『保守かしら』
2007年7月9日 はれ
今日もおねえちゃんはアトリエに篭りっきり。
なんとなく、地下のお父様の第二アトリエに行って、色々探してきたかしら。
昨日の話ですごくおどろいたからかも…。
前に槐さんから、大型の機材のことは聞いたけれど、それらの機材の並びをこえて、地下室の奥のほうを色々探してみたのよ。
くもの巣とほこりがいっぱいで、ちょっと困ったけれど、もちろんへこたれなかったわ!
人形さんの目(ヒビ入り)とか、怖かったかしら。
収かくだったのは、おねえちゃんの小さいときの肖像画と、紙粘土。
おねえちゃんの肖像画を描いたのはお父様だったみたい。
前の夜会のときのドレスは、この時からのイメージだったのね。
やっぱり、おねえちゃんもお父様が大好きなのかしら。
絵の中のおねえちゃんは、黒いドレスに黒い羽を生やして、まるで天使さんかしら。
紙粘土のほうも、きっとお父様の作ったもの。
人形を作るのに紙粘土は使わないだろうから、簡単にイメージをまとめるときに使ってたのかしら?
いっぱい作り置きしてたみたいで、地下の一番奥のでっかい箱の中に小分けしてたくさん入ってたかしら。
ぶあついビニールにくるまれて、ちょっと変わった留め具が置かれてた。たくさんくぼみがある長四角で、お父様のこだわりだったのかしら?
居間に戻ってから、紙粘土を作ってカナも人形を作ったかしら。
(我ながら良いできばえかしらっ)って思ってたけれど、ヤクルト飲みに戻ってきた おねえちゃんに見せたら
「本当によく出来てるわ、そのゾウさん」
だって。
「猫かしらー!?」ショックでさけんじゃった。
「あ、ああ…そうそう猫よね、よくできてるわぁ」
おねえちゃん顔が引きつってた。
おねえちゃんに引きつった笑顔でフォローしてもらえるのはカナぐらいのものかしらっ。
…うれしくないわ…ピチカート…。
2007年7月12日 はれとゆうだち
シシカバブとドルネケバブをばらしーちゃんと食べくらべしてたら、蒼星石が来たかしら。
「ヴァイオリンのコンクールに出ることになって、めんどいかしらー。」
って言ったら「僕も花のコンクール出品がめんどうだよー。」って言ってた。
「どうせぽりっと地方予選敗退かしらー」
「どうせ育てたのは姉さんで、僕は切っただけなんだよー」
二人して机にびろ~んと広がって、向き合って、めんどうかしらー、めんどうだよーって
言いあってたら、ばらしーちゃんがあわあわしながら言ったかしら。
「シ、シシカバブを食べましょー」
顔が赤くなってて、とってもかわいかったかしら。
雨が止んで、蒼星石を中庭まで見送ったの。
「なんだか、もっとぎこちなくなるかと思ったけれど、そうでもないね」
廊下を歩きながら、蒼星石がぽつりとつぶやいたかしら。
「カナはカナで、蒼星石は蒼星石かしら」
蒼星石は遠くを見てた。
「君は気にならないの、急に姉妹が増えて?」
「色々考えたけれど、お昼寝して、一息ついたら、カナの大切な人もカナを大切に思って くれる人も減ってないなぁって。それならゆっくり考えればいいのかしら」
「急ぐ必要はない、か」
中庭はすでにかんかん照りの太陽の力で、陽炎が立ち上ってた。
コンクールで蒼星石の好きな曲を弾くわよ、って言ったら「じゃあ24の奇想曲で」だって。
24の奇想曲はとてもじゃないけれど弾けない、とっても難しい曲。
「よりによってかしらー」
陽炎がゆらゆら揺れるなかで、蒼星石がいじわるそうに笑ったかしら。
「冗談だよ」
あたりは日ざしで真っ白で、ぼやけた風景の中に、つややかな蒼星石の笑顔だけがくっきり。
なんだかどきどきしちゃった。
2007年7月16日 くもり