8月のはじめ
『保守かしら』2007年8月2日 はれおねえちゃんに蒼星石、真紅とジュンのりさん、雛苺と巴に翠星石みっちゃんばらしーちゃんと海に行ってきたかしら。偶然なんだけれど、6姉妹がみんなそろうのは、あの日以来はじめて。前の日と同じで雛苺の調子がおかしくならないか心配だったけれど、ぜんぜん楽しかったわ。じょうだんで、おでこにすいかを当てたら本当に砕けてびっくりしたかしら。それにしても、あれは何だったのかしら…。海から浮かびながら見てたんだけれど…。浜辺でジュンがおねえちゃんと話しながらちょっと照れてた。で、おねえちゃんがその場を離れると翠星石がジュンを蹴ってた。真紅がツインテールでジュンを叩いてた。巴が缶ジュースを握りつぶしてた。雛苺は楽しそうに笑ってた。いきなりのヴァイオレンスシーンに思わず海水飲んじゃったかしら。遅めの昼時にジュンたちがそのままどこかに行っちゃったから、そのすきにさっきの事を聞いたんだけれど、蒼星石は「君は…」って言って、そのまま黙っちゃった。それからみっちゃんが「んもう!カナってばそういうところもかわいい」って言ったら。蒼星石が「…絶望的だね」つぶやいて、ばらしーちゃんは「カナお姉さま…」って言ったきり悲しそうで。蒼星石は首を振って、ため息ついてた。おねえちゃんには「わが妹ながら鈍いわぁ…」って言われるし。みんな何のことか聞いても教えてくれなかったかしら。ううー、みんなひどいかしら
2007年8月7日 今日はコンクールの地方予選に出場してきたかしら。ばらしーちゃんと蒼星石が応援に来てくれたのが嬉しかった。会場は大きくてびっくり。参加者数は1万人くらいで、今日挑戦するだけでも200人もいるんだって。みんな真剣だったから、ついついつられて緊張したかしら。「いつも通りにやればいいのよ」おねえちゃんが言ってくれたけれど、それは無理。おねえちゃんがさらに「好きな曲なんでしょう?いつもの気持ちをそのまま乗せればいいのよ」って言って送り出してくれたから、もうその言葉通りに演奏したかしら。こっちだけ照らされて、客席はよく見えなかったけれど、審さ員の人たちが難しい顔でこっちを見てたかしら。そうそう、曲の名前はピチカートポルカ。あなたとおんなじ名前かしら。この曲を弾くときはいつも楽しい気持ちだもの。聞いてる人にもおんなじ気持ちが伝わるように弾いたかしら。演奏が終わった後に蒼星石が「あの審査員たちの困り顔をみた?」ってちょびっといじわるそうだったけれど、審査員の人たちが無表情だから困ったのはカナのほうかしら。 受かってたけれど、いいのかしら?もともと授業をさぼっちゃった埋め合わせで受けさせられただけだし。あんまりやる気はないし…。そういえば先生は「不真面目すぎますっ!」って怒ってたから逆効果みたい。あぁー。おねえちゃんは笑いながら「次は弾くだけじゃなくて、弾いてあげなさぁい」だって。んん?「次は【はじく】だけじゃなくて、【ひいて】あげなさぁい」って言われたかしら。おねえちゃんは今日もアトリエ。人形展に出品する作品が大詰めかしら。今日もアトリエに向かってヴァイオリンを弾くかしら。カナにとってはこっちのほうが大切。カナのいつも通りのヴァイオリンはおねえちゃん宛て。さすがにちょびっと気恥ずかしいから、言わないけれど。
2007年8月11日 はれねぇピチカート。今日は夜の学校に忍び込んできたかしら。大きなカボチャの幽霊が出るって、最近学園中のウワサ。ばらしーちゃんはかぼちゃが嫌いだからすごく怖がってて、部活中にもその話になったんだけれど、ちょうどそこに蒼星石がいて、話が転がりだしたかしら。
蒼星石が幽霊がきっと幽霊に違いないって言い出したけれど、カナは科学部らしく幽霊の存在なんて信じてないかしら。怖いんじゃなくてっ。 言い合いだけじゃなんだから、きっちりウワサの正体を確かめに行くことになったの。幽霊とあらばきっちり正体を突き止めるのが、科学部の勤め。カナが思うに、幽霊はたぶん、何かの波かしら。
科学部伝統の学園のセンサーの抜け方は、今でもばっちり生き残ってて、深夜の学園にもあっさり匍匐で潜入成功したかしら。みっちゃんがデジカメで記録係、カナとばらしーちゃんは周波数カウンタにピトー管、ガイガーカウンター。もうちょっと準備の時間があればよかったんだけれど。
蒼星石はマントに十字架聖水で、いつもより生き生きしてた。みっちゃんのカメラもシャッター音が響かないようにさせて、もう見る気満々だったみたい。
夜の学園が面白くて、いろんなところを探し回ったんだけれど、結局空振り。 途中に話してくれた蒼星石の怪談がすごくて、怖い思いもしたし。もう帰ろうか。って時にそれが聞こえたかしら。
「ょ…く……」女の人のうめくような声。みっちゃんと蒼星石が、顔を見合わせて。声のした校舎の玄関を見たの、そして二人は次の瞬間悲鳴を上げて走り出してたかしら。カナはちょびっと遅れて、ばらしーちゃんに手を引かれてから走って逃げたかしら。それまで、玄関の屋根にでた、楕円のシルエットを見ていたかしら。
学園を出て、みんなぜいぜい言いながら 「本当にでたぁ!」「本当に心霊写真になってたらどうしよ…」口々に言ってたかしら。
でもねピチカート。カナははっきりとあのシルエットの正体を見たのよ…。 あれは…。
顔だけ出るタイプのくんくん着ぐるみを着た真紅だったかしら。 呻くような声はきっと、くんくんの声まね。たぶん学園のふいんきがくんくんの舞台に似てるから、きっと時々人目に付かないようにしてごっこ遊びをしてたのね。
「ああ…くんくん」呟きながら、月の向かってうっとりする着ぐるみ真紅…。乙女の情けで、このことは黙ってカナ一人の胸の奥にしまっておくかしら。
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