ずっと傍らに… 第2話~翠星石の不安~
その晩、翠星石は自分の部屋で思い耽っていた。ジュン、翠星石、蒼星石の3人は同い年。幼稚園から高校にかけて一緒の幼馴染である。特にジュンと翠星石は昔からよく言い争う間柄ということで有名で、いつも突っ掛かって来る翠星石にジュンは泣かされてばかりだった。そんな2人の関係に転機が訪れたのは中学2年のとき。裁縫の道に目覚めたジュンは自分で洋服を作ってみようと教室でデザインに励んでいたところを話し掛けてきた同じクラスの男子数人がそれを目撃。以後、そのあまりの細かさにマニアかよ!と嫌味含みで笑われて、不登校となってしまった。翠星石もその話を聞いた瞬間、同じく不登校になる寸前まで精神的に参ってしまった。しかし、ここでますます勢力を伸ばす“ジュン排除肯定派”に怒りを覚えた翠星石は考え方を改め『ジュンを復帰させるには翠星石が強くならなければ…』と奮い立ち、5月上旬にHRの時間に行われた不登校についての討論で、ジュンを蔑視する声に激昂し「ひとつのことに熱中することの何が悪いのですかっ!!」と声を荒げたことがキッカケで次第に翠星石派の生徒がじわじわ増加。結果的にその年の9月、ジュンは5ヶ月近くにわたる不登校状態から無事に復帰できた。それから翠星石はジュンに対する態度をだんだん変えていったのである。(ちなみに、その翠星石の怒声は3つ隣の蒼星石のクラスにまで聞こえてきたとか)それから3年近く経ち、3人は高2になった。が、この数週間、翠星石はそれからのジュンに対しての変な感情に戸惑っていた。今までは友達として見ていたはずなのに、いつの間にか恋人として好きになっているかもしれない──今日の学校の帰りにジュンに抱きついたとき、翠星石はもはやそれを確信せざるを得なかった。翠星石は色々考えた末、寝る前に蒼星石に相談を持ち掛けた。蒼「…で、またジュン君の話?」翠「…あの、笑わないで聞くですよ?」蒼「分かった」翠「じゃあ話すです…あの……」蒼「…」翠「……今日は学校の帰りに……ジュンに抱きついてしまったです…」蒼「…うん」翠「それで……ジュンも抱き締め返してくれたんです…」蒼「…そう、良かったね」翠「今回はそれで終わる話じゃねぇです!」蒼「え?…何か深刻なことでも起こったの?」翠「…つまりこれって…ジュンからの答えなんですかね?」蒼「…何の?」翠「まずその前に『ジュンが大好きです』って言ってしまったのも聞かれたです…」蒼「…」翠「その後に『心配するな』とも言ってたです──」蒼「…」翠「だから、これってジュンが…翠星石を好きだっていう返事ですよね??」蒼「…う~ん…そうかもしれないねぇ」翠「キャアァァァァァ~♪…あ、ちょっと待つです…」蒼「何?」翠「どうも、そうじゃないかもしれない気がしてきたです…」蒼「…え…えぇっ?」翠「あぁどうすればいいですか?翠星石はどうすれば…」蒼「ちょっと…ま、まぁ落ち着いて…」翠「それが落ち着いていられるかってんです!」蒼「あんまり騒がしくすると水銀燈や真紅が部屋に来る…そうすればこれ以上話が…」翠「どうでもいいですそんなこと!あぁもうどうすれば…」蒼「何だよそれは!じゃあ僕にどうして欲しくて夜遅くまで起きてるのさ?」翠「…あぅ…」蒼「ねぇ!」翠「(蒼星石も声を張り上げてるじゃないですかぁ…)そ、そんな詰め寄らなくても──」蒼「…じゃあ、僕もう寝るよ」翠「待つです!……早いうちにジュンの気持ちをハッキリ聞きたいです…」蒼「で?」翠「…だから……こっちから告白してやるです!」蒼「──言ったね?」翠「え?」蒼「じゃあ明日ジュン君をカラオケに誘っとくよ。まぁ僕も歌いたいものがあるし」翠「…え?…え?え?」蒼「それじゃ、おやすみ」翠「…」2段ベッドの下段に入った蒼星石は、そのまま横になって掛け布団を被った。部屋の真ん中に翠星石はひとり取り残された。翠「(どっ…どうしようです……)」先送りするにしても我慢できない、でも今はまだ言葉の準備が出来てないから…──葛藤に苦しみ、この晩はなかなか寝つくことが出来なかった。
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