「 what a wonderful world 」-3-
~ ホワット ア ワンダフル ワールド ~ ♯3. 「 姉妹 」 -green fingers/blue streak-小高い岡の上。眼下には、町が一望できる。「歩くのって慣れないから、疲れるわぁ… 」「あら、でもこの景色を見れば、そんなの吹き飛んでしまうのだわ 」真紅はそう言い、景色を眺める。水銀燈は、少し疲れた顔で、風になびく真紅の髪を見ていた。「そぉねぇ… でも、疲れたし、ちゃっちゃと用事すませちゃいましょうよぉ 」そう言い振り返ると、そんな最高のロケーションに建っている一軒の大きな屋敷。「ずいぶんなお屋敷ねぇ 」思ったまま口にする。「ええ。ここは昔、お父様の研究に出資してくれた方の家なのだわ 」そう言い、真紅は呼び鈴を鳴らした。すると― バタバタと騒がしい足音と共に、ドアが勢い良く開いた。「真紅! 久しぶりじゃあねぇですか! 今日は急にどうしたですか?とりあえず、立ち話もなんだからさっさと上がれです!お? そいつは誰ですか? 」足音に負けない位に騒がしく、一人の少女が出た来た。「え、ええ、翠星石。久しぶりね。こっちは水銀燈。私の友達なのだわ」「ほぇー。真紅が友達連れてくるなんて、珍しいこともあるもんですぅ…まぁとにかく、さっさと上がりやがれです! 」そう言うと、さっさと屋敷の奥に走り去っていった。「…ずいぶんと元気なコねぇ」横で見ていただけだが、その勢いには圧倒される。「ええ、相変わらずなのだわ… さ、行きましょう」真紅に手を引かれて、屋敷の応接間まで進んでいった。真紅は勝手を知ってるらしく ― 水銀燈は豪華に装飾されたロビーを手を引かれ進んでいった。応接間では既に、翠星石が…客人用らしきお菓子を食べながらくつろいでいる。「今、蒼星石がお茶を淹れてくれてるですから、のんびり待ってるです」ポッキーで指差されたソファーに、2人でちょこんと座った。「真紅が友達と一緒なんて珍しいですぅ」「あ、あら、そんなこと無いのだわ」「真紅はちょぉーいとばっかし気難しいですから、心配してたですよ? 」「し、失礼ね。 レディーとしての嗜みに満ちていると言うのだわ」ケタケタと懐かしそうに笑う少女を前に、真紅は少しバツの悪そうな苦笑いをした。翠星石と呼ばれた少女が、くるりとこちらを向く。「そういえば、自己紹介がまだだったです。私は翠星石ですぅ。真紅と小さい頃よく遊んでたです」「よろしくぅ、翠星石。私は水銀燈よぉ」「水銀燈もプライドの高い真紅の相手をするのは大変じゃねぇですか? 」翠星石が屈託無く笑いながら言う。「な…! あなた何を…! 」「そんな事ないわよぉ?私には優しいし。ねぇ、真紅ぅ? 」「水銀燈! あなたまで何バカな事を… 」笑いながら喋っていると、応接間のドアがカチャっと開いた。「ほら… 翠星石も真紅をからかうのはその位にして…って、何お客さん用のお菓子パクパク食べてるの!? …太るよ? 」湯気の上がったカップを乗せたトレーを片手に、呆れ顔の人物が入ってきた。「し! 失礼な! 糖分はアタマに行くから太らねぇです!そ、それに… この栄養はきっと、全部胸にいくにちがいねぇです!」「… 言ってる事が無茶苦茶だよ? 」「きっと蒼星石はお菓子を食べないから、ぺったんこなんです! 」「… 貧乳は…ステータスなんだよ…? 」「それはただの『ステータス異常』ですぅ(ボソッ)」「なんだって? 」「何ですって!? 」同時に叫ぶ真紅と蒼星石と呼ばれた少女を見て、水銀燈は思わず吹き出してしまった。2人の視線が突き刺さる。とりあえず、小さく咳払いをして…「ごめんなさいねぇ… あまりにも息がピッタリだったものだから。私は水銀燈よぉ… ええっと… 」「僕は蒼星石。 翠星石の双子の妹だよ。 よろしく、水銀燈」どうやらそんなに気を悪くしてないようだ。笑顔で返事をしてくれた。蒼星石は全員の前にカップを置き、翠星石の隣に座った。「それにしても、真紅が友達を連れてくるなんて ―― 」―――――ひとしきり談笑をし、一息ついたとき、蒼星石がきりだした。「ところで真紅。一体、急にどうしたんだい?連絡もなしに突然やってくるなんて… 」「ええ… この手紙を読んでもらいに来たのだわ」そう言い、翠星石と蒼星石の前に一枚の手紙を置いた。2人はしばらくその手紙を読み、互いに顔を見合わせた後、真紅の方に向き直った。「そうなんだ… 少し、もったいない気もするけど… 」「そーゆー事なら、しゃーねぇですぅ」そう言うと双子は立ち上がった。「こっちだよ。 ついて来て」蒼星石に案内されて来たそこは、金庫が置いてある以外には何も無い、屋根裏部屋だった。双子が同時に鍵を回すと、カチッという音と共に金庫がゆっくり開き ―そしてその中には ― 真紅が持っていたのと同じような、赤く輝く宝石が2つあった。「うぅ… これを返しちまったら、明日から庭の手入れがたいへんですぅ… 」「いいじゃないか。2人でのんびりやっていこうよ」そう言いながら、翠星石と蒼星石は、それぞれ宝石を手に取った。「それじゃあ真紅、お返しするよ。君のお父様から預かったこの ― 」その時突然、背筋に氷の柱を突き立てられたような寒気がした。いつの間にか、部屋には異様な圧迫感が漂っていた。空気が震えているような錯覚を覚えるほどに…。そしてその気配の元をたどると ―部屋の入り口に、見知らぬ少女が立っていた。「見慣れない子ね… 知り合い? 」真紅の問いかけに、双子は強張った面持ちで首を横に振る。ほのかに朱色を帯びた白い髪と服。そして ― 右目には薔薇の飾り。一見すると、人形のように整った美しさをしているが…その少女の左目からは、異質な気配が漂っていた。「やっと見つけましたわ」そう言うと突然、少女は『何か』を投げつけてきた。『何か』― それは、薔薇の茨のような…白いワイヤーだった。「危ない! 」蒼星石の叫び声で、周囲に飛ぶ。真紅と蒼星石はすんでのところで避けたが…水銀燈は突然の事に真紅の手を離してしまい、そのまま地面に倒れこみ…翠星石は反応が一瞬遅れ、ワイヤーになぎ倒されるようなかたちになった。そして、その手から赤い宝石はコロコロと転がり落ちてしまった。「あぁ! 」翠星石が必死に手を伸ばす。もう少しで… 数センチで指が届く―だが、一瞬早く、茨のワイヤーが鞭のようにしなり、器用に宝石を拾い上げていた。白い少女は、宝石を手元に手繰り寄せる。「やっと、手に入れる事ができましたわ。ですが… 」そう言い、既に体勢を立て直した真紅と翠星石、蒼星石を見る。「この状況は少々、芳しくありませんわね」「てめぇ!この翠星石にケンカ売ろうなんていい度胸ですぅ!ふりかかる火の粉はちゃっかり払わせてもらうです!」啖呵を切る翠星石を、少女は見つめる。「強気… でも… 」そう言うと、地面にへたり込んでいる水銀燈を見た。ニヤリと笑うと― 再び茨のワイヤーを飛ばしてきた。(逃げないと…!)そう思うものの、真紅の手を離したせいで、足に力が入らない。何とか手で振り払おうとするも… その手もワイヤーに絡め獲られ…そしてワイヤーが首にがっちりと絡みついた。少女は虚ろな左目で、嬉しそうに笑う。少女はワイヤーのもう片端を天井の梁にくくり付けた。水銀燈の体が、首を吊るように持ち上がる―かろうじて足はつくが… その足には全く感覚が無い。首がじわじわと締め上げられる。「こうすれば、あなたたちは追ってこられない」再びニヤリと笑い、部屋から駆け出していった。「!! ぁ…かは…っ…」呼吸が出来ない― 視界がぼやけ、意識が遠くなる― 「水銀燈!? 」真紅は慌てて水銀燈に駆け寄り、その体を支える。おかげで再び足に感覚がもどり、少し呼吸が楽になる。「あ… ありがとう…真紅ぅ… 」少女が消えた方向を見ながら、蒼星石が言う。「真紅は水銀燈の近くに居てあげて。そして… 翠星石。これは『僕たち』のミスだ。一緒に取り返しに行こう… 」翠星石は少しうつむき… それでも強い眼差しで答えた。「はいですぅ!」双子が同時に部屋から飛び出していった。―――――廊下を走る蒼星石に声をかける。「蒼星石は… あいつの攻撃に完全に対応していたです…これは… 翠星石のミスです… それなのに… 」「何言ってるんだよ、翠星石。 頼りにしてるよ 」そう言うと蒼星石は赤い宝石を翠星石に手渡した。翠星石がそれを強く握ると ― 指の隙間から赤い光が眩く輝きだした。「絶対に… 私たちで捕まえるですぅ!! 」 ♯.3 END
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。