第4回:岡山
『きらきーグルメ紀行』第4回・岡山県京都駅を後にし、西に向かった2人は僅か1時間で新幹線を降り、目的地に到着した。雪「さぁ、着きましたよ。ばらしーちゃん。」薔「ここは…岡山?」雪「そうですわ♪ここが今回の舞台ですの。」雪華綺晶が中・四国の旅でまず目的地にしていたのは、かの桃太郎伝説で有名な吉備の国・岡山県であった。薔「岡山かぁ…初めてきたけど…やっぱり有名みたいだね。」新幹線を降り駅前に出た薔薇水晶はそこにあった桃太郎の像を前に呟く。雪「そうですね。なかなかの美味ですわ。もぐもぐ…」その横で駅の売店で買った吉備団子を頬張る雪華綺晶。しかも両手にはいつの間に買ったのか大量の駅弁が入った袋をぶら下げている。薔「お姉ちゃん…またそんなに…」雪「まあまぁ。さぁ、こんなところで油を売っている暇はありませんわ。早速岡山の名物をいただきに参りましょう!」薔「もう…いつも思うけど…旅行に来たんなら少しは観光しようよ…倉敷ってとことかよさげだよ…?」 駅で配布されているパンフレットを手に薔薇水晶は不満げに呟く。雪「それではこの企画が成り立ちませんわ。ほら、吉備団子あげるから付いてきてくださいな。」つ○薔「…私は犬や猿じゃないって…もう。」そして薔薇水晶はいつものように雪華綺晶に押されるがまま名物散策へと同行する羽目になった。再び岡山駅に入り、そこから地方線に乗った2人は夏の田園風景が広がる景色を横目に電車に揺られていた。薔「のどかだね…こういう風景…いいな。」普段都会で暮らしている薔薇水晶にはその田舎の景色がいたく新鮮なようだ。雪「もぐもぐ…う~ん、美味ですわ♪」だが雪華綺晶はそんなことなど気にも止めず先程から大量の駅弁を喰らい続けている。雪「さて、お次は…これにしましょう。」次に雪華綺晶が取り出した駅弁には珍妙な名前が書かれていた。薔「ままかり…かりかり…まんま寿司…?」雪「えぇ、岡山でよく食べられているお魚、ママカリのお寿司ですの。」薔「ママ…カリ?」薔薇水晶はその聞きなれない名前に首を傾げる。雪「本当はサッパというお魚らしいですけど、あまりにも美味しくてマンマ…つまりご飯が足りなくて借りに行くほどだからママカリと呼ぶようになったそうですわ。」そう言いながらも雪華綺晶は酢で締められたママカリを口に運ぶ。雪「ん~、ナイスなお酢加減ですわ♪これからご飯を借りに行く気持ちもわかるというものです。」実際に姉がご飯を借りに行くとその家の米は一粒残さず無くなるのだろう…薔薇水晶はそんなことを思いながら視線を再び景色へとそらした。そして電車を降りた2人はバスに乗り換え、人里を僅かに離れた山の中に降り立った。雪「確かこの辺りのはず…」薔「暑い…こんな山の中に何があるの…?」雪「ふふっ、ばらしーちゃんも大好きなものですよ。さ、行きましょう。」薔「あ、待って…。」蝉時雨が響き渡る山道を歩く2人、麦藁帽をかぶり弾んだ様子で歩く雪華綺晶とは対象に薔薇水晶はここでも猛暑にやられグロッキー気味である。薔「はぁ、はぁ…あちゅい…もう駄目…」雪「もう少しの辛抱ですわ、ばらしーちゃん。」フラフラの薔薇水晶を励ましながらしばらく歩いたそのとき、2人の眼前に広い果樹園らしきものが広がった。雪「あぁ、ありましたわ!ここです。」薔「や…やっと着いたの?」雪「ええ。すみませ~ん!」雪華綺晶が声を上げると畑の奥から日に焼けた初老の男性がやってきた。雪「あの、先日お電話した雪華綺晶と申す者ですけど…」男性「あぁ、はいはい。待っとったよ。暑かったろうに、さ、早よう来られぇ。」男性は白い歯を見せてにっこり笑うと、2人を奥にあった小屋へと招いた。男性「まぁ、冷たい麦茶でも飲んで待ちょーりねぇ。」そう言うと男性はコップによく冷えた麦茶を注ぐ。薔「あ、ありがとうございます…。」雪「すみません、いただきますわ。」喉がカラカラだった2人は一気にそれを煽ると、やっと落ち着いたのかふぅと息をついた。薔「ご馳走様でした…。あの、それで……ここは何を育ててるのですか…?」薔薇水晶が男性に問う。すると男性は言う。男性「こかぁ主に白桃を育てよーるんよ。」薔「…白桃…ですか?」男性「そうじゃ。岡山の白桃の味は日本一じゃて。まぁ、元気が出たんならお嬢ちゃんらぁにも穫らせちゃるけぇ楽しみにしとりねぇ。」雪「私たちならもう平気ですわ。だから早速収穫に参りましょう!」男性「ほ…ほうか?」もう辛抱たまらないのか雪華綺晶は目を輝かせながら催促をする。すると男性はわかったと言い籠を手に取り2人を畑へと招いた。男性「ここがウチの桃畑じゃ。」薔「わぁ…なんか甘い香りがする。で、桃はどこに…?」薔薇水晶が頭上の木の枝を見るが、そこによく知る桃はない。代わりに肌色の小さな紙袋がいくつもぶら下がっていた。男性「ほら、この紙袋の中じゃ。」男性はそう言うとその紙袋を手で破る。すると中から真っ白な桃が姿を表した。雪「まぁ、なんて美味しそうなんでしょう♪」だが薔薇水晶はふと疑問に思った。薔「…あれ、この桃…まだ熟れてないんじゃ…?」何故ならその桃は全身が真っ白であり、自分がよく知る熟れた赤みがかった桃の色とはかけ離れていたからだ。だが雪華綺晶は薔薇水晶に言った。雪「違いますわばらしーちゃん。これはもうすでに完熟していますよ。この白さこそが岡山の桃の特徴なのです。」薔「…え?どういうこと?」その言葉の意味がわからない薔薇水晶。するとそこに男性が口を挟む。男性「秘密はこの紙袋じゃ。普通の桃はこれを被せんから太陽の光が当たって真っ赤に日焼けしよる。じゃけど岡山の桃ぁこれを被せることで光を遮って日焼けさせんまま熟らすんじゃ。こうすることで害虫を防ぐとともに甘さもぐっと増すんよ。ま、だいぶ手間がかかるんじゃけどな。」薔「へぇ~、知らなかった…。」男性から聞いた話に納得したのか薔薇水晶は目を大きく開け小さく頷く。男性「これを知らん人はいつまでも熟れんな~って赤くなるまで待っといて結局腐らせることもあるみたいじゃね(笑)」雪「まぁ、勿体無い。こんなに美味しそうなものを…」男性「ははは、ほんなら早速始めようかの。まずワシがお手本を見せるけぇ。よく見ときねぇよ?」雪・薔「「はい。」」そう言うと男性は紙袋を破いた桃を両手で包んだ。男性「熟れた白桃は指先を立てて触るとそっから黒うなって商品価値がのうなる。じゃけぇ穫るときはこうやって掌で優しく包んで真っ直ぐ下に引っ張るんじゃ。ほいっ!」説明を終えると同時にブチンと音を立てて枝から離れた白桃が男性の掌に納まる。男性「さ、やってみられぇ。」雪・薔「「はい♪」」そして薔薇水晶と雪華綺晶は男性に促され白桃の収穫を始めた。薔「こ…こうかな……えいっ!」プチッ男性「そうそう、上手い上手い。」薔「あ……えへへ。見て見て、お姉ちゃ……」雪「~~♪」プチッ、プチッ、プチッ…初めての収穫を姉に見せようとした薔薇水晶だが、雪華綺晶はとても初めてとは思えない手つきで次々と桃を収穫していく。男性「こりゃあすげぇ…ウチに嫁に来てほしいぐらいじゃ。」ベテランの男性もその無駄のない様子に目を丸くしていた。そして一時間後、籠一杯に収穫された桃を抱え3人は小屋に戻ってきた。男性「お疲れさん。さ、早速食べてみようかの。」雪「待ってましたわ♪」待ちに待った実食タイムに雪華綺晶は本日一番の笑顔を見せる。男性「んじゃ、指で優しく皮を剥いて丸ごとかぶりついてみられぇ。それが一番美味ぇ食い方じゃ。」雪華綺晶と薔薇水晶は言われた通り今収穫した桃を手に取ると、柔らかい実を潰さないように慎重に皮を剥いてゆく。薔「わっ…凄く美味しそう…♪」薔薇水晶は皮の下から現れた白く瑞々しい果肉にキラキラと目を輝かせる。彼女もまた甘いものに目がない普通の女の子なのだ。雪「もう辛抱たまりません、いただきますわ♪」薔「いただきます…♪」2人は同時にその白い果肉にかぶりついた。雪・薔「「!!」」その瞬間、2人の口の中に至福の味が広がった。男性「どうじゃ?」雪・薔「「あ…甘ぁ~~い♪」」某芸人のように同時に歓喜の声を上げる2人。その瞳はまるで恋する乙女の如く陶酔しきっていた。雪「凄いです、今まで味わった桃とはまるで桁違いですわ!」薔「それに…凄い果汁が溢れて止まらない…」白桃の噛み口からは大量の甘い果汁がとめどなく溢れ、彼女たちの手を伝いポタポタと床に滴っていた。男性「じゃろう?この甘い果汁の多さが岡山の白桃の味が日本一の理由じゃ。じゃけぇこれから生まれた桃太郎も日本一っちゅうことじゃ。」そう語る男性の表情はとても誇らしげだ。薔「妙に納得…これは止まらないよ…」雪「まったくですわ♪」男性「そう言うてもらえると育てた甲斐があるのぅ。ささ、まだまだあるけぇたんと食べられぇ。」雪・薔「「は~い♪」」そのまま2人はしばし夏の岡山が誇る至福の甘さを口一杯に楽しんだのであった。 薔「美味しかったね…あの白桃。」雪「そうですねぇ。」農園を離れた2人は再び電車に乗ると次なる目的地を目指していた。薔「次は…どこにいくの…?」雪「えぇ、今度は瀬戸内の美味を味わいに県を南下しますわ。」その後、数回の乗り換えた2人は県南に位置する街へ辿り着く。そして夕方に差し掛かろうとする時刻、雪華綺晶が突如受信した謎の『美食電波』を頼りに2人は一軒の郷土料理店の前にいた。雪「ここです!私のセンサーがここから美味しそうな電波をぴきーんぴきーんと受信していますわ!」薔「や…やめてよ、そんな大声で…恥ずかしいから……///」雪「ばらしーちゃん?旅の恥はかき捨てですわ。さ、参りましょう!」薔「あ、もう…いつもそうなんだから…。」先を行く姉を追いかけ薔薇水晶は開店間もない店の門をくぐった。店長「いらっしゃい!」するとすぐにその店の店長らしき男性の威勢のいい声が飛んだ。早速席に着いた雪華綺晶は店長に問いかける。雪「すみません、私たち岡山の美味しいものを探しにきたんですが、ここに何か岡山らしい名物はございませんか?」するとその問いに店長は威勢よく答える。店長「はい、ございますよ。ほんなら、お料理は私に任せて貰ってえぇでしょうか?」雪「まぁ。では、お願いしますわ。」店長「はい、少々お待ちくだせぇ!」そう言うと店長は一匹の魚を取り出し支度を始める。薔「それは…何ですか?」店長「こいつぁサワラ。こいつこそこの岡山を代表する名物じゃて。こいつを捌けんと岡山じゃあ一人前の料理人たぁ言えません。魚偏に春って書くように旬は春じゃけど、今日はこの時期にしちゃあ珍しゅうえぇのが入ったけぇ、腕を振るわせて貰います。」慣れた手つきでサワラを捌いてゆく店長。しばらくして2人の前に盛り付けを終えたサワラが差し出された。店長「どうぞ。サワラの刺身と軽く炙ったタタキです。」雪「まぁ。私サワラを生でいただくのは初めてです。」店長「じゃろう。岡山以外でサワラを刺身にするとかぁあんまし無ぇけぇなぁ。さ、早速食べてみられぇ。」雪「はい、では…」雪華綺晶と薔薇水晶は皿に盛られた淡い薄紅色の刺身を口に運ぶ。その瞬間…雪・薔「「!!」」2人は同時に頬に掌を添えた。薔「こ…これは……」雪「美味ですわーッ!!」店内に雪華綺晶の歓声が響く。雪「あぁ…しっとりと柔らかく…それでいてもっちりとした食感。そして喉を通って尚口に残る深い旨味……まさにパーフェクト!問答無用の美味しさですわ!!」雪華綺晶はそのあまりの味わいに興奮気味に声を上げる。薔「こっちの炙りも皮目の脂が甘くてとっても上品…でも…サワラは焼いたのしか食べたことないよね…こんなに美味しいなら刺身でも有名になるはずじゃ…」薔薇水晶が疑問の声を上げたとき、待ってましたと言わんばかりに店長が口を開く。店長「そりゃそうじゃ。なんせ岡山県民はサワラに対する愛が違うけぇな。」薔「愛…ですか?」店長「そうじゃ。この岡山は昔から多くのサワラが獲られてきた。じゃけぇ岡山の料理にゃあサワラはなくてはならん存在なんじゃ。サワラっちゅうのは身が柔ぉーてちょっとしたことで身が割れてわや(駄目)になる。じゃけぇサワラを刺身にするんは熟練された正確な包丁捌きが必要なんじゃ。」店長「それに…サワラは水揚げされた後の扱いが悪ぃとせーだけで身が割れて刺身にできんようになってしまう。じゃけぇ岡山じゃ獲った後のサワラはすぐに氷詰めにして出荷するまで誰にも触らせん。この徹底した品質管理が他との大きな違いじゃね。」雪「へぇ…大変な手間がいるのですね。」店長「そうじゃで。そうでもせんとサワラが生で味わえんけぇな。さぁ、次の料理じゃ。」続いて差し出されたものはサワラがふんだんに使われたちらし寿司である。店長「これはバラ寿司。祭り寿司とも言う岡山の郷土料理じゃ。これにゃあ酢で締めたサワラがたっぷり無ぇとおえん。」薔「バラ寿司…なんか親近感…。」雪「どれどれ…早速いただきますわ♪」次に2人はそのバラ寿司を頬張る。すると刺身とはまた違う新たな味わいが口の中に優しく広がった。雪「なんて上品で洗練された味わい…もはや高貴な感じさえしますわ。」店長「サワラはサバの仲間じゃけぇ酢との相性もぼっけぇえぇ。それと、サワラを締めた酢を米に使って酢飯を作ることでバラ寿司は最高の味になるんじゃ。」薔「だからかぁ…普通の酢飯よりずっと味わい深い…」店長「バラ寿司は昔から祝い事にゃあ欠かせん料理じゃね。」雪「京都で食べたハモもそうでしたが…やはりその土地ごとにご自慢の料理があるものですわね。」店長の言葉と差し出された料理に雪華綺晶は感慨深げに呟く。店長「ほうじゃ。じゃけど岡山は悔しいことに他に比べてイマイチ有名なもんが少ねぇのが悔しいとこじゃ。」薔「確かに…白桃にしろこのサワラにしろ…決して有名な名物にひけは取ってないはず……」店長「嬉しいこと言ってくれるのぉ。まぁ、量より質、穴場って言やぁ聞こえはえぇけどな。……そうじゃ!」突然店長が手を叩き声を上げた。雪「きゃっ!ど…どうしたんですの?いきなり…」薔「ビックリした…。」店長「いやぁ、すいませなんだな。いやね、お二人さんに是非とも紹介しときたい幻の名物が思いついたんじゃ。」店長は小さく謝るとニヤリと笑ってそう言った。雪「ま…幻の名物!?」その響きはいたく雪華綺晶の心を揺さぶったのか、彼女は左目をキラキラに輝かせながら椅子から立ち上がった。雪「それは何ですの!?是非とも詳しくお教えくださいまし!!」店長「おわっ!」薔「お…お姉ちゃん、落ち着いて…」雪「これが落ち着いていられますか!?で、それは何なんです!?勿体ぶらずに早く教えてくださいまし!!」今にも店長に掴みかからん勢いの雪華綺晶を薔薇水晶は必死に静止するが、一度火が点いた彼女はちょっとやそっとでは止まりそうにない。店長「あ、あぁ…ワシら岡山のもんでも滅多に食えれん児島の「アオ」じゃ。」雪・薔「「アオ?」」2人の頭の中にはボーイッシュな友人の顔が同時に浮かぶ。薔「まぁ…確かにあの娘は違った意味で美味しいかもだけど……。」雪「岡山とはあまり関係なさそうですわねぇ…。」店長「何の話をしょーんなら?アオっちゅうのは岡山三大河川のうちの二つ、旭川と吉井川が交わる河口で穫れるモンのことじゃて。」雪「お…おほほ、すみません、こちらの話ですわ。それより、そのアオというのは美味しいんですか?」正体云々よりもそこが気になる雪華綺晶は真剣な顔で店長に問う。店長「あぁ、サワラにも負けずぼっけぇ美味い!じゃけど数が少ねぇうえに高価じゃけえ滅多にお目にかかれるもんじゃねぇ。」薔「あの…それは、何なんですか…?」店長「そりゃあ君らぁの目で確かめてみられぇ。ほれ。」ピラッそう言うと店長は一枚のメモを差し出した。雪「あの…これは?」店長「児島でアオの漁をしとる知り合いの連絡先と住所じゃ。明日そこに行ってみるとえぇ。アオがなんかっちゅうんはそれまでの楽しみってことでどうじゃ?」そう言ってニッコリと笑う店長。さしずめ秘密と期待もまた絶好の調味料ということだろうか。雪「面白いですわ…その提案、有り難くお受けします!」メモを受け取った雪華綺晶は拳を握りしめながら声を上げた。店長「そうか、ほんなら連絡はワシがしといちゃるけぇ今日は早めに寝られぇよ?なんせアオの漁は日の出前に出発するけぇの。」薔「そ…そんなに早いんですか…?起きられるかなぁ…?」朝に弱い薔薇水晶は自信なさげに呟くが…雪「起きられるかじゃありません!起きるのです!もし起きられないようでしたら貴女を簀巻きにしてでも連れて行きますからね!?」薔「わ…わかったよ…お姉ちゃんが言うと洒落にならないからやめて…。」美味いもののためなら鬼と化す!その姉の迫力に薔薇水晶は抱えていた僅かな不安も吹き飛ばされるのであった。 そしてホテルに宿泊した翌朝…現在の時刻は午前4時。うっすらと夜が白んできたかどうかの早朝だ。雪「えっと、確かこの船着き場ですわね…」薔「…眠い……ふぁあ…」昨日貰ったメモを手にそこに書かれた場所を探す雪華綺晶と眠たげに目をこすりながらその後を追う薔薇水晶。2人は謎の名物「アオ」を求め、その漁を行うという漁師を探していたのだ。雪「あ、まさかあの方でしょうか?」雪華綺晶は視線の先に舟の上で作業をする老人の姿を見つけた。雪「すみません、もしかしてこれからアオ漁に行かれる方でしょうか?」雪華綺晶が尋ねると漁師らしき老人はゆっくりと振り向いた。漁師「あぁ、そうだよ。…もしかしてアオ漁に付いてきたいってのはあんたらかい?」どうやらビンゴのようだ。お目当ての人物を見つけた雪華綺晶の顔がほころぶ。雪「はい、ご紹介に預かりました雪華綺晶と申します。こちらは妹の薔薇水晶です。本日はよろしくお願いしますわ。」薔「よろしくお願いします…。」そう言いながら2人は漁師に深々と頭を下げた。漁師「ほぉ、今時のモンにしちゃ珍しゅう礼儀正しいのぅ。しかもこんなべっぴんのお嬢さんかや。さ、そのままじゃ服が汚れるけぇこれを着られぇ。」漁師は2人に胴まであるゴム長を差し出し着替えるように言ってきた。漁師「それを履いたら早速出発しようかの。」雪「着替えました♪」漁師・薔「「早っ!」」雪「さ、ばらしーちゃんもモタモタせずに。漁師さんにご迷惑ですわよ?」薔「ま…待ってよ…お姉ちゃんが早すぎるんだって……」そしてようやくズボンの上にゴム長を履き終えた薔薇水晶と雪華綺晶を乗せ、夜明けの河辺から舟が出発した。薔「う~ん、風が気持ちいい…」雪「ですわねぇ。」水飛沫を上げながら疾走する小さな漁舟。夜明けの風の中で薔薇水晶と雪華綺晶の長い髪がたなびいている。雪「あの、アオというのはどのようにして獲るものなのですか?」漁場へ向かう中で雪華綺晶が漁師に問う。漁師「アオ漁は延縄…つまりぎょうさんの釣り針に餌を付けた長い釣り糸を前の日に川に着けといてそれを引き上げるんじゃ。ほれ、見えてきたぞ。」その先には川の中に浮く発砲スチロール製のブイがあった。どうやらここが前日延縄を仕掛けたポイントのようだ。漁師はゆっくりとブイに舟を近づけるとエンジンを切り、ブイの下に繋がれた釣り糸の先端を手に取った。漁師「ほんじゃこれから引き上げるぞ。よく見とかれぇ。」そう言うと漁師は軍手をはめた手で釣り糸と舟の中へと手繰り寄せ始める。雪「いよいよですね。」薔「なんか…楽しみ…。」期待に満ちた目を向ける2人の前では漁師が熟練の手さばきを見せている。…そのとき、水面で何かがバシャリと飛沫を上げた。雪「何か来ましたか!?」漁師「んっ…よっと!」抵抗を見せた獲物であったが、そこはベテラン漁師の技。勢いを殺すと一気に獲物を舟の中に引き抜いたのだ。薔「わわっ!おっきい…!」舟の上で元気よく飛び跳ねる獲物に薔薇水晶は目を丸くする。釣り上げられたのは黒光りする体を持つ見事な魚であった。薔「これが…アオなんですか…?」その漁体を見ながら薔薇水晶が漁師に聞く。漁師「うんにゃ、そりゃあチヌ(クロダイ)じゃ。ここじゃ定番の外道じゃな。」どうやらアオとは違ったようだ。その間にも漁師は次々と糸を手繰り寄せてゆく。漁師「ほいっ!」次に上がってきたのは先程のチヌとは別の銀色の魚だ。薔「あの、これは…」漁師「スズキじゃ。これも美味ぇけど外道じゃて。」またもハズレ。その後もチヌやスズキは上がれど本命のアオは一向に姿を見せないまま時間だけが過ぎてゆく。薔「本当に釣れるのかなぁ…?まさかこのまま…」雪「ばらしーちゃん!縁起でもないことを言わないでください!」未だに見ぬ本命アオに薔薇水晶にも雪華綺晶にも焦りの色が見えてきている。だがそのときであった。漁師「おっ!この引きは!」漁師の腕に今までにない重い引きが伝わる。雪「来ましたか!?」漁師「あぁ、間違いねぇ…そぉりゃ!こいつが児島のアオじゃあ!」漁師は渾身の力を込めて獲物を引き抜く。するとその獲物は狭い舟の中でビタビタと体を振るわせた。薔「きゃあ!こ、これって…」雪「ウナギ…ですわね。」釣り上げられた児島のアオ…その正体は見事に肥えた天然のウナギであった。漁師「そうじゃ。こいつがかつて岡山の青江っちゅう地方から全国に名を轟かせた幻のウナギ、アオウナギじゃ!」薔「でも…ウナギといったら有名なのは浜松とかじゃ…?」漁師「あそかぁ養殖で日本一なんじゃ。じゃけど栄養豊富な二つの川の汽水域でアナジャコをたっぷりと食うて育ったこいつの味にゃあ勝てん!」雪「…アナジャコ?」雪華綺晶は聞きなれない名前に首を傾げる。漁師「ここの泥地にぎょうさん住んどる甲殻類の仲間じゃ。人間が食べても美味ぇもんをこいつらは主食にしとる。せーじゃけぇ美味いんじゃ。ほい、次が来たぞ!」雪「まぁ、凄いです、大漁の予感ですわ♪」その後も漁師は次々とアオを舟上に釣り上げ、夜が明ける頃に漁は終了となった。漁師「お疲れさん、ほいたらこいつらを卸しに持ってくけぇ着いて来られぇ。」雪「はい。」薔「…わかりました。」2人は漁師の運転する車に乗り込むと朝の出荷で賑わう魚市場に案内された。漁師「着いたで。ここがワシがアオを卸しょーる市場じゃ。」雪「まぁ♪タイにヒラメ…こっちにはタコまで!」薔「わぁ…スッポンやコイまでいるよ…。」漁師「ここにゃあ海も川も岡山の魚は何でもおる。」そう言いながら漁師は今釣ったばかりのアオを持って仲買人と交渉を始めた。仲買人「ほんじゃあ、今回はこれぐらいでどうかの?」漁師「あんがとさん。あ、じゃけど数匹残しといてくれんかの?わざわざ遠くから岡山までアオを食いにきたお嬢さん方がおるけぇ。」仲買人「ほぉ、あっこにおるおなごかや?でーれぇべっぴんさんじゃがな。」漁師「じゃろうが?いや、ワシもべっぴんさんにゃあ弱ぇけんのぅ。…そうじゃ、あの娘らに他のウナギとアオの違いを教えてやってくれんかの?」仲買人「おう、お安いご用じゃ。ほんなら……」漁師と仲買人はしばし話しこむと、押し車に3つの樽生け簀を乗せて2人の前にやって来た。漁師「待たせたのぅ。ほんならこれからアオをご馳走しちゃるけぇの。」雪「お待ちしておりましたわ♪」雪華綺晶が歓声を上げる。漁師「じゃけど、ええ機会じゃけえ普通のウナギとの食べ比べをしてみられぇ。」そう言うと漁師は生け簀の中身を2人に見せる。そこにはどれも数匹のウナギが長い体をくねらせていた。雪「あら?このウナギは…」薔「色が…違う?」漁師「そうじゃ。まずアオが何故アオっちゅうかを目で見て理解するんじゃ。」3つの生け簀の中のウナギ。そのうちのひとつは灰色がかった体色を、もうひとつは緑がかった黄色の背を。そして最後のひとつは前者に似るが青みがかった色の背中をしていた。仲買人「どうじゃ?違いがわかるかの?」仲買人は2人を試すような視線を送る。だが雪華綺晶は自信満々に口を開いた。雪「簡単ですわ。まず最初の灰色のウナギ…これは最も一般的な養殖のウナギですわ!」仲買人「正解!」仲買人がその答えに拍手を贈る。雪「そして次のものが天然のウナギ。ウナギの語源は「胸黄(むなき)…緑がかった背と白いお腹の間にある黄色い帯が何よりの目印ですわ!」」漁師「お見事!こいつぁ高梁川の中流域で獲れたもんじゃ。」雪「そして最後の青みがかった背のものが先程私たちが獲った幻のウナギ…児島のアオですわ!」漁師・仲買人「「御名答!」」雪華綺晶の正確な解答に漁師と仲買人は同時に大きな拍手を贈る。薔「お姉ちゃん…凄い…。」雪「ふふっ、食べ物のことで私にごまかしは効きませんことよ♪」仲買人「いやぁ、若ぇのに大したもんじゃ。君らを試すようなことをしてもうて悪かった。気を悪ぅせんでつかぁさい。」雪「いえいえ、気になどしておりませんわ♪」漁師「今あんたが言うたようにアオの特徴はこの青みがかった背じゃ。それにこめぇ(小さな)頭と肥えた腹。これらがあって初めてアオと呼べるウナギなんじゃ。」仲買人「じゃけど…児島湾に大規模な工場が加えられてアオは随分と減ってしもうた…今じゃすぐに高級料亭に卸されて一般人にゃあまず口にできん。」仲買人は腕を組むと悔しそうな表情で呟いた。薔「そっか……だから幻のウナギなんだ…」漁師「そうじゃ。じゃけどおめぇさんらは運がえぇ!ささ、市場の近くにアオを料理してくれる店がある!今から案内しちゃるけぇ着いて来られぇ。」雪「はい♪」それから漁師に案内された2人は小さな食事処の椅子に座っていた。薔薇水晶の横では雪華綺晶が金色の瞳をまるでビー玉のように輝かせ、料理がくるのを今か今かと待っている。雪「うぅ~、私のアオちゃんはまだですの?」ウズウズ薔「お姉ちゃん…さっき同じこと言ってからまだ30秒も経ってないよ…『鰻屋で、早くしろとは野暮なこと』って川柳もあるんだよ…?」雪「でもでも!私の胃はすでに自らの胃酸で溶解寸前なまでに空腹ですのよ!?」薔「いっそ半分以上溶けたほうがいいんじゃ…ごめん…謝るから箸を握りしめたままこっち見ないで…」そんなやり取りをしていると、厨房から何とも言えぬ香ばしい匂いが漂ってきた。雪「あぁんっ♪この香りたまりませんわ!私これだけでもご飯一升食べられますわッ!」薔「一升って……でも、凄くいい匂い…朝からウナギってどうかと思ってたけど……この匂いを嗅ぐとやっぱり食べたくなっちゃうね…。」雪「しかし…空腹の私にこの匂いはまさに拷問に等しいですわ!ご飯を!丼一杯でも構いませんからご飯をくださいまし!」ウナギ料理を待つうえで最も空腹感を高めるのは、やはり完成間近のあの何とも言えぬいい匂いであろう。ウナギに塗られた甘辛いタレは炭火で炙られ焦げ目をつけてゆく。そしてタレと溢れたウナギの脂は焼けた炭へと滴り落ち、香りを含んだ煙となりウナギを燻す。炭火と煙…タレと脂の共演が絶妙に絡み合うことで極上のウナギは焼き上げられるのだ。そしてその際に発せられるタレの焦げる香りはウナギを待つ客の嗅覚をダイレクトに刺激し空腹を爆発的に促進する。皆様も覚えがないだろうか?縁日で嗅いだ焼きイカのタレの焦げる匂いにたまらず腹の虫を鳴らしたことが…。それだけ香ばしい匂いというものは人の空腹を掻き立てる因子なのである。 雪「もう我慢なりませんわ!」ガタッ!空腹の中そんな匂いを嗅がされた雪華綺晶。常人を超越した食欲を持つ彼女が限界を迎えるのは当然のことであった。席を立った雪華綺晶はギラギラと左目を光らせながら厨房へと歩いてゆく。薔「お…お姉ちゃん!もうすぐ、もうすぐの辛抱だから落ち着いて!?」雪「離してくださいばらしーちゃん!このままですと私…気が狂ってしまいそうですわ!!」薔「気持ちはわかるけど抑えて!お店に迷惑かけちゃ駄目!」雪「離して!離してぇえええッ!!」薔「暴れないで!早く…早くして!私じゃもうお姉ちゃんを押さえきれない…!」ジタバタと暴れる姉を羽交い締めにしながら必死に食い止める薔薇水晶であったが、その空腹の力は凄まじく押さえていられるのも時間の問題であった。今薔薇水晶にできることは一刻も早い料理の到着を待つだけであった。だがそのときである…店員「お…お待たせしました。あの、ウナギをご注文のお客様…ですよね?」薔薇水晶の前に救世主が降臨したのだ。薔「は…はい、あなたを待ってました!早くそれを机の上に!」店員「は…はい。」薔薇水晶に言われ急いで机上に料理を並べる店員。店員「で、ではごゆっくり~。」料理を並べ終えた店員はそれだけ言うとスタコラと厨房へ引き返して行った。薔「お姉ちゃん、ホラ!ウナギ来たよ!?」雪「ほ…ほぇ?ウナギ…あ、私は一体何を……あら、ばらしーちゃん?」薔「ふぅ、何とか間に合ったか……さ、食べよ?」雪「食べ………あぁっ!遂に来たんですのね♪」正気を取り戻したのか、雪華綺晶はいつの間にか机上に並べられていた料理に歓声を上げる。薔「覚えてないのね……ま、いっか。」溜め息をつきながら雪華綺晶と席につく薔薇水晶。そこには漬け物、汁物、そしてそれぞれ3つの蓋付きの丼が置いてあった。雪「ではでは、早速いただくとしましょう♪」薔「うん…じゃあ…いただきます。」雪「いただきます♪」2人は全ての丼の蓋をひとつずつ開いた。雪「まままぁ♪」薔「わぁっ…いい香り…。」蓋を開いた瞬間、その中からご飯の熱で蒸らされたウナギのいい匂いが2人の鼻孔をくすぐる。薔「美味しそうなウナ丼だね…」雪「えぇ、よくお皿に直接ウナギを並べているところがあるますが、あれではすぐにウナギが冷めてしまって風味が早く無くなってしまいます。だから焼いたウナギはこうやって熱々のご飯の上に並べるのが一番ですの。」薔「へぇ~、でも、この3つの中のどれがアオなんだろ?」見た目では殆ど変わらない3つのウナギを見ながら薔薇水晶が首を傾げる。雪「それは実際に食べて確かめればいいだけの話ですわ。では…♪」雪華綺晶はまずひとつの丼のウナギに箸を付け口に運んだ。雪「もぐもぐ……ふむ♪ふむふむ♪…ふむふむふむ♪」満面の笑顔で頷きながら味見をする雪華綺晶。だが味見のはずが、薔薇水晶が一口を食べ終わる間に彼女の丼の中身はあっと言う間に空になっていた。雪「うん、大変美味でしたわ♪」薔「早っ!でも…確かに美味しいね…このウナギ…。」雪「はい。では早速次を……はむっ♪」間髪を入れずに雪華綺晶は次の丼に手を着ける。雪「むむむっ!?」薔「ど…どうしたの?お姉ちゃん…」雪「ばらしーちゃん、その隣のウナギを食べてごらんなさい。」薔「これ…?うん、わかった…はむっ。」薔薇水晶は雪華綺晶に言われた通りに隣の丼のウナギを口に運ぶ。薔「もぐもぐ……--んんっ!美味しい!!」その瞬間、薔薇水晶は思わず頬を押さえた。そのウナギは前に食べたウナギとは違う味わいを持っていたのだ。雪「ええ、あっさりとした風味…それでいてしっかりとした身が持つ旨味。間違いありません、これは天然のウナギのものですわ。」養殖のウナギは天然が数年かけて成長させるものを僅か一年で可食サイズまで成長させる。そのためどうしても脂が強く、柔らかめの身になってしまうのだ。加えて配合飼料を大量に与えることで身に微かな臭みが残る場合がある。その点天然のものはじっくりと成長し、川の流れで身を引き締めるため余分な脂を落とし、しっかりした肉質の身を持っているのだ。雪「噛み締めるたびに滲み出てくる身の旨味…久々に食べましたがやはり見事なものです。」薔「そうだね……って、もう食べ終わってるし!」雪「さて…いよいよ最後のウナギですわ。では…」雪華綺晶は最後の丼に乗せられたウナギを口に運ぶ。すると…雪「--!?」薔「…お姉ちゃん?」そのウナギを食べた直後、雪華綺晶は突如として目を見開き箸を止めた。雪「……ばらしーちゃん、最後の器、心して食べてみなさい。」薔「最後の…?うん、これだね……はむっ。」そう言われた薔薇水晶は最後の器に盛られたウナギの蒲焼きを口へと運んだ。すると…薔「ーー!?」薔薇水晶もまた、雪華綺晶と同じく目を見開き動きを止める。薔「……え?何、これ…美味しい!群を抜いて美味しいよ!」雪「ですよね!?今まで食べたウナギの中でもダントツですわ!」そのウナギは前者の天然のものとは一回りも二回りも勝る味わいを2人の口の中に広げていたのだ。雪「なんて香ばしく柔らかな皮…それに、皮と身の間に蓄えられた脂がまた素晴らしい味わいですわ…あぁ。」薔「だけど養殖のようにくどい脂じゃなく…あくまであっさりとしていながら深いコクがある…こんなウナギ、初めて……。」2人は普通のウナギとは段違いの美味さにしばしうっとりと至福を噛み締める。するとそこへ先程の漁師が仕事を終えてやってきた。漁師「どうじゃ?アオの味は。」雪「素晴らしいです。これが幻のアオの味なのですね!?」漁師の問いに興奮気味に感想を述べる雪華綺晶。漁師「そうじゃ。あんたが言ぅたように今食べたウナギがアオの蒲焼きじゃ。アオの皮は薄く柔らか、そして何より旨ぇ脂がたっぷりと乗っ取る。これがアオの特徴じゃ。」薔「予想以上です…まさかこんなウナギがあったなんて…」漁師「ははは、気に入って貰えて何よりじゃ。じゃけど天然のウナギが本当に旨いのは一番脂の乗る秋じゃ。そん時にゃあアオの味もより一層旨ぅなるんじゃ。」 雪「まぁ、私はてっきりウナギが一番美味しいのは夏だとばかり思っていました。」漁師「ウナギは秋の終わりに産卵のため海に下る。そのために体力を付けようと餌をたっぷりと食うてよう肥えるんじゃ。じゃけぇ旨い!」雪「なら、秋になったらまた岡山にお邪魔するとしましょうか♪」漁師の説明を聞いた雪華綺晶は更に味を深めたアオを想像しながらうっとりと言った。漁師「おぅ、是非ともまた来られぇ。あんたらみたいなべっぴんさんならいつでも大歓迎じゃて♪」雪「まぁ、お上手ですわね♪」薔「そのときは…またお願いします…♪」こうして心ゆくまで岡山の美味を味わった2人は次なる美味を求めて岡山を後にするのであった。【その電車の中…】雪「むにゃむにゃ…おかわりですわぁ…zzz」薔「よく寝てるなぁ…ま、今朝は早かったし…お腹一杯みたいだしね…。」『次は~、岡山、岡山です。お乗り換えの方は…』薔「…あ、乗り換えだ…荷物…下ろさなきゃ……」電車内に響くアナウンスに薔薇水晶は立ち上がると雪華綺晶に背を向けて席の上の棚に乗せた荷物に手を掛ける。 雪「むにゃ…んっ……」そのとき、雪華綺晶はゆっくりと薄く目を開けた。その眼前には…雪「あらぁ?おっきくて美味しそうな白桃が揺れてますわぁ……いっただっきま~す♪」ガブッ!寝ぼけ眼で見えた白桃に噛みついた雪華綺晶。だがそれは…薔「にぎゃぁああああああああああああああああッ!!!!」車内に響く絶叫…雪華綺晶が白桃と思って噛みついたものは薔薇水晶のお尻だったのであった。その後、電車を引きずり下ろされた雪華綺晶が薔薇水晶にこってりと絞られたのは言うまでもない…。続く…。
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