第十三話「TONIGHT」
キミだけの夜に キミだけの夜にキミだけの夜に キミだけの夜に「これで私とジュンのお話は終りです」ふぅ、長かった…。少し疲れた。喉がカラカラ。「ふぇっ、えぐっ、ひっ…」子供たちは二人とも泣いている。蒼星石も少し涙ぐんでいた。「ほらほら。二人とも風呂入って寝るですよ。ちーと遅くなっちまったですし、朝起きれなくなっちまうですからね」「う、うん。分かったよ」「お母さん、蒼姉ちゃん、一緒にお風呂入ろ?」「いいよ。でもちょっと待ってね。お皿洗うから先に入っててよ」「あ、いいですよ。私一人でするですから。三人とも入っとくです。後で行くですよ」「まぁまぁ、二人とも先に入っててね」「「はぁーい」」LUNA SEA 第十三話 「TONIGHT」ザァー。カチャカチャ。「ねぇ、翠星石。さっき気付いたことがあるんだけど」「なんです?」 「あの子たち二人の誕生日って変じゃない?」「というと?」「いやね、考えてみたら、ジュン君が亡くなった日と誕生日との計算があわないんだ」「あぁ、それでしたか。そーいや、言ってなかったですよ」「何を?」「別に、そう大きな事じゃないんですけどねぇ」「あ、もしかして、笹塚先生に聞こうとしてたこととか、結婚式に来てた先生と関係あるの?」「鋭いですよ。そうですっていうか、さっきはちぃとばかし口が滑ったですね。本当は墓まで持ってくつもりだったんですけど」「あの…、一つ聞きたいことがあるんですけど」「何ですか?」「どうした?翠星石」二人が同時にコトバを出す。「ジュンは先に行っててです」「どうしたんだよ、本当に」「何でもないですから、とにかく先に出とけです」そうして、ジュンを診察室から追い出す。「で、どうなされました?翠星石さん」「え~と、あの~、その~」少し聞きにくい。普通は聞くような事じゃないし。先生は相変わらずニコニコしてる。「あっと、子ど…ゴニョゴニョ…」「はい?」「子供を確実に産めるような方法ってあるんですか?」「ブッ!」先生が吹いた。呆然として私を見る。「だから、彼との子供が欲しいんですけど…」「え、えっとですね…、ちょっと待って下さい。そのことって桜田さんには聞いたんですか?」「あ、いやまだです」「一応、確実ってわけじゃあないんですけど、少しだけ確率を上げる方法があるにはありますがねぇ…。その前に一度よく相談なさって下さい。話はそれからです。でも、ぼく自身としては、地道な方法をおすすめしますけどねぇ…」「そうですか…。また今度聞いてみるです。ありがとうでした」「はい、ではまた。でも早めにご相談なさった方がいいですよ」その日は、それで終わった。そして、次に病院を訪れた時、「あれ?今日はどうなさいました?」「先生。決めたです。どうするのか、教えて下さいです」私たちは今、産婦人科にいる。笹塚先生に紹介された先生なのだが…。「笹塚に紹介されました、ベジータです、ってあれ?ジュンじゃねぇ、どうしたんだよ」「え?うわ、久しぶりだなベジータ。お前ここの病院にいたのか」「…だ、誰です?ジュン?」ジュンの後ろに隠れながら聞く。「あぁ、この人はベジータで、大学の二つ上の先輩なんだ。偶然知り合ってさ」「ね、ねぇジュン。先輩なのにタメ口でいいんですか?」「あぁ、それは俺から言ったんだ。敬語やめろ、タメ口にしろってな。結構直すのに苦労したなぁ」「『敬語やめろ!』って殴られたしな。体に叩きこまれたよ」「な、なにしてるですか!」「まぁまぁ、それくらいは勘弁してやれよ」「そうだな。じゃとっとと本題にはいるぞ。これからやる方法は、はっきり言って100%ってわけじゃない。確率っつーより、回数、チャンスを上げることになる。よく言う体外受精をする訳だが、普通、これは不妊治療へのもんだ。通常のカップルにはやんねぇな。必要性の問題なんだが。今回、それだけじゃなくて、凍結受精卵も使うつもりだ。これは、受精卵の着床のタイミングを合わせるためだな。何回もミスるわけにはいかないからな。この方法を取らせてもらう。んで、代わりにっちゃあなんだが、この治療のことは、絶対に口外しないで欲しい。二人の希望としては…、言いたくないんだが、ジュンの死後、それでも妊娠してなかった場合のためだろ?いや、まぁそれをやってるのがばれると、色々マズイことになるからな」「いいのか?本当にそんなことして。迷惑だろ?」「ふざけんなよ。俺は医者だ。それを教えてくれたのは、お前だろうが。せめてもの恩返しぐらいさせてくれ」「とまぁ、こんな感じで決まったんですよっと、後は私がやっとくから先に風呂行っとけです」「へぇ~そんなことがあったんだ。でも、ジュン君が亡くなった後の翠星石は見てて本当に辛かった。散骨の時なんか、一緒に海に落ちそうなくらい。その治療のことがなかったら、絶対倒れてたよね?」「そうかもですねぇ~。あの時、私はギリギリで生きてたですね。まぁ、その前にジュンに追って来るなって言われてたですけど」「そうだったね。そういえば、ジュン君とベジータ先生の間に何があったのか聞いてる?」「詳しくは知らないですけど、なんでもベジータは、医学部に入ったはいいけど、そこで軽く燃え尽きちゃってたらしいです。で、偶然妊婦さんの出産に立ち会うことになったみたいですけど、パニックになっちゃって、その時ジュンが手助けして、ベジータに怒鳴って落ち着かせたらしいですよ。 それで、なんで医学部に入ったのか思い出したですって。それに、その赤ん坊が産まれた時、感動しちゃって、それ以来産婦人科医を目指し始めたんですって」「何てジュン君は言ったの?」「確か、『この馬鹿野郎!お前は半人前でも医者は医者だろうが!何のためにその両手を持って医学部に入ったんだよ!人を救うためだろうが!』だったです」「ふ~ん。そんなことがあったんだ。大きいね」「そうですよ。あいつは何だかんだで色んな人を救ってたですからね。じゃあ、そろそろ風呂入っとけです」「うん。分かったよ」一つ飛ばしてたことがある。これこそ、誰に言うことでもないが。思い返すと今でも胸を締め付けられる。それは、最初の検診から帰った日の夜のこと。「ジュン。今日は一緒に寝ろです」「…は?えぇっ!?」「と、ととととにかく、一緒に寝やがれです!」「うわ!勝手に入って来んなよ!抱きつくな!」「お、おおおお願いです…。す、すすす翠星石をだ、だだ抱けです」「え?な、なな何言ってんだよ!お前は!」「頼むですよ…。お互い大人ですし、もうそれくらいは普通ですよね?こ、恋人なんですし。無茶言ってるのは分かってるですけど…、お願いです。のりは今日もいないですし」「う、うぐぅっ。そんな目で見るなよ。反則だ…。でも、いいのか?」「いいです。ジュンだから」その夜、私たちは、何度も、何度も、深く、深く交わり合った。お互いの全てを奪うよう、お互いの傷を癒すよう、激しく、優しく。事が終わった後、彼の腕の中で、「ねぇジュン。もう一つお願い、頼み事があるです…」「ふぅ。そろそろ私も風呂行くですか」その前に、この胸の高鳴りを沈めてから。何年も前のことなのに…。第十三話 「TONIGHT」 了
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