ずっと傍らに…激闘編 第八章~ジュンside~
──気がつけば、そこは病院だった。医「はい、注射打ちますよ」…ん?プスリ…ジ「…」看「もう少しですよ。我慢してくださいね」早く楽になるなら注射でもなんでもしてくれ…苦しい…~~~~~──次に気がついた時、僕は集中治療室で寝かされていた。その時は人の気配を感じなかったので、周りを見渡すことなく、少しボーっと天井を見つめていると、同時に激痛も目覚め始めた。腰にブスリと注射針を刺されるなんて生まれて初めてなもんだから、とにかくあまりの痛さに常に転げ回るしかなかった。すると今度は左腕が点滴の管と繋がっている事に気づく。下手に身体を動かして外れるとマズイと思ったが、動きを止めると、次は身体の節々が痛くなる。そういや家で階段から落ちたんだったっけ?…よく覚えてない。はぁ…あまりの痛さに眠れない…もう勘弁…何でこんな目に遭わなきゃならないんだっ!ABCの奴らがいなければこんな目には…~~~~~…2日ぐらい経ったのだろうか。ようやく腰への注射による痛みも和らぎ、前より楽に過ごせるようになった。今朝、医者に相談したんだが、倒れた時に見た鳥は幻覚だったらしい。さらに、此処に運ばれた時点で40度の熱があったらしい。まぁ…幻覚が見えても仕方ないだろうと僕も納得がいった。それで肝心の診断の方はというと、風邪の菌が頭に入ったみたいですね、とのこと。今日は少し元気だったからか、冗談交じりに「下手すれば脳死だった」とか言われたけど、いやぁ…入院するほどの酷さだったんだから、100%嘘だとは思えないよな…これからは健康管理には特に気をつけよう…あと、今日は久々に外から陽の光が差し込んできた。それもそのはず。ようやく症状も軽くなってきたので、窓のない集中治療室から一般病棟に移って来たからだ。一般病棟ということで、昨日までダメだった面会も許されるようになったようで、早速ねーちゃんが見舞いに来てくれた。ジ「って、学校休んだんかよ!」の「だって…姉弟…でしょ…」啜り泣きながら言うねーちゃん。僕は不覚ながらもらい泣きしそうになった──ジ「そのリンゴ切ったら…学校行けよ…」~~~~~夜。自分のベッドが窓際の位置にある僕は、自分の街の夜景をぼんやり眺めていた。丘陵地のてっぺんにあるこの病院からは街が一望できる。等間隔に並べられた一戸建ての集まりからは、夜もホッとした空気が流れているようだった。そんな住宅街の営みを眺めつつ、僕の心は月明かりが遮られるような曇り空だった。──僕は集中治療室からこっちへ移る前に看護士の人にこう言った。ジ「絶対に個室にして下さい!!」──しかし、ねーちゃんが入院費のやりくりに苦しんでるのか、それとも水銀燈の陰謀なのか、僕の主張は受け入れられなかった。まぁ…入院自体が結構費用が掛かるんだろうし、仕方ないのかもしれない。さて、個室でないということはつまりこういうことだ。例えば6人部屋の場合なら、“引き篭もり”が何の面識も無いであろう他の5人と共に暮らすことになるのである。こんな馬鹿な話あるわけないだろうと。もし、水銀燈陰謀論が正しいのであれば、水銀燈は病にもがき苦しむ僕にこう言っただろう。銀(『ずっと腰が痛いままもがき苦しんで過ごすのと、 他の子たちと一緒の病室で過ごすのと、 どっちがいいのかしらねぇ…』)──と。
銀(『集中治療室ってのはね。重篤患者のための病室なのよ? あなたは永遠に重篤患者であり続けたいのかしら? それに、個室は入院費が高くつくからパッスぅ~ あくまで4人部屋、6人部屋が原則よ。 引き篭もりから脱出する訓練だと思いなさぁい。 おーっほっほっほ♪』)──頭の中で水銀燈の甲高い声がく~るくると渦巻いて僕を苦しめ続ける。くっそー…布団の中に潜り込んで収まるのを待つか…。だが、今こうやって4人ないし6人部屋にいるという要素を除いても僕は半ば強制的に不特定多数のアカの他人と接触しかねない状況に追い込まれたのだ。それは、トイレだ。廊下を歩けば絶対他人とすれ違う。その他人の中にABCがいつ紛れ込むか分からない。いや、きっと冷やかしにくる。そう、奴らは僕のこの無様な姿を見て「アイツは馬鹿だ」と心の中で冷たく笑うに決まってるんだ。クラスで苛められた挙句に玄関で高熱でぶっ倒れて救急車で運ばれたこの僕を──…わかったよ。じゃあ、僕はそれを堂々と受け止めてやる!ヒッキー卒業だ!──こうして、僕はこの入院によって引き篭もりから脱却せざるを得ない状況に追い込まれたのだった。めでたし。…と、そんな簡単に引き篭もりが治るわけがなかった。引き篭もりとは自分の影である。起因が何であれ、一度現れるとそれはしぶとく自分に寄り添ってくる。~~~~~翠『もしもし』ジ「もしもし桜田ですけど…」翠『…え?…ジュン!?わぁ…ジュンですジュンですぅ~』ジ「遅くなってごめん。今日から一般病棟に移ったんだ」翠『良かったですぅ~…一時はもうどうなるかと思ったですよ…』ジ「あれぇ?珍しいな。お前にしては素直な…」翠『何ですか?』ジ「何も無い…ですw」僕はロビーで、自宅にいる翠星石と電話でやりとりしていた。いつ見舞いに来てくれるのかとか、そんな事を──敢えて公衆電話から固定電話に掛けた。まぁ、そんな気分だったから。電話の向こうから聞こえるのは例のおてんば4人衆の騒ぎ声か…翠『そうそう、今度の日曜までに行くですよ。そっちに』ジ「おっけー…蒼星石は?」翠『蒼星石は今風呂に入ってるです』ジ「そ…そか」翠『…あーっ!今、鼻の下伸ばしてやがるですねぇ~?』ジ「そそそんなことないぞ!だから脛蹴らないでw」翠『電話越しに蹴れるなら、今ごろ思いっきり蹴り上げてるです!』そんな僕は、話してる最中にも関わらず、今後の入院生活について余計な思考をめぐらせ、遂にあらぬことに気がついてしまった。…奴らが怖い方が早く退院したくなるじゃん。──おぉ!そうだ、これだ!何て画期的なんだ!…勝った。勝った!…水銀燈に勝った!見よ!これが引き篭もりの執念だ!どうだ!まいったか!引き篭もり魂をなめんなよ!引き篭もりは偉大だ!宇宙だ!絶対的存在だ!引き篭もり共和国に住民票を移してやる!こないだ言われたこと?あぁ、スパッと忘れてやったさ!なんせ僕は引き篭もりだからねぇ~ヒ!キ!コ!モ!リ!Wow!──…と、「水銀燈が僕を6人部屋に入院させるよう病院側に働きかけた」とあたかもそれが事実であるというような形で盛り上がっていると、電話の向こうの主が爆発して、あっさりと現実世界に引きずり戻されたのだった──銀『黙りなさい!中二病!』…い、いつの間に水銀燈が…!?翠星石の奴め…途中で代わりやがったな──水銀燈の憤激による息の荒さが電話越しに感じ取れた。あぁ…全部口に出してしまったか…僕は冷や汗をタラタラ流しながら、あたりを見回した。その場にいた2、3人の中年の患者さんが僕と目が合って、すぐに逸らした。僕の心は…ジャンクにされてしまった…。銀『身の程を知るがいいわ…』ジ「す…すみません…」
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