「 what a wonderful world 」-2-
~ ホワット ア ワンダフル ワールド ~ ♯2.「 真紅 」 -crimson blow-「さ、遠慮せずにぃ。上がっちゃってよぉ」 そう言い、家まで送ってくれた真紅を玄関に上げる。 お邪魔します、という真紅の礼儀正しい声が響く。「ふふふ…ここは私一人で住んでるから、気を使わなくても大丈夫よぉ」「え…ご家族は? 」「仕事でみぃんな、海外に行っちゃったから」そして自分の足を―動かない足を一瞥した。「こんな娘と離れられて、あいつらもせいせいしたでしょうし… 」(とんでもないコンプレックスの持ち主なのだわ。ついつい付いて来てしまったけど…)重くなりそうな空気を止める為、真紅は無理やり会話を続ける。「でも一人で暮らすのも、大変でしょうに… 」「そうでもないわよぉ。1週間に一度、食材や必要な物を配達してくれるサービスもあるし。それに私、料理はこれでも結構得意なの。何かご馳走するわよぉ? 」そう言い、屈託無く笑う。(でも、悪い人間じゃあなさそうね)その笑顔を見て、真紅もつられて笑う。「そうね…紅茶を頂けるかしら? 」「ちょっと待っててぇ 」暫くして、水銀燈がティーポットとカップをカチャカチャ鳴らしながらテーブルに来た。紅茶の良い香りが漂う。(足が不自由で大変でしょうに… )そんな事を考えながら、その姿を眺めた。「はい、どうぞ。誰かにお茶出すなんて無かったから、緊張しちゃったわぁ 」勧められるまま、紅茶を一口飲む。葉も市販の一般的なもので、水も普通の水道水の味だったが、不思議な温かさのある味だった。―おいしい。―真紅は素直にそう言い、柔らかく微笑んだ。「ところで、真紅は何をしにこの町にきたの? 」一息つき、水銀燈が聞いてくる。「ええ…お父様に…お使いを頼まれて来たのだわ」「ふぅん… 」(お使い、ねぇ…)そう思うが、それより気になる事がある。テーブルに肘をつき、猫なで声で質問をする。「ところでぇ…一体どんな魔法を使って私の足を動かしたのぉ? 」一瞬、真紅の視線が泳ぐ。しかし…観念したかのように、ポケットから小さな赤い宝石を取り出した。「この石には…不思議な力があるらしく…おそらく、そのせいなのだわ…。そして… 」 真紅は赤い宝石を水銀燈の指先に当てた。赤い宝石が静かに光だし―よく見ようと顔を近づけようとすると、真紅は宝石を手元に仕舞ってしまった。「この石は、持ち主を選ぶのだわ…。きっと…私を中継して、その力があなたに流れ込んだせいなのだわ」「じゃあ、私がその石を持てば… 」「ええ…でも… 」そう言うと真紅は、赤い石を両手で包むように持った。「これはお父様から預かったものだし…それに、常に肌身は離さず持っているように言われているの。あの公園の男も…これを狙って来たと言っていたのだわ。水銀燈…あなたには悪いのだけど… 」「なるほどねぇ… 」―譲ってもらうわけにもいかないようだし、どうしようかしら。そう考えた時、あるアイディアを思いつき…つい、顔がにやけてしまう。「ということは… 」そう言い、真紅の手を掴む。すると―公園の時と同じように、自分の足で立つ事ができた。「ということは…歩きたい時は、真紅と手を繋げばいい、ってことよねぇ」「え…? 」「やっぱり、私たち友達になりましょうよぉ?素敵じゃなぁい?友達と手を繋いで散歩とかするのも」真紅は…一瞬ビックリした表情をして、その後小さくため息をつき…それでも―最後には微笑みながら答えた。 「やれやれだわ…やけに物分りの良いと思ったら…どこまでも強引な子ね…よろしく、水銀燈― 」「そうと決まれば、連絡先の一つもおしえてくれなぁい? 」ティースプーンをカチャカチャと指先で弄びながら、水銀燈が尋ねた。真紅は少し困った顔をして ― 「実は… そうしたいのだけど、急いできたから宿もまだ… 」そんな真紅の表情とは対照的に、水銀燈は身を乗り出し、嬉しそうに言う。「だったらぁ、ここに泊まってかなぁい? 今なら三食付で、とぉってもオトクよぉ? 」子供のようにキラキラ輝かせたその目を見て、真紅は…ため息と共に、少し微笑んだ。 ―――――『この部屋を使ってくれてかまわないわぁ。ふふ…それとも、寂しかったら一緒に私の部屋にするぅ? 』そう嬉しそうに笑いながら水銀燈に案内された部屋の中で、真紅は手紙を読んでいた。父から託された手紙。それを読み終え、ベッドに少し寝転がる。そして―意を決したように起き上がり―部屋を出た。向かった先は―水銀燈の部屋。ドアの前で息をすっと吸い込み、静かにノックをする。「なぁに? 」可愛らしい声で返事が返ってくる。ドアは開けず、壁越しに要件を伝える。「その…明日、昔の知り合いに会うのだけど…も、もし明日暇ならで良いのだけど…その…一緒に来ても…構わないのだわ…」「…寂しいのぉ? 」部屋から、嬉しそうにクスクス笑う声と返事が返ってくる。一気に顔が赤くなる。「そ! そんなこと! 寂しくなんてないのだわ! 」「へそ曲げないで。冗談よぉ。 そうね…ご一緒させていただけるかしらぁ? 」「さ、最初からそう言えばいいのだわ」気が付けば耳まで真っ赤になっている。―ドアを開けなくて良かった。そう思いながら、部屋に戻ろうとした時、声をかけられた。「ねぇ、真紅」「何かしら? 」「おやすみなさぁい」「ええ…おやすみなさい」いつの間にか微笑んでいる自分に気が付く。どうも私は、この子に弱いようだ…。暫く、ドアを眺めた後― うるさくならないよう、静かに自分の部屋に戻った。 ♯.2 END
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