雛苺短編14
鏡を覗くと昨日と同じ自分がいて少しため息をつく。変わらない背丈、相変わらずのふっくらした輪郭。童顔と呼ぶにも子供っぽすぎるパーツの一つ一つが、気持ちに呼応して悲しげな表情を作り出していく。その顔すらもいじけた子供のそれに見えて、ますますため息は大きくなるばかりだ。彼はこんな私をどんな目で見てくれているだろうか?妹のような存在?それならまだいいほうだ。最近の彼の態度を思い出すと、娘くらいに思われていてもおかしくない気がする。私だってもう高校生だから、本当はもっと大人な付き合いを彼としてみたいといつも思ってる。だけど彼の前に出ると舞い上がっちゃって子供みたいに甘えたり騒いだり…。ふと気付くと鏡の中の自分はとてもいい笑顔でいるように見えた。彼のことを考えただけで自然と笑みがこぼれるなんてもはや重症だ。少し色のついたリップクリームを塗って私は鏡を閉じる。少しだけ目線が高くなったような錯覚を感じ自嘲気味にちょっと笑った。大人な自分を意識した今日は通学路を歩く早さも昨日とは違う気がする。鞄を持った左手だっていつもより上品だし、鼻唄だって今日ばかりは歌ったりしない。ちょっと意識を変えれば私は少しだけでも大人になれるんだそう考えていると前を歩く彼の姿が見えた。その瞬間私の中の大人はあっという間にだいなしになってしまって、『ジュン!おはようなの~』といつもの自分で彼に抱き着いていたのだった。
「しゅくだい見てほしーのよー」雛苺が僕の前に夏休みの成果を積み上げる。かったるいと想いながらも机にのったワークの一冊目を手に取った。同じものを七月中にやり終えていた僕は懐かしささえ感じて少しわらった。「よくできてるじゃないか、えらいぞ雛苺」そういって頭を撫でてやると気持ち良さそうに身体を擦り寄せてきた。「自由研究は…絵日記か」雛苺らしかったが中3で絵日記はどうかとも思った。「恥ずかしいからダメなの~」開けようとすると雛苺がモジモジと阻止しようと身を乗り出す。「少しくらい、いいじゃないかよ」空中高く掲げて雛苺の奪還を拒む。不可抗力なのだが顔全体で成長した雛苺の一部分を楽しむことになったりした。ひとしきり戦ったあと絵日記をパラパラとめくると、自分の顔がみるみるうちに血の気を失っていくのを感じた。7月29日 晴今日は幼なじみのジュンと久しぶりに一緒にお風呂に入ったなの。ジュンと洗いっこくすぐったかったけど楽しかったのよ。8月7日 曇今日はジュンの家で映画を見たの。一人で寝るのが怖くなったから、ジュンのベッドで一緒に寝たの。ジュンが抱きしめてくれたから安心して眠れましたなの。ほとんどの日記に登場する僕の名前と抽象的なのが逆に生々しい絵の数々。こんなものを学校の連中に、いや特定女子軍団に見られたら…顔をあげて雛苺を見るとクスクスと小悪魔な笑みを浮かべていた。その笑みを見て夏とは思えないほどの寒気に襲われた僕は、二学期はひきこもることを決めた。
雛「うい!ジュンへのお礼のお手紙書けたのー!」翆「さっきから何を一生懸命書いてると思ったら…それじゃ象形文字と大差ないですぅ」雛「もー翆星石ったら意地悪なのねっ。あー早くお手紙取りに来てくれないかしらー♪」翆「誰がです?」雛「郵便屋さんの黒ヤギさんの『中の人』」翆「…夢もへったくれもねーですね…」雛「ふっ、ヒナはもう現実を知って知ってしまったのよ…」
雛苺「そんな事より1よ、ちょいと聞いてくれよ。スレとあんま関係ないけどさ。昨日、近所の不死屋行ったんです。不死屋。そしたらなんか人がめちゃくちゃいっぱいで入れないんです。で、よく見たらなんか垂れ幕下がってて、50円引き、とか書いてあるんです。もうね、アホかと。馬鹿かと。お前らな、50円引如きで普段来てない不死屋に来てんじゃねーよ、ボケが。50円引だよ、50円引。なんか親子連れとかもいるし。一家4人で不死屋か。おめでてーな。よーしパパ、苺二個入り頼んじゃうぞー、とか言ってるの。もう見てらんない。お前らな、50円やるからそこを退けと。不死屋ってのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。ガラスケースの中にたたずむ白くて黒くて甘くてうにゅーな苺大福と戦いが始まってもおかしくない、食うか食われるか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。女子供は、すっこんでろ。俺はどっちにも当てはまるじゃねーかって?やかましいわwwwwwで、やっと入れたかと思ったら、隣の奴が、苺三個入り白餡で、とか言ってるんです。そこでまたぶち切れですよ。あのな、苺三個入り白餡でなんてきょうび流行んねーんだよ。ボケが。得意げな顔して何が、苺三個入り白餡で、だ。お前は本当に苺三個入り白餡でを食いたいのかと問いたい。問い詰めたい。小1時間問い詰めたい。お前、苺三個入り白餡でって言いたいだけちゃうんかと。不死屋通の俺から言わせてもらえば今、不死屋通の間での最新流行はやっぱり、粉だく、これだね。苺一個入り粉だく黒餡。これが通の頼み方。粉だくってのは粉が多めにまぶしてある。そのせいで食べると口の中がカラッカラ。これ。で、それに苺一個入り黒餡。これ最強。しかしこれを頼むと次から店員にマークされるという危険も伴う、諸刃の剣。素人にはお薦め出来ない。まあお前らド素人は、ドラ焼きでも食ってなさいってこった。‥‥‥なの」
勇者「はぁ…はぁ……どうやらお前もここまでだな。とどめだ!ギガd」雛苺「…ヒナね、ホントは人間さんが…だーい好き…なの…よ?もっと…ヒナ…が…ちいちゃい頃…いーっぱい優しくしてもらったの!…だから…お礼をしよう…と…したん…だ…けど…うまく…いかなかった…みたいなの…ゆーしゃ…さん……ごめ…んね?ヒナ、…死ぬのは……怖くない…のよ?だから…はや…く、殺し……て」勇「…そんな、俺は殺せない。まさか魔王の君がそんなことおもってたなんて……」雛「計画通り。死ねぇぇぇぇ!!」勇「なに!?まさに策」勇者は帰ってこなかった。
ジ「・・・」『テレビの前の皆さんにお願いがあるの!』ジ「ん?、この声って…」『最近ロリコンさんの事件が増えちゃって悲しいの。でも、ヒナ達はお兄ちゃん達の事大好きなのよ?だからお兄ちゃん達もヒナ達の事優しくしてほしいの!ヒナとの約束よ?お兄~ちゃん♪』 ジ「・・・」『幼女を大切に。公共広告機構です』真「雛苺はこんな仕事もしてたのね…。あら?ジュン、なにをハアハアしているの?熱でもあるの?」
「う~寒いのよ~」小さな足音とともに何度も何度も聞こえてくる小さな声。足を止めて振り返れば小動物のようにちじこまりながら歩く雛苺の姿がある。「そろそろベスト着たほうがいいって昨日いっただろう?」言葉とともにもれた息はかすかに白くくもって霧散した。「さすがに朝は寒くなってきてるんだから」僕に追いついて同じく立ち止まった雛苺が上目遣いに懇願してくる。「ジュンのベスト貸してなの~、こごえちゃうの~」「やだよ、僕がどんなにチビでもさすがにおまえにはでかいし。それに・・・」チラリと目をやると半そでの健康的なオジサマがニコニコ顔でランニングをしている「・・・まぁ・・寒いといっても凍えるほどではないだろ。我慢しろ我慢。」再び僕が歩きだすとブーブーといううめき声とともに小さな足音も復活した。「さっぶい、さっぶい、さっぶいの~♪さっぶいさっぶいさっぶいの~♪」少し元気な声になったが、相変わらず寒さを訴える雛苺。ふぅとため息をつきながら右手を後方に差し出す僕。「・・・校門が見えるまでなら、つないでていいから」我ながら雛苺に甘いというか雛苺のペースに巻き込まれすぎというか。エヘヘと笑いながら雛苺が差し出した手を両手で握り僕を見上げる。「と~~ってもあったかいの♪」その笑顔を見てほてった僕の頬には、ひんやりとした風が少し心地よかった。
怪しい男「うはwwwww幼女ktkrwwwww」雛「うゅ、痛いのー!やめるのよー!」男「大丈夫wwww気持ち良いことしようかwww」雛「いい加減止めねえとテメエの愚息を再起不能にしてやるのよ」男「うはw気の強い娘かなりタイプなんすけどwwww」雛「仕方ないのー、覚悟するのー」それからその男を見たものはいない… ヒナの日記今日怖いおじさんに襲われたの。だからお仕置きしたのー。そしたらおじさん血相変えて森に消えていったのー。良いことしたら気持ち良いのよー。
○落ちのない保守道端に立っている雛苺を見つけた。「どうした雛苺?…ああ、見事な銀杏並木だな。」雛苺の横に立つと、銀杏の黄色の隙間から青い空がぽつぽつ見えた。「うょ?ちがうの」雛苺は首を振る。「雛がみてたのは、こっち」地面を指差す。地面に落ちた銀杏の葉。踏まれたものや、朽ちて黒ずんだもの。「こういうのも風流、か?」少し驚きながらジュンが聞く。声を出さずに雛苺は笑った。「あのね、ジュン。雛ね…」「ひないちごー!さくさく行くかしらー!」金糸雀の声。道の先に黄色い点。その瞬間、雛苺はいつもの雛苺に戻っていた。「わかったのー!ジュン、またね」「ああ、また」雛苺の背中を見ながら、ジュンはさっきの笑顔を思い出した。ひどくさびしそうで、儚げな笑顔。「気のせいだよな」ジュンは呟いて、反対方向に歩き始めた。
雛「(う~…見た目ならこっち側だけど…ううん、見た目に騙されちゃダメなのよ!ヒナとうにゅーは魂の底で繋がってるの…)」じ~…雛「(だから感じるのよ…見えない繋がりが教えてくれるのよ…真紅が教えてくれたわ…皆はソレを、『絆』と呼ぶの!!)こっちなのー!」あぶっ!
ジ「ん?『自分を見つめ直してくるの。探さないでね』?なんだこの手紙?」真「苺大福を苺の先端から噛り付けなかったから、ふがいない自分を鍛え直す旅に出たそうよ。一週間くらい山に篭るんですって」ジ「・・・はぁ。で、山で何すんだ?」真「さあ?帰ってきたら聞いてみたら?」
雛「うにゅーに感謝の一日一万回うにゅー拳なの!!はぁああ…うにゅー!うにゃー!!うにょ~!!!」
「ん?雛苺、何読んでるんだ?」「あ、ジュン……、『眠れる森の美女』のお姫さま、可哀想なの……。ずっと眠っていたら、寂しいの……」「…?、その後、王子が起こしてくれただろ?」「でも、起こしてくれるまで、何十年も一人ぼっちなのよ…?その間ずっと寂しいの……」「……寂しいんじゃなくて、待ってるんだ……」「…ふぇ…?」「『きっと誰かが起こしてくれる…』そんな思いでずっとずっと待ってるんだ。だから、きっと寂しくないよ」「………ジュンは…、ヒナが眠っちゃったら…起こしてくれる?」「……あぁ」「きっと起こしてね?約束よ、ジュン」「約束するよ。お姫様」
雛「うゆ~、この後ヒナがうにゅーをいっぱい食べる話が始まるの。」雛「wktk10回して待つのなの」紅「雛苺、嘘はいけないのだわ」雛「ごめんなさいの嘘なの」水「1、2、3…」雛「水銀燈なにをしてるなの?」水「針を1000本数えてるの147、148…」雛「ひぃぃー」水「飲みたくなかったら本当の事をおっしゃい。」雛「ごめんなさいなの、本当は保守なの」
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