あとはジュンと同学年ということもあって、カナチビも一応注意が必要ですね…。
ばれないよーに、じーっと見るですよ。
黄色のワンピースにフリルのついた水着、半透明のオレンジ地に白の水玉の浮き輪…。
「はい、うーっ、てして」
「あい」
水銀燈に日焼け止めを塗ってもらっている姿…。
「ふふ、おでこにはたっぷり塗らなきゃね」
「あい…くすぐったいかしら」
クルクルピーン。結論が出たですぅ。
こいつはまだまだお子ちゃま。考慮に入れる必要はないですね。それにしても…。
「うわ、すごい照り返し」
「かしら!?」
「ふふ、冗談よぉ。はい、これでばっちり」
「今度はカナがおねえちゃんに塗るかしら~!!」
なんだって、こいつはいつも幸せそうなんですぅ?
チビカナと薔薇水晶にみつは一目散に海に駆けていったですね。
水銀燈はチビカナにいろいろ注意してる。
雛苺と巴は波打ち際で、真紅はのりを使ってパラソル建てですか。
ジュンはどこです…あっ、いた。
「ジュン!」
チビカナと薔薇水晶にみつは一目散に海に駆けていったですね。
水銀燈はチビカナにいろいろ注意してる。
雛苺と巴は波打ち際で、真紅はのりを使ってパラソル建てですか。
ジュンはどこです…あっ、いた。
「ジュン!」
ジュンがこっちを振り向いて――そしてすぐに俯く。ふふ、いい反応ですぅ。
ここは無邪気に聞くですよ?
「ジュン急に俯いて、どうしたんです?」
「いや、その」
「なんでもないならちゃんとこっちを見るですよ?」
ジュンがおずおずとこっちを見る。顔を赤らめてて、すごくかわいい。思わすぎゅうっとしてあげたくなるですけれど…まだ我慢ですぅ。
悟られない程度に、深呼吸。
「どう、似合うですか?」
ジュンが黙りこんじゃった。うう、ジュン、ここまで踏み込んでスルーだったら翠星石は…
「…」
ジュンが何かをつぶやく。
「え?」
「すごく、似合うよ」
さっきなんて比べ物にならないくらい赤くなった顔。ああ、もう。
「ジュン!のりを手伝って頂戴!」
真紅の声。
「い、今行くよ!」
ジュンが上ずった声で返事をして、「ちょっと手伝ってくるよ」言い残してさっさと行っちゃう。あ、こけそうになった。
ついていこうかと思ったけれど、やめとくです。
ジュンから離れたら、急に顔が熱くなってきました。これは日差しのせいではないですね、やっぱり。きっと今翠星石はジュンと同じ
くらい顔が赤くなってるはずです。
冷たいジュースでも買いに行こうっと。
本当に迷ったけれど、思いきって着て正解だったですよ、緑のビキニ。
行って帰ってくる間にパラソルは立ったみたい。さらに折りたたみのビーチチェアが二台にレジャーシート。ジュンはよく働いたん
ですね。
ふふ、一仕事終えたジュンにすかさず冷たい飲み物をさし入れて、ポイントアップ作戦。失敗の確立は限りなく低い、手堅い作戦です。
ジュンはパラソルの前にいて―――話しているのは水銀燈?
「パラソル立ててくれたみたいね、ありがとう」
「いえ、そんな…簡単でした」
ジュン、なんで水銀燈にはそんなに丁寧語で話すんです?
「ええっと、今日はありがとうございます」
ジュンが自分から会話の糸口を探してる…。
「気にすることはないわよぉ、それよりも貴方にはいいアイディアをもらったもの。こっちがお礼を言わなきゃ」
「いえ、あんなの大したことないですから」
「あら、自信家ね?」
「!そういう意味じゃなくて」
「ふふ、冗談よ」
ジュン、水銀燈はジュンをからかってるだけですよ、何で嬉しそうなんです?顔を赤らめてるんです?
いつの間にか横にいた巴にジュースを渡した。
鈍器を手放すなんて、意外と落ち着いてるじゃないですか。自分。
水銀燈がどこかに歩いていく。翠星石とは反対方向ですね。ジュンは名残惜しげにその背中を見てる。
そういえば、海に入る前の準備運動を忘れていたので、ちょうどいい機会ですね。
浜辺を全力で駆けだす。砂浜とはいえ、快調な滑り出し。ゴールはジュンの背中。その手前でジャンプ。
「こぉんの、おばかー!!」
渾身の力を篭めたとび蹴りは、見事ジュンの背中をぶち抜いたです。
海水に素足を浸すとひんやりとして気持ちいいですね。あ、水底で蟹が動いた…。
「何たそがれてんだよ」
背中にかかる、ぶっきらぼうな声。やっぱり怒ってます。…当たり前ですか。
けど、翠星石を迎えに来てくれたんですよね。ジュン。
「ほっとけです」
「人を蹴っておいて、なんだよそれ」
「ああもう、そのことなら謝ってやるからあっちいけです」
岩場に腰掛けて、水平線を見る。ジュンのほう絶対に見ない。
「やだ。僕が近くにいるのが嫌なら、お前があっちいけよ」
「そいつぁ、できねぇ相談です」
「この意地っ張り」
「さっき蹴った時に足をくじいたです。正しくは着地したときですが」
へへん。この翠星石、格闘技の経験は全くないですよ。受身?なにそれ。
「んな。その足でここまで走ってきたのかよ」
「くじきたては案外どうとでもなるモンです。蒼星石が迎えに来てくれるだろうから、安心してとっとと消え
うせやがれですぅ」
「残念。ここまで来るように言ったのは蒼星石と水銀燈さんなんだ」
ジュンはしてやったり。と言う感じの声音。
「僕以外には誰も来ないよ。」
とジュンは勝ち誇りながら続けた。
「あ、そう。」
「なんだよ」
自分から迎えに来てくれたんじゃないんですね…。
「もうほっとけです」
自分でも驚くくらいに力のない声。なにやってるんだろう。
なんなんです。自分。ジュンはいつも通りなのに、自分ははしゃぎまわって。勝手に喜んで、怒って。蹴ったのは翠星石。でも止まらんです。
「ほっとけです」
もう一回、言っちゃった。謝るのは今しかないのに。何でジュンを怒らせることばっかりしてしまうんでしょう。
もうジュンには嫌われたに決まっているですぅ。
「しょうがないなぁ」
ちょっと苛ついたジュンの声。
ジュンの影が動いた。いなくなっちゃう?
ぎゅうっと、膝を抱きしめる。
けれど、ジュンの影はどんどん大きくなってきた。
「おぶるよ。とにかくみんなのところまで戻ろう」
ジュンは優しく笑ってて、思わず泣きそうになったですよ。
「無理するなです。翠星石は肩を貸してくれるだけでいいんですよ?」
「大丈夫。僕が背負うって言ったんだから」
「案外頼りになるんですね」
「案外って何だよ、案外って」
ジュンの体温が日差しにも負けないくらい、熱い。けれど、翠星石も一緒ですね。
翠星石よりも、頭一つ小さいくせに。こんなに頑張ちゃって…。
肩を貸してくれるだけでいいなんて、嘘。このまま二人がずっとくっついていられたらいいのに。
ずっと二人でいられたらいいのに。
ぎゅうって、ジュンを強く抱きしめる。
「ちょっと苦しいよ。それに背中に…む、む」
「あのね、ジュン。」
もう気持ちが抑えられんですぅ。
「翠星石はジュンをあ、あ」
「あらぁジュン君がんばったのね」
パラソルの下で、ジュンがのりに扇がれているです。
「ジュン大変だったのー」
「背負いすぎたのかしら?前かがみが癖になっちゃったの?」
ちょ、覗き込んじゃいかんですよお子様。
「カナ、ちょっとこっちに来てちょうだぁい」
「なにかしら?」
流石水銀燈。
アクエリアスを一口。日差しよりも、ジュンの体温で火照った体に、冷たい液体がゆるっと落ちてく。
けっきょくありがとうとしか言えなかったです…。
けどね、ジュン。
翠は本当にジュンが大好きなんですよ。
こんなに人を好きになったことなんて一度もなかったんですから…。