第十話「SHINE」
夢をみていたいのさ あきらめたりせずに出来るだけの事を 時が足りない程さ夢を見ていられたなら 時々は壊れようこの胸に刻んだ この熱は冷めやしないドサッ。ジュンが倒れた。私は混乱しながらも、なんとか救急車を呼ぶ。ジュンの手を握り、ジュンの名を呼びながら、私はこんなことを思い出していた。LUNA SEA 第十話 「SHINE」犬が死に、ジュンにてつだってもらってお墓を作った時。泣きながら犬を埋めたその時。終わった後、二人で話をした。「ねぇ。ジュンはどこにも行ったりしないですよねぇ?」「は?どうしたんだよ。いきなり」「答えるです。突然ジュンはいなくなったりしないですよね?」「うーん。どうかな?」「はっきり答えるです!くんくんみたいにジュンも、いなくなったりしないですよね!くんくんがいなくなって、悲しいのに、ジュンまでいなくなってしまったら、翠星石はどうしたらいいですかぁ!」 「う~ん、多分。約束してやるよ。ずっと一緒にいてやるから、な?泣きやめって。いつもの性悪なほうがお前らしいぞ」「な、なに言うですか!このチビ!ふざけるなです!こんな時に!」ここからはいつも通りのケンカになってしまった。まぁ、ジュンは私を元気づけようとしたんだろう。やり方は悪かったが、確かに私は調子を取り戻したんだった。シャリシャリ。よくある1シーンのように、林檎を剥いている。一応持ち直したものの、予断を許さない状況だそうだ。「ごめんな、翠星石。心配かけて」「いいんですよ。まだこうしてくれているんですから」「でもなぁ、もう少しもってくれると思ってたんだけどなぁ」「そんなこと言わないで欲しいです。一緒にいられるだけでも、翠星石は幸せなんですから」彼の話によると、ガンが発覚し、すぐに手術で取り除いたらしい。そして二週間ほどで退院、それからは抗がん剤の治療のため、三週間は通院。だが、その抗がん剤が合わなかったため、今の経口剤に切り替わったとのこと。医者からはガンの詳しいことは教えられなかったが、のりの様子を見て、これはおかしい、と気付き、問い詰めた所、知ったそうだ。…一時は自殺まで考えた。その言葉が私に重くのしかかる。そうして、自暴自棄になっている所を、蒼星石と、例のジュンにアプローチをかけている上司のおかげでなんとか立ち直れたらしい。その後、その二人への恩返しで一ヶ月半、今までに関わった人への別れを告げるのに、一週間ほど、私の所へは、一番最後。一番別れを告げにくかったと言う。私は怒りたかった。けど、怒れなかった。ジュンの気持ちは、はっきりと伝わってくる…。切ないほどに、哀しいほどに。話は変わるが、お見舞いには、のり、蒼星石、そして、例の上司が来る。真紅さんというらしい。彼女と初めて会った時、私は本当に見とれてしまった。綺麗な人…。まぁ、私自身、極度の人見知り、というのもあるのだが。会話にはならなかった。何度か会うにつれ、少しずつ慣れてきたが。話して分かったことだが、本当にできる人なんだな、と思った。女王様のような威厳の中に、ふと見せる優しさ。彼女は上に立つ人間であることは強く印象づけられた。…よくこの人にジュンはなびかなかったな。きっと彼はこんな人には弱いと思うのに…。他にもお見舞いではなく、雛苺という看護師がよく遊びに来る。仕事ではなく、本当に遊びに、だ。担当ではあるそうなのだが…。仕事の時は、かなり手際よく、要領がよいのだが、精神年齢が幼すぎる。本当に成人、いや、本当は小学生じゃないのか?と疑ってしまうほどに。だが聞くところによると、この性格に癒される人も多く、アイドル的な存在らしい。…う~ん。少しいじめたい。また、気になることもある。皆、妙にコソコソしている感があるのだ。一体何を?気にしないふりなんて、できるはずもなく、一人一人に問い詰めてみても知らんぷり。…寂しい。何で今になって私を除け者にするのだろう。泣きたいけど、泣いちゃだめだ。そう我慢し続けた。そんなこともあってか、私にはこんな気持ちが強くなった。彼との強い絆が欲しい。私のワガママだとは思っている。彼のためではなく、私のために。私には彼に伝えたいことがある。…出来ることなら、他の誰にも聞かれたくない。このことを、女である私から言い出すのも何か変な感じがするのだが。こんな状態の、それ以上に奥手である、彼からはきっと言ってくれないようなことを。ある日、私と彼しかいない病室。夕焼け色に綺麗に染まった部屋で、私は伝えることに決めた。ドクン、ドクン。彼は断るのだろう。それでも伝えたい。「ジュ、ジュン」「ん?なんだ?」いつもの間の抜けた返事。「聞いて欲しいことがあるんです」「何だ?言ってみて」「ジュン、す、す、翠星石と、け、け、け…」「あ、そうだ、翠星石」私が言い切れない所に声を割り込ませてくるジュン。「な、何ですかぁ?」完全に声が裏返ってしまった。「翠星石、いや、翠星石さん。僕と結婚してください」…え?第十話 「SHINE」 了
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