『新説JUN王伝説~序章~』第31話
『新説JUN王伝説~序章~』第31話誰かを守るためには非情に徹しなければならない。そのことを教えるためジュンの前に敵として立ちはだかる厳。厳は言った。「俺はお前を殺す。死にたくなければこの俺を殺すことだ。」と…望まぬ闘いを強いられるジュン、果たしてこの闘いの向こうにジュンが手にするものとは……厳「ゆくぞ、ジュンよ!!」ジ「くっ…!」紅煉の闘気を纏った厳が放つ獣の如き威圧感。これまで幾度となく稽古という立場で厳と対峙してきたジュンであったが、これほどまでに凄まじい気迫は初めて厳と拳を交えたあの日以来であったジ(師範は本気だ…やらなきゃ、殺られる!)ジュンがそう思った次の瞬間、厳が猛然と眼前へと迫る厳「えぃやぁぁぁああああああッ!!」ジ(迷ってる場合じゃない!!)ジ「てぁあああああああああッ!!」鋭い音を立て交差する拳と拳…その直後、刹那の間も置かず二人の技の応酬が始まったジ「うぁたたたたたたたたたたたたたぁぁああッ!!」厳「っぁりぁああああああああああッ!!」無数の拳撃と蹴撃、少しでも気を抜けばそこを突いて致命傷の一撃が襲いくる。それはジュンが数々の組手の中で嫌という程体に叩き込まれたことである。それには攻めるだけでなく敵の気を読みダメージを最小限に押さえながらも一瞬のチャンスを活かすことも頭に置かねばならない。それが厳との修行で最初に教えられた“水の心”である。だが…ジ(くっ…隙が全く見つからない!!)あれだけ体に受けてきた筈の厳の拳。それにも関わらず、ジュンには厳に僅かの隙も見つけられないでいた厳「ふっ…甘い!!」バシィッ!ジ「しまっ…!」一瞬の心のブレ…厳がその一瞬を見逃すはずがなかった。死角から放たれたその高速の拳はジュンのガードをはじき上げる厳「てぇやぁあああああッ!!」がら空きになったジュンの懐に厳の一撃が襲うジ「ーーーーッッ!!」虚空に舞う鮮血…だが…厳「むぅっ!」ジ「ぐ…ぅ……」ジュンは立っていた。ジュンは厳の一撃が当たる直前、とっさに体をひねり急所を外していたのだ。ジ「ふんっ!」ガシィッ厳「うッ!」ジュンの腕が厳の腕をがっちりと固める…ジ「でぁあああああッ!!」その腕へと拳を振り下ろすジュン。その直後、周囲に鈍い衝撃音が響いた…厳「ぐぅっ…!!」ジ「っはぁ…はぁ…」振り下ろされた拳はそのまま厳の左腕に直撃しその関節を破壊したのであるジ(こうすれば…流石にもう…)ジュンはそうしたことでこの闘いの終わりを確信した。しかし…厳「何故だ…」ジ「…え?」厳「何故腕でなくこの命を奪わんのだ!?」ジ「ーーッ!ぐぁああああああっ!!」残った右腕を振るい拳を放つ厳。怒りの焔を纏ったその凄まじいまでの一撃はジュンの体を吹き飛ばし地面に叩きつけたジ「ぐ…ぁ…カハッ…」厳「まだわからんか…俺を殺さねばお前は死ぬと。その状況で尚甘ったれを貫くとはな…」厳は地面に付したジュンを侮蔑したように見下ろす…厳「お前が死ぬと遺された者たちはどうなるかを今一度考えよ。それでも尚、その甘さを貫くというならばもう立ち上がるな。俺がひと思いにその運命から楽にしてやる。」厳の宣告にジュンは再び立ち上がろうと手を伸ばすが…ジ「ぅ…っ……ぐぁああああ!」少し体を動かしただけで全身に走る激痛。これまでの闘いにより体中に積み重ねられたダメージによってジュンの体には立ち上がるだけの筋力すら残されていなかったのだ厳「……」無言のままゆっくりと歩み寄る厳。ジュンは言葉を発する力すら無くした顔でただそれを見ていたジ(くそっ…やっとここまできたってのに…ここまで頑張ってきたのに……)ジュンの頭に広がる悔しさ。だが…ジ(けど…もう…)これで何度となく味わってきた苦しみも消える。そう、死ぬことで闘い続けることの苦しみからも解放されるのだジ(もう疲れたな…いっそこのまま……楽に………)全てを諦めたように瞳を閉じるジュン。だがそのときであった…ーージュン…ジ(……ん?)ーージュン…ジュン!!ジ(この声は…………真紅!?)ふいに聞こえてきた懐かしい声。その瞬間、ジュンの脳裏にひとつの光景が蘇った(ーーまた泣いているの?ジュン。)(うっ…ぐすっ…しんく…)ジ(これは……あの時の…)ジュンが見た光景…それは今からずっと昔、ジュンがまだ幼かった頃の記憶であった(もうっ!私のけらいならびーびー泣くんじゃないのだわ!)(ぐすっ…だってぇ…)(だってじゃない!いじめられたんなら強くなってそいつらをぶっとばしてやればいいのだわ!!)ジ(ははっ…懐かしいな。あいつも子供のくせに物騒なこと言ってたっけ……)その幼い頃の光景にふっと笑みを零すジュン(いいこと?ジュン…生きることは闘うことなのだわ。)(闘う…こと?)(そう、逃げてるだけじゃ何もかいけつしないってくんくんも言ってたのだわ。ましてこの真紅のけらいなら私を守れるくらい強くなってみなさい。男の子でしょ?)(しんく……うん、わかったよ!僕、がんばって強くなる!そしておっきくなったらしんくを守ってまげる!!)(ふふっ、それでこそこの真紅のけらいだわ。)ジ(そうだ…この時約束したんだ、強くなるって…真紅を守るって!!)これまでジュンを突き動かしていたもの、それは全てこの幼い日の約束から始まったのだジ(ここで諦めてたまるか…!!僕は…僕は…………ーー闘う!!)厳「さらばだ…ジュンよ!!」ジュンへと渾身の一撃を振り下ろす厳。だが…ーーバシィイッ!!厳「何ッ!?」驚愕の表情を表す厳。振り下ろされたその拳を遮ったのは満身創痍のジュンの掌であった厳「これは……むぅっ!!」ふいに厳の全身を駆け巡る寒気。その正体は地面に倒れたジュンの眼孔から放たれた凄まじい闘気であったのだ厳「この闘気は…あの時と同じの!?」厳は思い出していた。あの日、初めてジュンと闘ったとき、今と同じく満身創痍であった筈のジュンから発せられたあの闘気を。しかし厳は感じていた。今ジュンが放つ闘気が以前とは異なることを厳(いや違う、これは…あの時よりも更に激しく…強い!!)ジ「覇ぁあああぁああぁぁああああああぁ……」ーーゴゴゴゴゴゴゴ…ジュンの闘気が大地を、大気を震撼させる…ジ「ぬぅおおおおおおおおおおおッ!!」厳「ぬぅっ…!」ジュンの掌が厳の焔の拳を少しずつ押し返す。その熱に皮膚はジリジリと音を立て確実に鋭い痛みをジュンへと与えている筈だが、拳を握り締めるその力は徐々に強さを増してゆくジ「こんな痛みがなんだ……あいつらを、みんなを失う痛みに比べたら!!」ジュンの瞳に更なる眼光がたぎるジ「うありゃぁああああああああああっ!!」ブゥン!厳「ぬぉおおッ!!」厳の腕に伝わる衝撃。それは拳に纏った焔すらかき消し厳の体を後ろへとはじき飛ばした厳「くっ!!」とっさに身を翻し着地する厳。そして再び彼が顔を上げたとき、視線の先にあったものは傷だらけの体を支えながらもしっかりと二本の足で立ち上がったジュンの姿であった厳「何という男よ……あれが今まで迷いを抱え、地に伏していた者の姿か!?」ジ「僕は……闘う…例え、この手を無数の血に染めようと!!」ーー烈ッ!!厳「!?」ジュンの気迫が衝撃となり大気を伝う。その瞳はすでに数分前までの甘さを称えた瞳ではなく、迷いを振り切り新たな決意を抱いた漢の瞳であった。そしてその強き瞳は厳の体にまで変化をもたらしていた厳「ぬぅっ!こ、これは……!足が震えておる…馬鹿な!この俺があの少年の気迫に押されたとでもいうのか!?」だが今まさに自らの足が震えているのは紛れもない事実。それはジュンの放つ闘気が百戦錬磨の達人である厳の本能を揺るがした結果でもあるのだジ「もう僕は迷わない…僕はこの身を、心を、闘神(インドラ)と化して闘います!!!」咆哮と共に再び構えを取るジュン厳「…いいだろう。ならば来るがいい!この俺の全ての力でお前に応えよう!…はぁああっ!!」ジ「むっ…!」ゴキリと音を立てる厳の左腕。彼は壊されたはずの関節を自力で無理やり繋げ治したのだ厳「これで心置きなく闘えよう……っあああああああああッ!!!!」そして厳もまた再び轟焔をその身に纏いジュンへと構えるジ「貴方に授かった全てをこの拳に込め…僕は、貴方を超える!!」厳「やってみよ小僧。お前の覚悟、今一度見定めてくれる!!」相対す二人の闘士、渦巻く闘気の間を一陣の風が吹き抜ける。そして…ジ「…行きます!!うぉぉおおおおおおおおおおッ!!」雄叫びと共に疾走するジュン。果たして全ての迷いを振り切ったジュンの拳は厳を倒すことができるのか!?闘いは遂に佳境へと向かう……。続く…
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。