ずっと傍らに…激闘編 第四章~ジュンside~
──はぁ…朝か?ん?…あ、床に転げ落ちたのか…僕も相変わらず寝相悪いな…しかも蛍光灯つけっ放しで寝てたのか…カーペットの上に大量の座布団が散らかってる…タオルケットもあんなところに…でも…外は真っ暗。何が何だか…それで、今何時だ?ジ「ん…まだ夜の8時?」ベッドの枕元の時計を見て、まだ寝れるや…とベッドに戻ろうとした。だがしかし、ベッドは既に翠星石によって支配されていた…。ベッドに横たわる翠星石──ジ「…ギャアアアアアアアア!!!!」唐突に猛烈な寒気が僕を襲う──僕は何もしてない!僕は何もしてない!!…翠星石は僕の悲鳴に反応してか、不機嫌そうにこちらへ寝返った。同時に、制服を着ているのがチラっと確認できた。…そうそう、翠星石を上がらせたんだ。──あ、まだ家に帰らせてなかった…さあどうしよう…もう8時を回ってるのに、こいつはぐっすり眠ったままだ。起こすべきか起こさぬべきか。僕が向こうの家に電話して「今日は泊まらせます」なんて勝手なこと言えるわけないし…とにかく、手遅れでもいいから、さっさと家に帰らせよう──僕は翠星石を揺すって起こそうとした。ジ「翠星石~起きろ~晩メシの時間…」翠「ん~あ~…くぅ~!…」涙を流し、うなされる翠星石。どれだけ悪い夢を見ているのかと少し心配になった。…しかし、それは一瞬にして吹き飛んだ。ピンポーンさぁ、どうやらねーちゃんが帰ってきたようだ…鬱だ。この状態をねーちゃんに見られたらどうしようか…2人っきりでこの時間まで一緒…きっと要らん妄想を膨らませるに決まってる。高校に入学してから変なことで五月蝿くなりやがって…だから話したくないんだよ!!ったく…はぁ…万事休すか…ジ「翠星石~頼むから起きてくれ」ユサユサ翠「う…」ジ「起きろ!」ユサユサ翠「…うぅ」ジ「起きろ、早く…」『ガコン!』──下で玄関のドアのアームロックが引っ掛かる音がした。毎度毎度、鍵持ってるんならイチイチ鳴らすなよな…とは思ってるが、今回ばかりは内側から誰かが開けないと、ねーちゃんは家に入ることが出来ない。面倒臭いなぁ…の『ジュンく~ん!何でこっちの鍵閉めてるの?』ジ「あー!」翠「…ん~…」ユサユサジ「翠星石、早く起きろ」翠「…はっ」ジ「やっと起きたか」翠「…?」ジ「今、8時だぞ…しかもねーちゃんが帰って来た」翠「──怖いです!怖いです!あぁぁ…」翠星石は急にガバッと起き上がった。かなり焦った。ジ「え?」翠「…な、何でもないです」息が荒い翠星石。絶対何かあっただろ…僕が黙って翠星石を訝しげに見つめていると、翠星石はプンスカと怒り出した。翠「だから何でもないって言ってるです!これ以上は何も話さんです!」ジ「あ、そ」翠「そうです。それでいいのです」ジ「…で」翠「どうしたですか?」ジ「…ねーちゃんが帰ってきたから…」翠「…あ!そうですね。翠星石も帰ります…」ジ「…」翠「ほら、何をもたもたしてやがるですか…」ジ「!」翠「鍵も開けに行くですよ」翠星石は掛け布団を除けると、ベッドを降り、鞄を持って部屋のドアを開けて玄関へ下りていった。翠「のり~ちょっと待つです~」ジ「…」──お、何か勝手に行ってしまったなw実はこの時、翠星石がこの時間になってもまだ居ることがバレることや、自分の家に帰る翠星石のお見送りをすることより、ねーちゃんに会う事を避ける方が大事だった。だから僕は部屋を出ようとせず、ドアを閉めた。澱粉のりには僕の部屋に入ってきてほしくない──しかし、思惑通りにはなかなかいかないものだった。翠星石はわざわざ僕の部屋に戻ってきて、僕の右手をギュッと握り締めた。翠「おめぇは馬鹿ですか!さっさと来るです!」ジ「はぁ…」ねーちゃんには朝に冷たくしたから気が進まない。それに、今も面と向かって話すのが少し嫌だ。そんなことを知ってか知らずか、翠星石は僕の手を握ったまま階段を駆け下りる。…こんな時に限ってテンション上がりやがって──~~~~玄関に下りてきた僕たちは、微妙に開いたドアの隙間から覗くねーちゃんの顔を確認した。の「あら、翠星石ちゃん。来てたの?」翠「ジュンの看病に…んぐぐ」ジ「あ、気にしない気にしない…ははは…」の「あ…」ジ「…」翠「…」の「…」ジ「あ、今開ける。一旦ドア閉めて」ねーちゃんは一旦ドアを閉める。僕は翠星石の口を塞ぎながらアームロックを開け、ドアを開く。ジ「おかえり」ぶっきら棒にそう言うが、ねーちゃんは平静を装った顔をした。でも判るんだよ。ねーちゃん…結構ショックなんだろ…?アームロックは翠星石のせいとしても、鍵を開けに下りるのが遅いこととか、「おかえり」の挨拶を吐き捨てるように言ってることが。別にねーちゃんに苛められたわけでもないのに、何となく当たりたくなる。まぁどうでもいい。だが、その隣には水銀燈が不気味な笑みを浮かべながら立っていた。……え!?あ…マズイとこ見られたなぁ──まぁ、同じラクロス部所属だから、帰りも一緒なのも当然か…僕は翠星石の口から手を放した。その直後、水銀燈はさっきの笑みを浮かべながら翠星石に静かに詰め寄った。翠星石の顔は引きつっていた…銀「翠星石ぃ?」水銀燈の小さな声。辺りは独特の静けさに包まれる。僕はこの雰囲気が苦手だ。冷や汗をかいてしまう。話し掛けられている翠星石も狼狽していた。翠「え~…」銀「蒼星石よりも帰りが遅いから捜して来てって連絡があったわ」翠「…」銀「ここにも、ジュンくんの携帯にも、あなたの携帯にも連絡したのに誰も出ない…」翠「…」銀「それで来てみたら、やっぱりここに居たのねぇ…」翠「いや…」銀「お母様が心配しているわ」翠「あっ!…」銀「…連絡もなしに…」翠「…」銀「しかも学校から直接ぅ?」翠「…」銀「まさか、無断で部活休んだとか?」翠「連絡はしましたよ!?」銀「あっそぉ。ま、事情は知ってるからいいわ」翠「…」銀「でも、家族の中でその事情を知ってるのは私と蒼星石だけ…」翠「…」銀「判ってるわよね?」翠「…ご、ごめんですぅ」銀「家に連絡入れるか、一旦家に帰るか、どちらかにしなさいって言ったこと、覚えてる?」翠「…」ここで水銀燈の目つきが変わった。鋭く翠星石を睨みつける。銀「いくらジュンくんの家だろうが、言われたことは…」翠「ひぃ!」翠星石は鞄を置いて、大慌てで僕の部屋の方へ逃げる。銀「待ちなさい!」荷物を置き、靴を脱ぎ捨て、物凄い勢いで階段を駆け上がる水銀燈。…やがて向こうの方から悲痛な叫びが聞こえてきた。翠「きゃっ!来るなです!」銀「ジャンクになりたいのっ!?」翠「ごめんですごめんですごめんですぅ~~」銀「謝るならお母様に謝りなさい!」──こいつ、家に来る前に連絡してなかったのか…電話に出れたら良かったんだけど、寝てて気づかなかったからなぁ…これからは一旦確認してから家に上がらせよう──しかし、家に来た頃と比べるとかなり元気になったようだ。やっぱり姉妹っていいものだなんだろうか。僕ら姉弟もあんな風に仲良くできるものなら──僕はねーちゃんのいる方へ振り返った。の「ジュンくん?」玄関に入ってドアの鍵を閉めたねーちゃんが、おずおずと声を掛けてきた。ジ「何?」の「お夕飯すぐ作るからね…」ジ「あ、うん」ねーちゃんも制服から着替えるためか、靴を脱いで2階へ上っていった。仲良く…か。抵抗があるな…ま、見栄えが悪いからという理由で、この散らかったリビングでも掃除するか……そうやって取り掛かろうとした時、上から僕を呼ぶ声が聞こえた。銀「ジュンく~ん?」ジ「何~?」僕は水銀燈とはしょっちゅうタメ口だし、水銀燈にも「今まで通りにしてちょうだい」って言われてるから、幼稚園の頃から、翠星石たちと話すように会話している。だが、たまにタメ口を利いてはいけない時がある。銀「…大事な話があるから、ちょっと来てぇ~」──どうやらその時がやってきたようだ…
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