赤い表紙の本の話
赤い表紙の本の話「その本、面白いのぉ?」 先ほどから頬杖をついて、つまらなそうに此方を眺めていた水銀燈は、やはり退屈そうに尋ねてくる。「私には、面白く感じられるわ。貴女がどう感じるかはわからないけれど」 あっさりと言い放つと、彼女は目をぱちくりとさせて「つれないわねぇ」と笑った。 その声があまりにも優しかったから。私は顔を上げて彼女の顔を見つめた。「何よ?」 と、声をあげる水銀燈はなんだか照れたような表情をしていた。「どうして?」 だから、疑問だった。「どうして、そんな表情が出来るの?」 強いて言えば、羨ましかった。さらに言うなら怖かったのだと思う。 何がなのか、それがわからないのがもどかしかった。「だって、これが私だもの」 と、臆面も無く言う水銀燈は、きっと私よりずっと大人なのかもしれない。 いつも幼稚なことばかりしているのに、彼女の周りにはよく人が集まった。 下心がある連中もいたのかもしれないけれど、それでも、私には輝いて見えた。 いつも、最初に頼られるのは私なのに、最後は彼女の元へ離れてしまう。 雛苺や翠星石も、気付けばこの子と一緒にいることが多い。 それがどうしてなのか、私にはわからない。「どうかした?」 覗き込むようにして、上目遣いに私を見る水銀燈。 ん? と微笑を浮かべる彼女は、まるで「悩みなら聞くわよ」とでも言っているみたいだった。「何でも無いわ」 素っ気無く返事をすると、水銀燈は「ええ?」と素っ頓狂な声をあげて笑う。 ――ああ、そうか。 あの子達は、彼女のこの表情に惹かれたのかもしれない。 作られたものではない、自然な表情。コロコロと変わるその顔が、仕草が。 包み込むような安心を与えてくれるのだわ。「……かなわないわね」「なにがぁ?」 そう言った水銀燈は、驚いた表情で私を見つめていた。「どうしたの? 私の顔に何かついてる?」 尋ねると、水銀燈はカラカラと声をあげて笑った。「しんくぅ……貴女もそんな表情することがあるのねぇ」 彼女の言っている意味は、よくわからなかった。「私、貴女の無愛想な顔も笑った顔も好きだけど、驚いた時の顔が1番好きだわ。間抜けなんだものぉ」 笑いながら彼女は言った。「こんなに笑わせてくれるの、真紅だけよぉ」 それは心底楽しそうで、つられるように私も笑った。 私は、自分で思っているより愛されてるのかもしれない。 誰かにとって、安心できる存在の彼女もまた、私で安心してくれてるのだとしたら……「それは、光栄だわ」 私たちはしばらく、二人で笑い続けた。
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