五月のはじめ。
2007年5月1日 くもりのちはれ 今日もおねえちゃんに会えなかった。 今日もアトリエにご飯を運ぶときに人形に向かうおねえちゃんの背中を見ただけ。集中は乱しちゃいけないって、カナも知ってるもの。 アトリエからでてすぐ家に戻って中二階に上ったかしら。そこからだと、ふわふわでもこもこのぼたん桜の房がすぐ近くで見れるのよ。もうほとんど散っているけれど、一枝だけ残っているかしら。 そのふわふわを見ていたら急に名前をよばれて、びっくりした。 下を見たら、ちょうど桜のふもとに巴が立っていたかしら。 巴はこのGWの間にフランスに行くんだって。 親の許可は出てないからみっこーするって言ってたかしら。カナがさすがトゥモエだいたんねって言ったら、これもヒナと出会ったおかげだから。と言って巴ははにかんでいたかしら。 それから巴は眉をくもらせて悲しそうに今回のことがかんちがいだったら、私はたぶんヒナに嫌われると思う。とポツリって言うから、カナは日記に書いたみたいに、 あわてなくても二人の仲のよさはきっと終生変わらないかしら。って言ったかしら。 巴は本当は、私が嫌われた時はヒナのことをよろしくって言いに来たんだけれど…みたいなことを言ってた。でも決心がついたみたいで、決然とカナとおねえちゃんの家を去っていったかしら。 そうそう、巴からの伝言を書き留めておかなくっちゃ。 もし私になにかあったら、しんくを頼ってほしい。 巴はだいたんだけど、おねえちゃんなみに心配性かしらー。 しんく…確か去年、雛苺と巴が事件を起こしたときに聞いたことがある名前。 そういえば巴の竹刀袋がいつもより曲がっていたのは気のせいだったかしら?
受話器を置いたら、背後がらおねえちゃんに「あらあら、何の話ぃ?」 と声をかけられたかしら。おねえちゃんと会えるのは久しぶりで思わず だきついちゃったけれど、いくらおねえちゃんでも話すわけには行かないかしら-!って叫んだけれど、うう、カナがおねえちゃんの問いつめにあらがえるはずもなかったかしら…。 「そぅお?残念ねぇ」なんて笑ってたから納得してくれたと思ったら、そのにこやかな表情ままがっちり頭をつかまれちゃった。 その後は思い出したくないかしら…。 でもほんとおねえちゃんは強くって綺麗で最高かしらー おねえちゃんに、ほんとに危そうだったら、ちゃんと連絡するようにいいつけられたかしら。あと、「そのゆきかきって子も災難ねぇ。」って言ってたけれど、きっと巴は雛苺との仲を確認して帰ってくるはずかしら。 巴と雛苺のことを話し終わってから、カナははたと気づいたのかしら!アトリエにこも りきりだったおねえちゃんが自分から出てきているとゆーことは、ついに人形が完成し たんじゃないかしら? そのことを聞くとおねえちゃんは「そうよぉ」っていって、笑ったわ。普通の人ならわからない、ちょびっとテレてる声だったかしら。おねえちゃんの声がこれだけ聞き分けられるのは、きっとカナとメグさんだけ。 「見たい?」って聞かれたから「もちろんかしらー!」って答えたら、「んー、どうしようかしらぁ?」だって。おねえちゃんは本当にいじわるかしらー。でも、いじわるしても最後にはちゃんとカナに見せてくれるかしら。 ここからは、とっても印像に残ってるから、くわしく書こうっと。 アトリエの大きな作業台の上に、その子は静かにすわっていたかしら。 天窓からさしこむ光に照らされて、とっても白くて今にも消えそうなふんいきの子。 カナが見とれていると、おねえちゃんがその子の髪の毛にそっとふれながら「この子の名前はキラキショウ。ローゼンメイデン第七ドール、キラキショウよ」そう、教えてくれた。 それから何分、開かれたかばんに背中を預けるキラキショウに見とれていたのかしら…。 すごいすごいおねえちゃんすごいって、カナはそんなことばっかり言ってたかしら。 「また一歩、アリスに近づいたわぁ」カナが落ちついてから、おねえちゃんはつぶやいた。 ほどよく疲れの乗ったリラックスした声音。おねえちゃんのやさしい声。 「アリス?」 「そう、アリスよ。カナリアは小さかったから覚えていないのね。アリスは――」 ここでおねえちゃんは一つ息を吸いこんだ。次に口を開いたときおねえちゃんの声はとってもおごそかだった。 「――どんな花よりも気高くて、どんな宝石よりも無垢で、一点の穢れもない、世界中のどんな少女でもかなわないほどの至高の美しさを持った少女。おとうさまが生涯の目標としていたドール。おとうさまの夢、それがアリスよ」 おとうさまが…。カナが生まれる前に死んじゃったおとうさま。まだあんまり、どんな人だったか教えてもらえてない、おとうさま。 鼻がなんだかツンとしちゃって、そこからはあんまりしゃべらなかったかしら。 それから、おねえちゃんが私はきっとアリスを作ってみせるわぁって宣言したの。 宣言している間、キラキショウがほんのちょびっと微笑んでいるように見えてなんだかうれしかったかしら。 あんまりアトリエの、それも作業場に長居しちゃいけないから、その場はおしまい。 あれ、そういえばアリスはお父様の夢。それならおねえちゃんの夢はなんなのかしら? 明日はキラキショウを見せにメグさんのところにいくかしら~ おねえちゃんと外出するのはすっごく久しぶりかしらっ おねえちゃんはしばらく体みだから、残りのGWがとっても楽しみ。
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