『新説JUN王伝説~序章~』第27話
『新説JUN王伝説~序章~』第27話山寺の庭に向き合ったジュンと、円谷の師・厳。渦巻く闘気と気迫…そこには静かな寺にはおよそ似つかわしくない雰囲気が立ち込めていた…ジ「てぇえええええッ!!」その均衡を打ち破り最初に仕掛けたのはジュンであった。雄叫びと共に強く握った拳を掲げ厳へと疾走するジ「覇ぁっ!!」高速の拳が厳を捉えようと放たれる。しかし厳は眉ひとつ動かすことなくその一撃を左手に受け…厳「っぁあッ!!」ジ「!?」その手でジュンの腕を掴み、その突きの威力を利用しジュンを天高く投げ飛ばしたのだジ「…っく!!」しかしジュンも空中で体を捻ると体制を安定化させ地面との衝突を緩和させた厳「ほう…少しはやるようだな。」ジ「当然…まだまだぁ!!」着地点を強く蹴り上げ再び厳との間合いを詰めるジュンジ「北斗、百烈拳!!」瞬間、ジュンの無数の連撃が厳を襲った厳「むぅっ!?」ジ「ぅあたたたたたたたたたたたたたぁッ!!」 北斗百烈拳…それは北斗神拳に伝わる超高速の連撃拳。目にも止まらぬ速さで技を繰り出し敵の秘孔を突く北斗神拳の基本にして最も一般的な必殺技である。この技の前には通常どんな敵もなす術なくデク人形の如く攻撃を受け、やがて倒れる運命にある。だが…ジ「……なっ!?」ジュンの放った拳はただの一撃も厳に当たることなく虚しく空を切っていた。なぜなら厳はジュンの連撃を上回る速度で全ての拳の威力を外へと受け流していたのだジ(それなら……これならどうだ!?)瞬間、ジュンはその拳速を更に上げる…ジ「破ぁああああああああああああああッ!!!」極限にまで速度を高めたジュンの連撃が厳へ放たれる。だが、厳は小さく息を吐いたかと思うとその両手でジュンの高速の双拳を握り止めたジ「なっ…!?」厳「そのような技…既に見切った!」ドガァッ!ジ「ぐあぁっ!!」死角から放たれた厳の側刀蹴りが腹部を捉え、ジュンは後方へと蹴り飛ばされたジ「ぐ…ぅ…」厳「どうした…?お前の力とはこの程度か?それでよく、北斗神拳を使おうとなど思えるものだ…。」ジ「くっ…なにを…」厳「北斗神拳は伝説として語られ、最強と詠われる拳法だ。お前のような未熟者が扱うには荷が重すぎる。」ジ「あんたに…何がわかるってんだ…!?」厳の身勝手ともとれる口振りにジュンは憤りの声を上げる。だが厳はそれに構うこともなく言葉を続けた厳「過ぎた力はやがて身を滅ぼす。強大な力とは常にリスクとして使う者にのし掛かり、それに耐えられぬ者は自ら滅ぶか、ただの破壊者に成り下がるしかない。俺は、そんな者たちの末路をいくつも見てきた…。」そう言う厳の目に一瞬ではあるが深い悲しみのようなものが浮かぶ…ジ「あんたが何を見てきたかは僕にはわからない…でも!僕はそんな奴には絶対にならない…そんな奴らから大切なものを守るために、僕は闘うことをやめるわけにはいかないんだ!!」厳「若いな…ならばお前に問おう、お前は…人を殺めたことはあるか?」ジ「!」厳の言葉にジュンは言葉を失った厳「その様子ではないようだな。」ジ「あ…当たり前だろ!?そんなこと…」厳「…そんなことだと?」ジュンの答えに厳の眉が歪む厳「その程度の覚悟で闘いを口にするとは笑止!闘いを決意した瞬間から命は奪うか奪われるか二つに一つ!!」厳は獣が吠えるかのようにジュンに大声を上げたジ「そんなこと…戦意を無くした敵にわざわざ命を奪うまでしなくてもいいじゃないか!」厳「だが!とどめを躊躇いお前が手を下さねば、いずれ後ろの者たちが殺される!非情に徹しなければそこに無駄な血が流れる…失った後で後悔しても手遅れなのだぞ?そのような甘い考えで闘おうなど…笑わせるな!ここで俺が引導を渡してくれる!!」ーー豪ッ!!刹那、周囲の大気を貫き衝撃が駆けるジ「!!?」それは厳から放たれた怒りを孕んだ猛烈な闘気であった…ジ(なんて気迫だ…まるで体が灼かれるようだ…!)ジ「だが…何と言われようが、僕も負けるわけにはいかないんだ!!」ーー覇!!ジュンもまた厳に応えるように体から闘気を迸らせ、厳へと構えを取るジ「くらえ!北斗、剛・掌・波ぁああああああああッ!!」そしてジュンは高めた闘気を両掌に集中させると、その全てを厳へと向けて撃ち放った。解放された闘気は凄まじい破壊の奔流と化し、大地を粉々に砕きながら厳へと向かう。だが…厳「渇!!」剛掌波の衝撃音を上回るような咆哮を上げる厳。その瞬間、二つの衝撃がぶつかり合い轟音と共に大地が大量の砂塵を巻き上げたジ「そ…そんな馬鹿な…。」やがて晴れてゆく砂塵。その向こうから無傷で現れた厳を見てジュンは言葉を失う。厳は剛掌波の威力を気迫だけて軽々と相殺してみせたのだジ「ぐっ…うぅ…」苦しげに地面に膝をつくジュン。全力を乗せた一撃を放ったことによる疲労が反動となり、その体からは急速に闘気が抜け始めた厳「それがお前の渾身の拳か…?」それとは対照的に厳は尚も凄まじい気迫を放ちながらゆっくりとジュンに歩み寄るジ「くっ…くそ!」厳「お前の拳には重さがない…。よく見ておけ、渾身の拳とは…こういうものをいうのだ!」刹那、厳から今までのそれよりも遥かに激しい闘気が放たれる。そして次の瞬間、ジュンの目に信じられない光景が飛び込んできた…ジ「なっ!?」厳「刮目せよ。これが我が“獅子吼焔流”の真髄だ…。」厳の体から立ち上る闘気は緋色に色を変え陽炎の如く揺らめき…そしてその両腕には紅煉の焔がより烈しい輝きを放っていたのだ厳「獅子吼焔流を極めた者は、その内なる闘気を焔として纏うことができる。それは一切の敵を焼き尽くす煉獄の焔と化すのだ…。」厳はその身から放つ熱で大気を焦がしながらジュンとの距離を縮めてゆく。その姿まるで燃え盛る焔の鬣を持つ獅子そのものであったジ「ぅ…ぁ…」一歩ずつ自分に迫る巨大な獣…その圧倒的な存在感を前にジュンは攻めることも守ることもできず、ただ恐怖に立ち竦むことしかできなかった厳「英二には悪いが…己の甘さを悔やむのだな。」ジュンとの間合いを詰めた厳の右拳がより一層の輝きを放ち燃え上がる…厳「焔よ、我が手に集いて牙となれ!」右拳を覆っていたそれは厳の意思と共に一瞬で双顎の形を成す厳「奥義・獅焔吼牙掌!!」そして厳はその必殺の一撃をジュンへと向けて撃ち抜いた。轟ッ!と周囲に響く衝撃…焔の牙と化した厳の掌撃は全てを噛み砕くが如き破壊力を持ってジュンに炸裂する。その威力にジュンの体はそのまま庭の隅まで大きく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられたジ「が…ぅ……ぁ…」口の中に広がる鉄臭い血の味…全身は裂傷と火傷にまみれジュンは体を動かすこともできずにいた厳「お前は英二の教え子だからな…特別に手加減はしてある。命に別状はなかろう…。」いつの間にかジュンのそばにまで近付いていた厳が彼を見下ろして呟くジ(冗談じゃない…あれで手加減したっていうのかよ…)薄れゆく意識の中で辛うじて正気を保ちながらジュンは必死に立ち上がろうとする。だが、それに反してどんどんと体の感覚が無くなってゆくジ(今回ばっかは流石に駄目か……みんな、ごめん…みんな……)みんな…ミンナ…ミンナ…ジュンの脳裏に走馬灯のように浮かぶ仲間の顔。水銀燈、金糸雀、翠星石に蒼星石…彼とともに掛け替えのない時間を過ごした友人たちジ(真…紅……)そして最後に浮かんできたのは自分を家来と呼び、散々こき使ってきながらも昔から自分を頼り、必要としてくれたひとの顔。だが、次に浮かんだ映像は…紅「ジュ…ン……」ジ(…なっ!?)冷たい地面に横たわり、血に濡れた顔と力ない青い瞳を自分へと向ける真紅。それだけではない、その周りには炎に包まれ燃え上がる故郷の街と、変わり果てた姿と化した大切なひとたちの姿…銀「ジュン…私…ジャンクになっちゃった……」金「痛いかしら……ジュン…みっ…ちゃん…」翠「ジュ…ン……体が…動かない…です…」蒼「ジュン君……苦しい…苦しいよぉ…」ジ(やめろ……やめてくれ!!こんなこと、こんなことが…!)雛「ジュン…痛いの…助けてなのぉ……」薔「ジュン…ごめんね…私、もう…ジュンのお嫁さんになれない……」雪「ジュン様…どこですの?……何も…何も見えません…」ジ(やめろ!やめろやめろやめろやめろやめろぉおおおおお!!)そこに満ちる無数の血と死…その悪夢のような光景にジュンは目を閉じるが、その断末魔の声は決して耳から離れない巴「桜田君…寒いよ…暗いよ…」み「ジュンジュン…カナは…カナはどこ…?」め「ジュン君…私、死にたくないよ…」の「ジュン君…お姉ちゃん、もう駄目みたい……ごめん…ね…」ジ(うわぁああああぁああぁああぁぁああああああぁああああああぁああああぁぁああッ!!!!)目の前で消えてゆく自分が守りたいと思った人々の命。その地獄絵図に発狂しそうなほどの悲鳴を上げるジュン。ジ(僕のせいだ…僕が弱いばかりにみんなが…みんなが…!)全てを失い、暗闇の中に崩れ落ちるジュンの意識。だがそのとき、ジュンの体に信じられない変化が起きた…『ドクン…』厳「…むっ?」ジュンの体を抱えようと膝を付いていた厳を一瞬妙な違和感が襲う厳「今のは…気のせいか?」『ドクン…ドクン!』厳「!?」気のせいではない、今度は確かに感じた。その違和感を確信に変えた厳は素早くジュンから離れ間合いを取った。そして…厳「これは……」眼前で起きた光景に厳は頬に一筋の汗を流す。それもそのはず、自らの拳によって確かに満身創痍のダメージを負わせた筈の少年が前にも増した闘気を身に纏いその傷だらけの体を起こしたのだから…厳「一体…あの少年に何が……」厳がそう呟いたその刹那…ーードンッ!厳「!?」一瞬で厳の間合いに飛び込むジュン。そのまま加速を乗せた拳を厳へと放つ厳「…くっ!」とっさに腕を交差させそれを防ぐ厳。その両腕に強烈な衝撃が走る…ジ「はぁあああああああああああッ!!」間髪を入れず空気を切り裂き高速の蹴りを放つジュン。だが、厳はそれを紙一重でかわすと後ろ向きに回転し再び間合いを取った厳(今の拳…先程とはまるで違う!これは…)構えを取り直しジュンを見据える厳。その両腕は今の攻撃による鈍い痺れが残っていた。その間にもゆっくりと構えるジュン。その体から立ち上る闘気は尚も膨張を続け、周囲の大気を震わせている厳「いいだろう…今一度見よ!獅子の焔を!!」咆吼する厳。その体に再び緋色の闘気が宿るジ「てぇえええええぁああああああああああああッッ!!」それを待っていたかのように拳を構え疾走するジュン。厳もまたそれに応えるべく焔を纏った拳を掲げ大地を蹴ったジ「っぁあああぁああぁぁああぁああッッ!!」厳「えぃやぁああああああああああッッ!!」ふたつの渾身の拳が一直線に向かい合う。だが、そこに衝撃がぶつかり合うことはなかった…ジ「ぁあ…ぁ…ぅ……」厳「!?」拳と拳が重なる直前、ジュンの体は糸の切れた人形のようにバッタリとその場に倒れ込んだのである厳「この少年……やはりその想いだけで立っていたのか…。」そう、ジュンの体はとうに限界を迎えていた。だが自分が意識の中で見た悪夢…今のままではやがて現実に起こるであろう悲劇を防ぎたい一心で己の体を動かしたのだ。ジュンは許せなかった。大切な者を踏みにじる存在を、そして何よりそれを前に何もできない自分の無力さが…その強い想いがジュンを支え、厳をも凌ぐ無限の闘志を呼び覚ましたのであった厳「むっ!?」そのとき、厳の頬を赤い雫が流れ落ちた。厳「まさか…あの蹴りが…」完全にかわしたように思っていたジュンの蹴り、しかしその一撃は微かに厳をかすめ、その体に僅かな傷を付けていたのである厳「この俺に一撃を加えるとはな…このジュンという少年、もしや底知れぬ器かもしれん…。」地面に崩れたジュンを目に厳は神妙な面持ちで呟いた…【翌日…】ーーチュンチュン…ジ「…ん…ここは…」目を覚ましたジュンは自分が寝かされていた見慣れぬ光景に辺りを見回す厳「遅いぞ、いつまで寝ている。」ジ「うわぁっ!あ…あれ?どうしてあんたが…」いきなり部屋に入ってきた厳にジュンは困惑の表情を向ける厳「当然だ。ここは俺の寺なのだからな。」そう、厳は倒れたジュンを手当てし、自らの住む寺へ寝かせていたのだ厳「それより、起きたのならさっさと飯を食って支度をしろ。」ジ「え?し…支度って…?」厳の口から出た言葉に更に困惑するジュン厳「いつまで寝ぼけているのだ!お前が何をしにここに来たのかを忘れたのか?」ジ「え…あ…あぁっ!!」その言葉にジュンはやっと我に帰った厳「まぁ…無理にとは言わぬが……」ジ「や…やります!やりますから待ってください!!」ジュンは部屋を去ろうとする厳を必死で呼び止めると布団から飛び出してその後を追うジ「はぁ、はぁ…でも…どうして急に修行を?」厳「…覚えておらんのか?…まあよい、年寄りのほんの気紛れだ。」ジ「何ですかそりゃ…」厳「それより…さっさと朝飯を食べて支度をしろ。時間がないのだろう?」ジ「あ、は…はい!」厳に案内され高速で朝食をかっこんだジュンはその後、昨日の闘いを繰り広げた寺の庭で厳と対峙していた厳「これを身に着けろ。」ジ「うわっと…これは、胴着?」厳から投げ渡されたものはところどころに傷や汚れの染み付いた古い胴着であった厳「そうだ。俺が若い頃身に着けていたものだ……英二もそれを着てここで修行した。」ジ「先生が…これを。」厳「それを着たなら、その瞬間からどんな苦行からも逃げることは叶わぬぞ。その覚悟があるなら…」ジ「言われなくても……そのつもりです!!」ジュンは厳の言葉が言い終わらぬ間に身に着けていた上着を脱ぎ捨てると、厳と円谷が流した血と汗が染み込んだ胴着を纏い、腰に黒い帯をきつく締めた。この瞬間、ジュンは厳の正式な弟子となり、本格的な修行の日々が始まったのである…。続く…
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。