第12話
「・・・えーっと、その量一人で?」
「ふふ・・・奢りと聞きましたら、一層食欲が沸いてしまいましたの。」
とてもいい笑顔。目の前には山盛りのハンバーガー。
~重なる想い(Side:桜田ジュン)~
「雪華綺晶・・・さん。それ、食べ切れるの?」
「あ、呼び捨てで構いませんわ。・・・ま、その質問は愚問ですけれども。」
「あのね。雪華綺晶はとーっても食いしんぼさんなのー!」
「雛苺が言うなら本物なんだろうな・・・」
勘違いする人も居ないと思うけど、僕が雛苺に全幅の信頼を置いてるからじゃないぞ。
さて、さっき雛苺の奴が雪華綺晶との関係をあっさり口にした時は驚いたけど・・・
「そっか・・・じゃ、真紅たちと同じなのね。」
「そーなの。みーんなおんなじなかよしこよしー!」
・・・どうやら、既に柏葉は、彼女たちが親類関係にあるという事実を話されていたようで。
考えてみれば当然か。僕を彼女たち六人に引き合わせたのは柏葉なわけだし。付き合い長いみたいだもんな。
紙コップのストローをくわえる柏葉の姿をぼんやりと見ながらそんなことを考えていると、
「・・・?何、桜田くん。」
「あ、いや・・・なんでもない。」
視線に気付かれた。・・・ま、勘も鋭いみたいだし、自分で気付いたのかも。
「ん~・・・苺シェイク、甘くておいしいの~!」
「・・・三本も買ったら飽きるだろ、どう考えたって。」
雛苺はこんな能天気なやつだしな。やっぱり柏葉が・・・ん?
なんだ?窓は閉まってるのに・・・今、僕の隣の席の辺りで風が吹いたような・・・?
それと時を同じくして、向かいに座っている柏葉と雛苺が硬直した。・・・何だ?僕の隣で何が起きて・・・
顔を横向けた僕は、二人と同様に硬直することとなった。
「ふう。なかなかに美味でしたわね。」
「・・・は?」
ハンバーガー五つ、ポテトのLサイズ一つ、アップルパイ三つ。雪華綺晶の目の前にあったメニューである。
それが、今僕が目を外していたわずか数十秒の間に・・・いや、向かいの二人の反応を見るにもしかしたら一瞬で・・・
雪華綺晶の中に納められた、と?
「ファーストフードというだけあってボリュームは今ひとつでしたけれど・・・」
「そ、それだけ食って・・・今ひとつ・・・?」
「雪華綺晶・・・ぱわーあっぷしてるのー・・・」
「す、すごい・・・」
結論。流石はあの薔薇水晶の姉。尋常じゃない特技をお持ちだったようだ。
「あの、ジュン様。」
「さ、様ぁ!?」
「あら、お嫌ですか?それならご希望の呼び方でお呼びしますが・・・」
「・・・・・・い、いや。いいけど。」
一応言い訳しとくけど。決してやましい気持ちなんかなかったからな!絶対!
「ふふ、素直ですわね。それで、あの・・・追加注文をしてもよろしいでしょうか?」
「・・・・・・はい?」
・・・こういうとき、僕はつくづくノーと言えない日本人なんだと思う。勢いに負けてついつい許可を出してしまった。
結局その後、雪華綺晶はハンバーガーをさらに何個か注文し、あっさりそれを平らげ・・・
雛苺と柏葉が食事を終えるのを悠々と待っていた。なんというスピードだろう。早食い選手権の賞金で生計が立てられるに違いない。
「ジュンー、ごっちそうさまー!」
「本当に助かりましたわ。私のお昼ごはん代、馬鹿になりませんので。」
「・・・私の分は奢ってくれなくても良かったのに。」
「ああ、気にするなよ。勉強、教えてもらったしさ。」
帰り道。家を出るときと比べてとてつもなく軽くなった財布をポケットにしまいこみながら、僕は誰にも見えないように溜息をついた。
・・・
その日はそのまま三人と別れ、特に何事もなく無事帰宅。そして暇な日曜日も過ぎ去り・・・
月曜日。朝から妙に機嫌のいいクラスメート、ベジータが声をかけてきた。
「なあ、ジュン。耳寄りの情報があるんだ。」
「情報・・・?」
「そうだ、聞いて驚け。なんと今日・・・うちの学年に編入生が来る!それも凄い美人だ!」
「ああ、そのことか。」
「なんだ、知ってたのか。随分情報が早・・・ハッ!ま、まさか今度の美人もお前と仲良しだったりするんじゃ・・・」
「え?あ、ああ!編入生が来るってことだけ知ってたんだ。そうか、美人か。楽しみだなぁ、ははははは・・・」
下手に知り合いなんて素振りを見せると、またこいつの華麗なる勘違いで怪我をする羽目になるからな。
翠星石のクッキーが原因でリンチにあったのもつい一昨昨日のこと、まだ記憶に新しい。
「ほら、お前ら。早く席に着けー。」
「あ、はい。」
「・・・おおおお!う、美しい!」
・・・ベジータが目を輝かせている。その原因は、どうやら先生の後ろに続く人影にあるようだ。
「えー、今日はみんなに新しい友達を紹介しよう。・・・さ、名前を。」
ここは小学校か!・・・いや、そんなことはどうでもいい。
思わず対象を逸らしてしまったけれど、もっとツッコむべきところがあるじゃないか。
「私、雪華綺晶と申します。どうぞよろしく。」
「・・・薔薇水晶。・・・よろしく。」
・・・なな、何で二人ともこのクラスに・・・二人の転校生が同じクラスに来るって普通はありえなくないか?
双子だからか?双子ってそういうの考慮されるのか?いや、聞いたことないぞ。
「あらジュン様、私たちと同じクラスでは不満ですの?」
「あ、酷い・・・」
「この二人は、本当なら今年度の初日から通うはずだったから、既に枠がとってあったんだよ。」
「だから心を読むなあ!てか先生も読めるのかよ!」
「あ、えっとジュンくん。落ち着いたほうが・・・」
「・・・ん?」
時、既に遅し。うちのクラスの男子陣、特にベジータからは、既に殺気を越えた何かが溢れ出していた。
・・・あー、違うんだ。別に知り合いだってことをひけらかしたかったわけじゃなく・・・てか今のは僕のせいじゃないだろ。
さて、このクラスに入ってからまだ一週間だというのに、クラスメイトから受けた傷が半端じゃない。
僕の体がこの一年で壊れませんように。
「・・・うおおおおおおお!桜田ジュン!我が洗礼を受けるがいい!」
「うわっ!?お、おい!やめろよ!ナワトビを振り回すな!」
・・・ホント、神に祈るよ。
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