祭りの夜「第4話」
「第4話」 むかぁしむかしのはなしです。おやおや、随分眠そうですね…では今宵は子守歌代わりにどうぞ…… 『雨なら降らしてあげる。その代わりに大きな鏡と女の子を用意しなさい。』突然聞こえてきた声に村人達は驚きました。知らせを聞いた長老たちはどうするか相談をしました。鏡は用意出来ますが【女の子】を一体どうするのか……しかし雨が降らないとみんなが飢えてしまいます。やむなく村の為だと言われ、選ばれた一人の娘が神さまの所へ行く事になりました…… その日の夜ジュンは飲み物を買いに近くのコンビニに向かっていました。神社のそばまでくると、虫の鈴のような鳴き声にまじって時折、蝉が寝ぼけたように鳴いています。耳で夏を感じながら歩いていると、神社の境内に何かが光っているのが見えました。気になると確かめずにはいられないのが好奇心。おっかなびっくり光の方に近づくと……螺旋を描くように動くいくつもの光の中に佇んだ少女の姿が見えたのです。 しばしの間その幻想的な光景に心を奪われ見とれていると…「そこにいるのは誰?」聞き覚えのある声が響いてきました。「雪華綺晶……なのか?僕だよ、ジュンだ。」「ジュン………?」近くに行くと淡い光がジュンを包むようにして飛んで来ます。その光に透かすように見ると、そこにいたのは確かに雪華綺晶でした。「やっぱり雪華綺晶か。こんな時間にこんな所で何してたんだよ?」「貴方こそどうして声をかけてくれなかったの?」雪華綺晶は小首を傾げジュンを見つめてきました。 その時ジュンは雪華綺晶にひどく違和感を感じました。なんと言えばいいか、雪華綺晶には違わないのに全く別人と話しているような感じです。理由が解らずにモヤモヤしていると雪華綺晶が一歩近づいて来ました。顔と顔の間には握り拳が入るか入らないか位しかありません。「ねえ、どうして?」「い、いやその……ほら、あ、あんまりに……綺麗だったから……」恥ずかしい台詞だったので蚊が鳴くような声になってしまいました。おまけにそれを聞いた雪華綺晶は微笑んできます。赤くなったジュンは慌ててそっぽをむくと話題を変えました。「そうだ、さっきから飛んでるこの光ってなんなんだ?」「蛍よ。綺麗でしょ?」 雪華綺晶は光の一つを手で包むようにして捕らえるとそっと広げました。覗いてみると、ゆっくりと点滅する光を纏った小さな虫が見えます。「これが蛍なんだ。初めて見たけど綺麗だな…」「私はこの儚い光が好きなの。」2人は手から飛び立つ光を見つめてしばらく無言で立っていました。「いけね、僕は飲み物買いに来たんだった。雪華綺晶はまだここにいるのか?」「ええ、もう暫くは。」「もう11時になるし、ラプラスさんも心配してるだろうから早く帰れよ?家まで送ろうか?」「大丈夫。一人で帰れるから。」「そうか?んじゃ、明日な。」歩いていくジュンを見つめ呟く雪華綺晶。「……ええ。また…明日会いましょう……」左の眼帯に咲く薔薇に蛍がとまり、静かに光を放っていました……
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