨木の幹のような太さに育ちながら少女の脇を掠めた。「ふっふっふー。 驚いたですか? 」翠星石が満足げに尋ねる。少女は虚ろな視線を周囲に向け、そして最後に翠星石を見た。「… ええ、驚いたわ… まさかこれを使いこなせる人が他にいたなんて 」意外な返答に一瞬、翠星石の表情が固まる。そしてその隙を見逃さず、少女は茨のワイヤーを翠星石に向け投げかけてきた。「危ない! 翠星石! 」そう叫びながら蒼星石が押し倒してくれたお陰で、すんでのところでワイヤーを避ける事が出来た。素早く起き上がり、服のドロを払い、少女を睨みつける。「まさか… オマエもなんですか… 」少女は赤い宝石を手にとり、それを両手で握り締めた。しかしそれは、普通の宝石以上の輝きを発する事は無かった。「残念ですが… 私ではこの力を引き出せません。ですが… 貴女のお相手は私で十分ですわ」「なーに、ぬかしてやがるですか! そうと判れば安心です!…もう油断しねぇですよ!蒼星石も、巻き添え喰らいたくなかったら後ろに下がってるです! 」今までに無い剣幕に、蒼星石は忠告通り、数歩後ろに下がった。それを確認すると、翠星石は如雨露を構えなおし、周囲に改めて水を撒いた。すると― 巨大な蔓が何本も伸び、少女の足元をなぎ払った。しかし少女は一足飛びに蔓を避けると―翠星石の伸ばした蔓の上に飛び乗り、その上を走りながら翠星石に迫ってきた。そして翠星石目掛けてワイヤーを飛ばそうと―「とんでもねぇお間抜けですぅ!この蔓は私の武器ですよ!お月さんまで吹っ飛びやがれです!」翠星石がそう叫ぶと、少女の足元が突然、柱のようにせり上がり―少女の体を空高く突き上げた。「もう一発喰らいやがれですぅ! 」空中の少女目掛けて蔓を伸ばした瞬間―少女がグンッと空中で何かを引っ張った。それは彼女の武器 ― 茨のワイヤーで…その先は地面に突き刺さっていた。それを引っ張る事で、空中で姿勢を変え… 結果、蔓は空を切る事となった。そして… そのまま落下するスピードに乗せて、翠星石目掛けてワイヤーを飛ばしてきた。(― 翠星石が危ない ― 助けないと ― でもどうやって ―― わからない ― それでも ― )気が付けば、考えもまとまらないまま、蒼星石は走っていた。― 僕が…翠星石を助ける ― それだけを考えていた。一瞬、目の端に何かが映る。転がるようにそれを掴み上げ、再び走る。叫ぶ。「翠星石は! 僕が守る! 」同時に飛び上がり、翠星石と少女の間に割ってはいる。そして ― さきほど拾い上げた大きな鋏を横に振り払う。手応えはあった… でも、ずいぶんと軽い…。着地した少女は、鋏で斬られ、すっかり短くなったワイヤーを眺め… 「残念ですが、今日はもうネタ切れですわ…。続きは後日改めて。私は雪華綺晶。必ず、再び参上いたしますわ 」それだけ言うと、残ったワイヤーを門の上部に絡め、走るように門を飛び越えていった。慌てて門に近づき、急いで追いかけようとしたが… すでに人影はどこにも無かった。―――――「大丈夫かい? 翠星石。どこにも怪我は無い? 」へたり込んでいると、声と共に蒼星石の手が伸びてきた。その手につかまり、起き上がる。「わ、私は大丈夫ですぅ… それにしても… 」そう言い、蒼星石の顔をまじまじと見、ニヤニヤしながら続ける。「僕が守る ― だなんて、白馬の王子様が来てくれたかと思ったですよ」「な…! 僕は女の子だよ? 『王子様』は失礼じゃあないかな? 」蒼星石は一瞬顔を赤くしながらも、怒った表情を作ってみせる。返事の変わりに、笑いながら蒼星石にしがみつく。すこし呆れた顔をしながらも… 結局、受け入れてくれる蒼星石が大好きだ。「それにしても、あいつは何だったんでしょうね… 」雪華綺晶が飛び越えていった門を眺める。「…って!! 真紅達の事すっかり忘れてたです! 」パッと手を離し、蒼星石をせかしながら屋敷に戻った。―――――屋根裏部屋に戻ると、そこにはまだ両手と首を吊られたままの水銀燈と真紅が居た。良く見ると、水銀燈の目にはうっすらと涙が溜まっている。「おねがぁい… もう… かんべんしてぇ… 」「ハァ…ハァ… 何を言ってるの… もう少しなのだわ」息を切らせながら真紅は答える。「でも… ほんとうに… しんじゃうぅ… 」水銀燈が弱々しい声で懇願している。双子は一瞬、ドアを閉めそうになるも、何とか思いとどまる。「 … 」「 … オマエ達、他人の家で何ハードなプレイに勤しんでるですか… 」その声に真紅が振り向く。「な!? 違うのだわ! このワイヤーがなかなか切れなくて…! 」翠星石と蒼星石、2人同時にため息をつく。「しょうがないなあ… 」そう呟くと、鋏を片手に蒼星石は水銀燈の所に歩いていった。 ♯.4 END
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