ずっと傍らに…激闘編 第六章~蒼星石side~
最近、翠星石は僕と距離を置こうとしているように感じている。僕が向こうの人間全体と戦おうとしていることに憤ってるんだろうか…翠星石は争い事がキライだ。もちろん喧嘩もキライだったのも判ってる。そのくせ、ジュン君とだけはいっつも口喧嘩してたね。翠星石がジュン君に物凄いビンタの嵐を食らわせた時もあったけど、僕はそれを止めようとは1回も思わなかった。でも僕だってジュン君と言い争った事くらい何度かあるよ。本当に怒ってジュン君の顔面をグーで殴ろうとした時もあった。だけど、そういう時は翠星石がササッと止めに入ってきてくれた。そんな時だけは後で翠星石にとことん怒られたんだっけ──翠「何でお前は…そう手が出るですか?口だけで抑えやがれです!」喧嘩の後、僕はそうやって君に怒られてばかりだった。多分、そんな君が今回のことで怒ってるのは、僕の行動に呆れているのか、それとも、初めてジュン君を苛める奴が出てきたことへのショックでの八つ当たりなのか、それは判らない。僕と一緒に戦ったら、今まで僕に説教してきたことが台無しになる…とでも思っているんだろうか。
何でだろう。戦わなきゃ前に進めないのに。戦わなきゃ解決しないことなのに。話し合いでどうとでもなると思っているんだろうか。でも、向こう側の人間は言って判ってくれるような人間じゃない。戦うほか無いんだ。実力行使しかない。翠星石は解ってくれないだろう。それにジュン君は引き篭もりになるまで追い詰められている。時間がないんだ。だから、部室前でジュン君を貶める替え歌を歌って踊り狂っているABCの3人を巴と一緒に片付けた。この事は、翠星石にも話した方がいいだろう。怒ってくると思うけど、この事が、翠星石が考え方を変える契機となるのなら…そう思った。蒼「今日の部活の帰りに、巴と2人であの3人を殴った──」──予想通り、口をポカンと開けたままワナワナと震えだす翠星石。すぐに顔を真っ赤にさせて、狂うように叫び出した。翠「はぁ?先制攻撃したんですか??」蒼「だって向こうがジュン君の悪趣味な替え歌をエンドレスリピートで──」翠「だってもクソもあるですか!これで派閥間の対立が泥沼化すれば、 学校全体が荒れてジュンの復帰は絶望的になりますね」蒼「仕方ないじゃないか!野放しにしてたらもっと酷い方向に進んでた!絶対!」翠「はぁ…これでこっちも弱みを握られたです…先に手を出した方が負けなんですよッ!」蒼「だからって何もしないままじゃジュン君は永久に復帰できないだろ?」翠「もっと穏便に解決する方法があったはずです!」蒼「穏便穏便って、翠星石はいつも楽観視しすぎなんだよ!」翠「誰が楽観視なんか…」蒼「君はジュン君を本気で助けたいって思ってないんじゃないの?」翠星石は急に黙り込んでしまった。…と思えば、震えはますます顕著になり、歯を食いしばって顔を歪め出した。あぁ…また大泣きするのか──と思っていた。翠「…」蒼「何だい?僕に論破されたからって…」君の泣く姿を見るのはキライだ。今の君を見ていると弱い頃の僕を見ているようで、いつもイライラする。それに、翠星石が気になって自分の好きなように相手を倒せない。そういう事で、少し翠星石に不必要に当たってしまった。翠「…はぁ…はぁ…」蒼「ふっ…」反論してこない翠星石。ますます息が荒々しくなるだけだ。イライラからくる憤りのようなもので気分が高揚していた僕はそれを笑う。だが──翠「……ぐっ!」急に胸倉を掴まれて部屋の壁に叩きつけられた。僕も反撃しようと思ったけど、予想外過ぎて力が入らなかった。蒼「…人ってね、図星を突かれたら怒るもんなんだよ」翠「黙れです…」蒼「でも僕はあくまで冷静だよ」…だなんて言いつつ、実は頭の中は真っ白だった。翠星石がここまで怖い目つきで迫って来るのは初めてだった。でも、ここで言うべきことを言わないと、これから翠星石との亀裂が深まったまま直せないような気がした。それは、ある種の恐怖だった。翠「はぁ…はぁ…」蒼「僕は翠星石に気づいて欲しいんだ。僕の大切な姉として…」翠「はぁ…はぁ…」蒼「ほら、今、僕にやってること」翠「えぇ!それがどうしたですか!!」蒼「僕に出来て、向こう側の人間には出来ないんだね」翠「…」蒼「我慢しなくていいと思うよ」翠「…」ドスン…僕の胸倉を掴む手の力が抜けた…その隙に、早く逃げたいという気持ちを隠しつつ、ゆっくりとベッドへ向かう。蒼「それじゃ、おやすみ」──まさかあそこまで怒るとは思わなかったし、一時はかなり焦ったけど…でも後悔はしていない。言いたいことは言ったのだから、あとは翠星石が判ってさえくれればいい──~~~~~朝。豪雨の朝。不思議とよく眠れた。何故だかよく判らない。ここまでスッキリと目覚めることが出来たのはいつ以来だろうか。母「ジュンくんとは…」翠「あぁ、心配しなくても分かってるですよ」母「…そう」翠「そうです。翠星石と蒼星石に任せろです」蒼「心配しないで下さい」母「ふふ」翠「それじゃ、行って来るです」蒼「行ってきます」巴が家まで来たので僕と翠星石は出発した。翠星石は相変わらず膨れっ面で真正面を向いて歩いている。これをチャンスと思った僕は巴とは学校のことで話し合った。巴「…これからずっと警戒しないといけないって、疲れるわね」蒼「そうだね…」巴「…はぁ」蒼「昨日の事が今日にどう影響してくるか…」巴「まぁ、殴り合いになったとは言え、あっさり勝っちゃったし」蒼「うん…」巴「問題は…向こうが今後どんな大軍を率いてくるか」僕はアッ…と思った。蒼「負けたのが悔しくて来る可能性は大いにあるからね…」巴「それに、全体の数で見たら向こうの人数の方が多いもんね…」蒼「…」──翠星石の言いたいことが、ちょっと判ってきたのかもしれない。~~~~~学校に着くと、昇降口にあの3人の姿は無かった。翠星石の教室にも居なかった。そして、巴の教室にも居なかった。校舎の一番端の僕の教室にも居なかった。他のクラスにも居なかった。そして、どの教室も黒板が綺麗だった。ひとまず彼らの落書きは阻止することが出来たようだ。だけど、また他の悪質な行為に走る恐れもある。気は抜けない──しかし、今日の僕のクラスは実に静かだった。むしろ不気味だった。以前の平穏な日々が戻ったような静けさに包まれている。翠星石のクラスも巴のクラスも同じ感じなんだろうか…だが、まだ派閥同士の対立は続いているようだ。ジュン君の事件以降、僕は剣道部と園芸部の人以外からは話し掛けられたことがない。今日もまだ話し掛けられていない。向こう側の人たちは僕たちを無視する方向で学校生活を送ることにしたんだろうか。まぁ、それなら竹刀を振り回したりする必要もなさそうだし、そうすれば、その事で生じる諸々のリスクも背負わなくて済むんだから、この状態で暫く推移していくのは悪くは無い。でも、いずれはあの3人…いや、ジュン君を苛めた全ての人に謝らせたい…──結局、今日はSTが終わるまで全く何も起こらなかった。昨日ちょっと揉み合いになっただけでここまで沈静化するだろうか…ピタリと止んだ“ジュン君イジメ”の空気に、僕は訝らざるを得なかった。~~~~~練習が終わり、着替え終えて剣道場の外のベンチで一息ついていた頃、僕はおもむろに携帯を開き、翠星石からメールが来ていることに気づいた。蒼「あ、翠星石からメールが来てる…」巴「え?どんな内容?」まぁ翠星石のことだから、またジュン君の家に行ってるんだろう。昨日は連絡を入れなかったことでお母様とお父様に叱られてたし、さすがに懲りたんだろう。──とばかり思っていたが、その内容に一瞬思考が停止した。それを理解するのに少しばかり時間が掛かった。ようやくその内容を飲み込んだ時には、頭から血の気がサーっと引いていき、代わりにひんやりと冷たい液体のようなものが流れ込んでくるような、そんな感覚に襲われた──□翠星石□Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:-----------------------今××病院ですジュンが倒れました早く来てくださいです!
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