#001
労働は国民の義務。長い間それを放棄していた僕に、罰が下ることになった。でも、僕は案外、この生活を気に入っている。正直な話、バイトとか家賃取立てとかで楽なわけじゃないけれど。『楽』してた頃より、ずっと楽しい。生きてるって感じがする。僕は生きている。彼女たちと共に。『桜田荘物語』騒音で目が覚める。朝から騒がしくてたまらないが、原因を考える必要がない。だってここの住人たちの仕業だってことは分かりきっているから。みんながみんな、ノイズを撒き散らしている。ある者は金属と金属の擦れ合う音を出し、ある者は階段から転げ落ち、ある者は「あーもう! なんで見つからねーんですか! おなべ!」と絶叫し、ある者は・・・こいつも階段から落ちてるなぁ。ある者はキッチンを起爆させ、ある者はそれを見て笑い、ある者は掃除をし、ある者はなぜか僕の部屋でテレビを見ている。親から受け継いでおいて何を言うか、と思わないこともないが、このアパートの壁の薄さは尋常ではない。こんな住まいではプライバシーもクソもあったものではない。・・・現に他の部屋の住人にドアを勝手に開錠され、部屋に居座られているし。目覚めた直後の騒音ラッシュで軽い頭痛を感じるものの、無視する。「勝手に人の部屋に入るなよ。プライバシーという言葉を知らないのか? 薔薇水晶」「ブライダル?」「素晴らしい文字の合致率だ! すごいぞ! 5文字中2文字しか合ってないや!」「・・・喜んでもらえてうれしい」「誰も褒めてない! 出て行きなさい!」テレビの電源を落とし、薔薇水晶の首根っこをひっつかみ、外へと放る。時計を見る。13:30・・・今日が日曜日でよかったです。なんという寝坊・・・。悪いのは僕だった。「今日が日曜日でよかったね・・・」僕の真後ろから唐突に聞こえる声。窓から薔薇水晶が顔を出していた。・・・あのう、ここ、2階なんですが。勝手に宙に浮くなよ。物理法則くらいさ、守ろうよ。「超能力じゃない・・・ロッククライミング・・・」さいですか・・・。でもその読心はなんなんだよ。「でも・・・今日は・・・」くぐもった声で、彼女は言う。薔薇水晶は一応僕よりは年上ではあるけれど、顔をうつむける姿はやはり女の子。可愛い。「今日はジュンと買出しに・・・」「買出し? なにそれ」「! ・・・ジュン、ひどい」「なんなのさ、それ」「今日はみんなですきやきパーティの日・・・」「あ・・・」忘れてた。「翠星石に言っちゃおうかな・・・おーい、すいせいせきー」なんですかァー、と翠星石が頭を出したようだけれど、僕には見えない。「あのねェー、ジュンがねェー」普段の彼女の声のボリュームを知っているものなら、驚くであろう大声。だがそんなことはどうでもいい。現時点での問題は翠星石の機嫌を損ねない事である。「あああああごめんなさいごめんなさいごめんなさい言わないでお願い! 今すぐ支度するから! 本当ごめん!」「よろしい。・・・やっぱなんでもなーい」なら呼ぶんじゃねーですぅ、と、翠星石の声が壁越しに聞こえた。生着替えを見られてしまうが今は気にしている余裕はない。なんか、「眼福、眼福」とか誰かが言ってる気がするけど無視。薔薇水晶はキャミソールなんて着てるけど、こいつに季節感など期待してはいけない。葉が黄色く染まっているどころか、ほぼ全て抜け落ちているイチョウを、薔薇水晶の背後に見る。ああ、きっと今日も寒いんだろうな。そうか、今日はすきやきか。晩御飯が楽しみだ。終~NGシーン~13:30・・・今日が日曜日でよかったです。なんという寝坊・・・。悪いのは僕だった。「今日が日曜でよかっうわらばぁぁっ」ドサリ「無茶しやがって・・・」僕の眼下には、2階から落下してノビている薔薇水晶の姿があった。戻
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