みんなで体育祭
パァン、パァン、パァン。時間を知らせる花火が打ち上げられる。今日は桃種市の市民体育祭。地区毎で別れての血で血を洗う仁義無き闘いの日だ。「「黒翼・紅薔薇乱舞よぉ・だわ!!」」「秘技!瞬パン食!」「「ツインズシンクロニティ!!」」「今よ!伏兵、仕掛けるかしら!」「…おk…突撃…!」「雛苺に寄らば…斬る!」「命とったるの~!」…え~と。修羅場になってるけど、上から玉入れパン食い競争二人三脚棒倒し騎馬戦の、はずだ…たぶん。彼女達、通称薔薇乙女+1の一騎当千の活躍で目下の所首位を保っている。何故こんな事になっているかと言えば、めぐさんに煽られたのが原因だ。 『今度の市民体育祭、私運営委員なんだけど、スッゴいオマケあるんだって。なんと優勝地区の中から最優秀選手が選ばれて、ペアで温泉旅行がプレゼントなのよ!カップルで行けたら最高よね~!』まんまと煽られた薔薇乙女+1はご覧の通り、人外魔境な技と策で並み居るスポーツマンやウーマンを薙ぎ倒しているって訳。めぐさんも人が悪いよなぁ。運営本部のテントの中で腹抱えて笑ってるし。僕としては自分の貞操が危ういのであまり笑えない。さて、僕の出番が近づいて来たな。僕が出るのは借り物競争。多分に運が絡む以上、気楽にやれるかと思ってたんだが…前の障害物競争でみっちゃんさんが転倒してビリになり、2位との差が縮まって逆転される可能性が出て来た。あ、みっちゃんさん、金糸雀にシバき倒されてる。 「ジュン、どんな手を使っても1位を取るのだわ!」「殺る勢いで行きなさぁい!」「2位以下のゴミ共は皆殺しなの!」声援とは思えない声援を受けてスタートラインにつく。ああ、周りからの視線が果てしなくイタい。頼むから皆殺しコールはやめてくれ…位置について…よーい…ドン!レースは始まってしまった。まずは冷静に分析だ。他の選手は、二十歳位の女の人・50過ぎのメタボオヤジ・小3程度の小僧・30前半のおっさんの計5人。まあ、足だけならほぼ負ける事は無いだろう。問題は封筒の中身、借り物が何かという事なんだが…封筒の前には一番で来れた。どれに…よし、これだ!なになに…………………………………………取り敢えずひっくり返して…いやいや反対からか…もしかして縦読みか…? 『一番仲の良い異性』取り敢えずチームの元には戻ったけど…「桜田君、何だったの?早く見せて?」「何が来てもいいよう、大抵の物は用意しておきましたわ!」「何だったんだい?えっと『一番仲の良い異性』……!?」…ヤバい。9人共、潤んだ瞳に烈火を宿して見つめてくる。自分を選ばなかったら…って目が言ってるな…ふと、振り返ると双眼鏡片手に転げ回りながら爆笑するめぐさんが見えた。あんたの仕業か…「ジュン!早く選ぶです!」「…急がないと…他の人が!」「ここで負ける訳には行かないかしら!」9の手が出されるが取る事が出来ない。どの手も地獄行きの片道キップにしか見えないなんて、貴重な体験かもしれないな。けど選ばないと、勝てないからやっぱり地獄行き。一体どうすりゃ… 大きく深呼吸。もう一度文字を読み返す。『一番仲の良い異性』覚悟は決まった。僕は手を握ると一目散に走り出した。相手は驚いているけど、しっかりとついてきてくれている。そのまま僕達はテープを切って、見事一着でゴールインした。「ジュン君ずるいわね。せっかく強烈なの仕込んどいたのに。」大会が終わり、僕達は優勝して、僕が最優秀選手に選ばれた。理由は難しい借り物を見事クリアしたからとか。もうお気づきの人もいるかな?そう、僕は姉ちゃんを選んだんだ。「お姉ちゃん驚いちゃったけど、嬉しかったわよぅ。」一番仲の良い異性ってだけで、家族はNGとは書いてないしな。こうして手に入れた温泉旅行を巡り、再び争奪戦が起こる訳だけど。それはまた、次の機会に。おしまい
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