『新説JUN王伝説~序章~』第25話
ここは静かな夜の旅館…だが、現在その一室では8人の乙女たちの地獄の業火の如き闘いが繰り広げられていた…銀「この貧乳ううぅ!!」シュバッ紅「黙りなさいこの乳牛がぁっ!!」シュババッ薔「左舷弾幕薄い…何やってるの!?」翠「コンチキショー!いい加減くたばりやがれですぅ!!」雛「うゆ…え~い!」金「ふぎゅ!やったわね!覚悟するかしらー!!」中央に立てられたテーブルで区切られた部屋の中を猛スピードで乱舞する無数の物体。それらは全てこの部屋に置かれた枕である。本来は客人に安らかな眠りを提供するはずの枕は今やこの8人の少女たちによる争いの道具になり果てていた…ジ「ちょっ…お前らいい加減に…ぶぅっ!!」紅「ジュン、邪魔よ!」雪「これは私たちの闘いですわ、貴方は引っ込んでいてくださいまし!!」争いを止めようとしたジュンの両頬にヒットする枕…この闘いは最早彼ですら止めることは不可能なようである。そう、今や彼女たちの賞品である彼には…… ジ「ここからが…本当の地獄だ…ぐぅっ。」友人の某M字禿が以台詞を吐きながらジュンは静かにその場に崩れ落ちた…雪「ちぃっ、このままじゃラチがあきませんわね…」銀「ここまで来たら余計な策は無意味…どちらかの体力が無くなるまで徹底抗戦あるのみよぉ!」金「いや…待つかしら、この金糸雀に策ありかしら…」そのとき、水銀連合軍の中の知将(自称)金糸雀が小さく笑みを浮かべながら口を開く薔「策って…どんな…?」金「カナはこれからその用意をするかしら…3人はしばらくの間この場を守ってほしいのかしら!!」銀「何だかわかんないけど…今は貴女を信じるわぁ!!」金「カナにお任せかしら!!」そう言うと金糸雀は身を低く屈め後方の自分のバッグを開いた紅「!?球数が減ってきたわ…今が攻めどきなのだわ!!」翠「任せるですぅ!!そりゃぁああっ!!」1人でも戦力が減ることでがくりと落ちる攻撃力、真紅たちは好期と言わんばかりに激しく攻め立てる!薔「くっ…!」雪「皆さん、ここが正念場ですわ!頑張りましょう!!」銀「金糸雀ぁ!まだなのぉ!?」金「もうちょっと……よしっ!!準備完了かしら!」そう言って戦線へと戻ると金糸雀は大きく立ち上がった紅「愚かね…格好の的なのだわ!!」真紅チームの面々が枕を手に一斉に金糸雀に狙いを絞る。だがそのときであった!金「天津飯、技を借りるかしら!!」叫び声を上げる金糸雀。その両手には大きな懐中電灯金「秘技・太陽拳!!」そしてその灯りを最大出力で自らの額にかざしたのである。紅・翠・蒼『!!?』刹那・真紅チームを猛烈な輝きが襲う。そう、これこそが彼女の策…まずタオルで自らの額を極限まで磨き、そこに強い光を当て閃光を放つことで敵の視覚を奪ったのだ金「ふっ、この勝利のためならカナはちっぽけなプライドは捨てるのかしら…」翠「ぎぃやぁああああ!!目が…目がぁあああああっ!!」その閃光をまともに見てしまいもんどりを打つ翠星石紅「くっ!ぬかったわ!!辛うじて片目だけは閉じれたけど…。」蒼「僕も視界がよく把握できない…金糸雀…甘く見ていたね…。」直撃こそすんでのところで免れた真紅と蒼星石。だが彼女たちもまた視覚に大きなダメージを受けていた銀「ナイスよ金糸雀!!無駄に広いデコしてないわね!」雪「デコと灯りは使いようですわね。貴女こそ三国一のデコ使いですわ♪」薔「GJ…ナイスデコ。」金「デコデコうっさいかしらぁ!!しかし!今がチャンスかしら!この勝負、貰ったかしら~!!」両手を枕に持ち替え真紅チームへと走る金糸雀。視覚が奪われ狙いがうまく付けられない今のうちに至近距離から強烈な一撃でもって一気に勝負をかける気だ蒼「くっ…まずい!」紅「このままじゃ…よりによって金糸雀に…!」ぼんやりとした視界の向こうから両手の枕を高く振りかざした金糸雀が迫る金「敵将…討ち取ったかしらぁああああ!!」そして高らかに叫びながらその枕を真紅たちに振り下ろそうとしたそのとき…雛「甘いの、不死屋のうにゅーより甘いの!!」なんと、仕切りのすぐ裏から身を潜めていた雛苺が飛び出してきたのだ金「な…なんでそこに雛苺がいるのかしらぁあああっ!?」 驚愕する金糸雀。だが時すでに遅し、雛苺が全力でフルスイングした枕は金糸雀の顔面を直撃し、その体を一気に吹き飛ばした銀「か…金糸雀ぁああああああ!!」金「ぐっ、な…何故…こんなの…想定外…かしら…」雛「えへへ、かなりあが考えそうなことくらいヒナはまるっとお見通しなのよ。伊達に親友やってるわけじゃないの~♪」金「し…親友なら…少しは手加減してほしかったかしら…」雛「かなりあ…勝負は非常なの。親友だからこそ…手加減はできないのよ。」金「ひ…ヒナ……無念…かしら…がくっ。」そう言い残し、金糸雀は意識を手放した雪「金糸雀さぁああああああん!!」銀「金糸雀…貴女の死は…決して無駄にはしないわぁ…」薔「貴女の分までジュンとにゃんにゃんするから……安らかに眠って…敬礼!」戦線を離脱した金糸雀に向かい敬礼を送る水銀連合軍。貴重な戦力こそ失ったが、その遺構は大きい銀「みんな!あの娘が作ってくれたチャンスを勝利に結びつけましょう!」雪「はい!金糸雀さんの弔い合戦ですわ!」 直後、水銀燈たちの猛攻が真紅たちを襲う紅「くっ…まだ視力が完全に回復しないのだわ…。」蒼「僕も翠星石もだ…雛苺!頼むよ!?」雛「う…うぃ!えぇええええい!!」唯一視力が無事な雛苺が前線に立ち、3人に応戦する。だが元々体力の少ない雛苺にその役目はあまりにも重く、真紅チームの戦況は悪化する一方だ銀「あはははは、どうしたのぉ?真紅ぅ。貴女の球、全然当たらないじゃなぁい♪」紅「くっ…視力さえ戻れば…!」雪「お諦めなさい雛苺さん…貴女ひとりでは私たちに勝てませんわ。」雛「ひ…ヒナだって、やればできるの!絶対…ぜぇったい守るんだから~!!」薔「そうは言っても…球もまともに届いてないよ…?早く降参した方が身のため…。」尚も執拗に攻め立てる水銀連合軍…蒼(くそっ!このままじゃ防戦一方だ……ここは、一か八かだ!!)蒼「みんな!僕を援護して!!」突如立ち上がった蒼星石。そしてそのまま身を屈め勢いよく前進してゆく銀「お馬鹿さぁん…なら貴女からジャンクにしてあげるわぁ!!」一斉に蒼星石へと向け投げつけられる枕。だが彼女はそれを全身に受けながら尚も前進する蒼「うぉおおおおおっ!!」雄叫びを上げながら右手を伸ばす蒼星石。その先には…薔「あれは…まさか!」そこには部屋の電灯の紐が垂れ下がっていた。そう、蒼星石は部屋の電気を消し、暗闇を作ることで視覚というハンデを帳消しにしようとしていたのである薔「させない…阻止する…!!」雪「その前に…貴女を討ちます!!」銀「消えなさぁい!!」3人が一斉に蒼星石へと渾身の一撃を放つ。だがその枕は蒼星石に当たる直前に全てが撃ち落とされた銀「何ですってぇ!?」薔「これは…まさか!」水銀燈たちの視線の先には手を振り切った雛苺、真紅、翠星石の姿…雛「蒼星石は…やらせないの!」翠「な…なんとか間に合ったです…」紅「これが私たちの絆の力よ……蒼星石!」蒼「わかってる!てぇええい!!」蒼星石が紐を下に引っ張ると部屋の中は一瞬で暗闇に包まれた薔「くっ…しまった!」雪「何も見えな…きゃあっ!!」薔「お…お姉ちゃん!?どこ…へぶっ!」翠「イ~ッヒッヒッヒ!今まで目を閉じてた分翠星石にはおめぇらの位置が丸見えです!さぁ、一気にカリを返させてもらうですよ!?」紅「形勢逆転ね…水銀燈?」銀「し…真紅!どこよ!?隠れてないで出てきなさぁい!!」見えない宿敵の声に焦りの声を上げる水銀燈。次の瞬間、前方でガタンと何かが倒れるような音がしたかと思うと自分のすぐ近くから声が聞こえた紅「ここよ…。」うっすらだが水銀燈の眼前に長いツインテールの影が見えた銀「あ…あらぁ?」そう、真紅は境界線であるテーブルを倒し水銀連合軍の陣地まで入ってきていたのだ。徐々に血の気が引いてゆく水銀燈。そして次の瞬間顔面に凄まじい衝撃が叩き込まれた銀「ひでぶぅっ!!」紅「こんなものじゃないわよ?今日こそどちらが上か貴女の体にたっぷりと覚えさせてあげるのだわ!!」真紅は倒れた水銀燈に向かい手に堅く握りしめた枕をぶつけようとする。だが…銀「ふんっ!」『バシィッ!』紅「なっ…!?」枕を振り下ろそうとした真紅の腕を水銀燈が片手で掴んだ銀「うふふっ、つ~かまぁ~えたぁ…」暗闇に水銀燈の顔がにたりと歪む銀「真紅ぅ…こうなればもう下手な小細工は通じないわよぉ!!」ブンッ!紅「あべしっ!や…やったわねこのジャンク!」ブンッ!銀「ぶべっ!うっさいわねぇ!この不細工ぅ!!」互いに手を胸ぐらに持ち替えた水銀燈と真紅はそのまま枕を片手に壮絶なしばき合いを始める。最早それは枕投げではなく、ただの醜い女同士の闘いでしかなかった…それからどれだけの時間が流れたのだろう…?ジ「う…ん…あれ?僕は一体……そうだ!真紅たちは!?」意識を取り戻したジュンは暗い部屋の中を見渡す。するとそこには部屋の各所に死屍累々と倒れ寝息を立てる乙女たちの姿があった。彼女たちの激戦は部屋の荒れようを見るとジュンにも容易に伺い知れた。そして自分の現在の状況から察するに結局この闘いは双方共倒れのドローで決着が付いたようである。ジ「……何がしたかったんだ?こいつら…。」ジュンは呆れながら溜め息をつくと、彼女たちをひとりずつ綺麗に敷き直した布団へと運んだジ「よしっと…これで終わりだな。」最後に真紅を布団に寝かせたジュンはひとつ息を吐いて寝息を立てる皆の顔を見渡したジ「……」そしてしばらく無言で座り込んだ後、ゆっくりと立ち上がり浴衣を着替え自らの荷物を背中に担いだ。そしてもう一度皆の寝顔を見たジュンは静かに出口へと歩み出す。紅「…ジュン…」ジ「!?」ふいに真紅に名前を呼ばれ振り返るジュン。だがそこには相変わらず安らかな寝息を立てる真紅がいたジ「寝言かよ…ったく。」そう言いながら小さく微笑んだジュンだったが、その表情はすぐに寂しげなものへと変わってゆく…ジ「ごめんな…みんな…。」そしてその言葉を最後にジュンは部屋を後にした…【翌朝…】金「みんな~!た、大変かしらぁあああ!!」早朝の室内に金糸雀の大声が響き渡る銀「何よぉ朝っぱらから…ゆっくり寝かせてよぉ…」翠「そうでしゅう…だぁいたいお前は……くぅ…」金「いいから今すぐ起きるかしら!さもなきゃもう一度太陽拳かしら!!」一同『!?』その言葉に一斉に布団から出る一同。流石に朝一から盲同然になるのは嫌なようだ…雪「で…何が大変なのですかぁ…?ふぁああ…」薔「くだらないことなら…許さないよ…?」金「そ…それが……ジュンが…!」蒼「ジュン君が…どうかしたのかい?」金「どこにもいないのかしらーーっ!!」一同『な…なんだってーー!?』その言葉に全員が目を見開き声を上げる紅「本当によく探したの!?土産物でも見に行ったのではなくて!?」金「カナもそう思ったけど、ジュンの荷物がなくなってて…お土産屋さんにもお風呂にも男子トイレにもいなかったのかしら…」銀「何かおかしな台詞が聞こえたような気もしたけど…そんなことはどうでもいいわぁ!」蒼(どうでもいいかなぁ…?)翠「ジュンのお馬鹿…よし、早速みんなで探しに行くですよ!」雪「あの…その前に朝ご飯は…」一同『却下!』雪「…くすん。」翠「よ~し、そうと決まれば……」雛「…あっ!みんな、これ!!」ジュンを探しに行こうとした翠星石の台詞を何かを見つけた雛苺が突如遮る翠「何ですか?チビ苺…」雛「これ、このお手紙!ジュンの字なの!!」そう言った雛苺の手には一枚の白い便箋が握られていた紅「何ですって!?見せなさい!」真紅はそれを雛苺から奪うと真ん中から折られた手紙を開く紅「なになに…『みんながこの手紙を見ている頃には僕はその場にいないだろう。挨拶も言わずに突然出て行ってすまない。でも僕にはやらなきゃいけないことができたんだ。それにはもう時間がない…だから僕はこれからある人のもとで修行を積んでくる。3ヵ月したら必ず戻る。だから、どうかそれまで心配しないで待っていてくれ。追伸、姉ちゃんと黒王にもよろしく言っておいてくれ。それじゃあ。桜田ジュン』……ですって!!?」銀「ち…ちょっとぉ!どういうことなのぉ!?」金「か…カナに聞かれても困るかしら~!」雪「ジュン様……あぁっ…」クラッ薔「ジュン…どうして…さよならもなしなんて……寂しすぎるよ…ぐすっ。」雛「ジュン…どうしていなくなっちゃったなの?ヒナたちが迷惑かけたから怒っちゃったの…?」蒼「ジュン君がそんなことでいなくなるわけないじゃないか!でも…何で僕らに相談もなしに…」翠「ジュンの大バカ野郎のロクデナシ!!翠星石たちより大事な用事って何なんですかぁ!?もう…もうあんなチビ知らんです!修行なりなんなり…どこへでも…うっ…行きやがれで…す……ひぐっ…うわぁああああああ!!」突然の別れに涙する一同。翠星石に至っては床に膝を付けて泣き出してしまった。だが真紅ただ一人は至って落ち着いたように口を開く紅「みんな…落ち着きなさい…。」銀「これのどこが落ち着いていられんのよぉ!貴女平気なの!?ジュンがいなくなったのよぉ!?」水銀燈は怒りを含んだ声を真紅へとぶつけた。しかし真紅は振り返ることもなく静かに言葉を続ける…紅「何も今生の別れというわけではないのだわ…手紙には3ヶ月したら必ず戻ると書いてある。ならそれを信じて待ちましょう。ジュンはこの真紅の家来…使えない家来だけど、昔からジュンは約束を破ったことだけはないのだわ…。だから…今は……くっ…」少しずつ震え始める真紅の声…蒼「真紅…君も泣いてるのかい?」紅「ばっ…馬鹿を言わないで頂戴!何で私が…ああっ!少し外の空気を吸ってくるのだわ!!」そう言うと真紅は顔を伏せたまま急ぎ足で部屋から出て行った蒼「真紅も素直じゃないなぁ…クスッ。」銀「…そうね。これはジュンが決めたことだもの……私たちがどうにか言えることじゃないわねぇ。」金「うん…たった3ヶ月かしら…そのくらい男を磨くいい機会と思うかしら!」翠「ぐすっ…帰ってきたら思いっきりぶん殴ってやるから覚悟しときやがれですぅ…!!」雛「ジュン…またね、なの。」薔「私も…ジュンが帰ってきたら…見ただけで欲情するくらいの女になってやる…。」雪「ジュン様…この3ヶ月、更に素晴らしい殿方になった貴方をいただくための熟成期間だと思いお待ちしていますわ…。」蒼(こいつら…)真紅の言葉に落ち着きを取り戻した彼女たちはようやく悲しむことを止めジュンの帰りを待つことに決めたようだ。一方…紅「ジュン…必ず無事で帰ってきなさい…そのときは、とびっきりの紅茶を淹れてもらうのだわ。」旅館の中庭に一人、涙で僅かに赤らんだ瞳を彼方のジュンへと向け小さくそう呟く真紅。その声がジュンに届いたかはわからない…しかし真紅もまた悲しみをこらえジュンの帰りを信じて待つことに決めたようである。その頃……ジ「ここか…」ジュンは円谷から貰った地図を頼りに人里離れたある山の麓に来ていたジ「よし……行くか。」小さく呟いたジュンは荷物を肩に担ぎ直すと深い木々に覆われた斜面を登り始めた。こうして彼の3ヶ月の修行は幕を上けた。果たしてこの先にジュンを待つものは何か…そして魔の手が迫る桃種市を守ることができるのか!?いま、拳王としての資質が試される…。続く…
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