Phase5-Chain of Memories-
「異人館?」「うん。」「なんでまた?」「私のひいおじいちゃんがいたところ。」「え?じゃあやっぱり・・・」「私は日本人だよ?」「え、あ、うん。」「まぁ、そういうのも仕方ないかな?」「ごめん。」「気にしないで?私がただたんに行きたいだけだから。」新神戸クラウンプラザの近く、ロープウェーで登る。神戸のイメージは海だが、なぜかここは山。北野異人館。その一角にある、風見鶏の館。「ここを立てた人が、私のひいおじいちゃんの親友だったらしいの。」「そうなんだ。」「といっても、私はその建築家の名前なんか知らないんだけどねw」「マジで?w」「うんw知らないw」「そんなもん?」「私にとってはそんなもん。でも、ジュンと一緒に来るだけの価値はあると思うよ。」「どういうこと?」「そういうこと。」答えになってない彼女の答え。彼女らしいと云えばそうなる。が、なんとなしにその答えに翻弄されているのでは?と思うのも事実。「私はね、ここに誰と来ても一緒だと思ってた。」「?」「でもそこに意味があるわけじゃなかったし、価値があったとも思えないの。」--でもね、ジュン。あなたは違う。「あなただけ。ここに一緒に来てよかったと思えるのは。」「ありがと。ここは喜ぶべきかな?」「そうだね。」価値の有無、意義の存在。それ以上でも以下でもない。その答えは2つに1つ。彼女はなにが言いたいのだろう?僕にはさっぱりわからない。自分がどこの言葉を使うべきかもわからなくなってきた。--ジュン様とここに来れることが、私にとって一番いいことなのです。思い出した。不覚にも。ここは、風見鶏の館は、10年ほど前に来たことがある。彼女と。雪華綺晶と。 「なぁ、薔薇水晶。」「何?」「なんで僕とここに来ようと思ったわけ?」「別に?なにかあるわけじゃないよ?」「そっか・・・」「何か意味があるとでも思ってたの?」「別に。ただなんとなく気になっただけ。」「昔のことかな?」「あたり。」「来てたんだ。」「ついさっき思い出した。似たようなこと言ってたよ。」「1つ、言っとかないといけないことあった。」「何?」--似てる。「え?」「私が昔好きだった人。似てるよ。」「そう・・・なのか。」「うん。でも性格は違うけど。」「それで?」「で?って言われても困るけど、私は不思議と重ならないなぁ。」「そっか・・・。」「でも、これだけは言えるかな?」「何?」「その前に、ちょっと来て?」僕は彼女に連れられて、館を後にした。整備された道を歩きながら、彼女の口から紡がれる言葉の糸と意図をくみ取っていく準備をする。でも、それは必要なかった。彼女は一言言っただけ。正確にはもう少し喋っていたんだろうけど。覚えていない。その一言の意図が、あまりにも強烈で。自分のいる世界が虚構のようで。信じられなかった。僕は茫然と突っ立っていた。その姿を自分で見たら、何とも情けない画になっていたんだろうが、僕にはそうすることしかできなかった。「ジュン?」「おーい?」「・・・ごめん、ちょっと待って。」「・・・うん。なんかごめんね?」「いや、気にしないで。」こんな時、なんて言ったらいいんだろう?僕はその術を知らずにいた。「僕は・・・」--僕はさ、こんな時なんていいかわかんない。っていうか、知らないんだよ。今ここで僕の頭の中にある言葉の一つ一つを紡いで、自分なりの表現にしようとしてる。でもそれができない。本当はそんなことなんていらないことなのかもしれない。でも、僕にはそうしなきゃならない理由みたいなもんがある。多分・・・多分なんだけど、それが足かせになってるかもしれない。それでも、僕は考えるよ。自己満足かもしれないけど。でもその答え君も納得してくれるはずだって信じてる。今僕が出来る、最高のことを僕はする。約束してもいい。でも、そこまで期待はしないでくれるか?信じてはいる。でも自信はない。おかしいよ?わかってる。でも・・・「じゃあ、一言で教えて?私は、その方がいい。」彼女は僕の言葉を塞いでから言った。「私はあんまりごちゃごちゃせずに言ったつもり。だからジュンの気持ちを聞きたい。あなたの本心を。なにもいらないから、ね?」余計なもの、足かせになるもの、ネガティブファクターは吹っ飛んだ。自分で吹っ飛ばせなかったことに憤りを感じざるを得ない。自分はここまで小さいものなのか?世界が回り、その上に立っていてもそこから見えるものは変わらない。どれだけ突っ走っても、どれだけアクセルを床いっぱいにふんずけても、どれだけ叫んでも、どれだけ彼女のことを思っても、変わらない。夏の日は、いつまでも続くものだと思っていた。だが、それは違った。いまここに、山の上の館を出たところで夏じゃないもの感じている。Spring has come.いや、そんな陳腐な表現を必要としない。花はそこに咲いている。山はそこにある。土がそこでいのちを育んでいる。それでいいんだ。 本当の、自分の気持ち。--好き。いや、愛してる。これでいい。僕は薔薇水晶のことを愛している。世界が変わらないのは、そのせいだ。ここに絶対的なものがある。僕が彼女のことを愛しているということ。それがあるから、僕の世界は変わらない。1つの物語が終焉を迎える。そしてまた新しい物語が始まる。決して雪華綺晶のことを忘れたわけではない。彼女のことは今でも覚えている。でも、今までとは違う。僕には、薔薇水晶がいる。それだけ。それだけのこと。薔薇水晶はそれを求めていた。同じように僕も。それでいい。「今度はちゃんと言えたね。」「うん。ほんとによかった。」「じゃあ、今から私はジュンの彼女。先に言っておくけど、私結構欲張りだよ?」「構わないよ。」「わがままいっぱい言うよ?」「どうぞ?」「それから・・・朝弱いよ?」「起こしてやるから大丈夫。「それと・・・」--もう何も必要ないから。僕は彼女の口を塞ぐ。「いいから。傍にいるだけで。」「カッコつけないでよw」「やられっぱなしは嫌だw」「ソフトS?」「おいw」「えへへw」多分、と言うか確実に、こうなる運命だったんだろう。それを立証するものは何一つとしてない。でも、そう信じれるものはある。僕と彼女がここにいて、世界は回る。変わらずに。神様がいるとしたら、それはとても幸せなこと。僕たちを逢わせてくれた。僕は今、幸せだ。確実に。彼女も今、幸せだ。確実に。彼女は1ヶ月後、僕と共に住むようになっていた。まだ結婚はしていない。「結婚なんて、ただの通過点だよ?」そんなことを言いながらも、ウェディングドレスのモデルをしている。後で聞いた話だが、彼女は僕を日本に帰国させたのは、告白させるためだったそうだ。今となっては、そんなことどうでもいい。薔薇水晶がいたら、それでいい。試練も、幸せだ。ばらしぃとジュンの愛の【長編】保守劇場Phase5-Chain of Memories-fin.
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