第7話
「・・・・・・」
奇妙な少女との出会い。重苦しい沈黙。
~重なる想い(Side:桜田ジュン)~
どうしろって言うんだよ。せめて何か喋ってくれないと対応の仕様がない。女の子は未だ目を逸らさずに、ただただ僕の目を見据えている。
・・・意を決した僕は、置物のようなこの女の子と、コミュニケーションを試みることにした。
「あの・・・何か御用ですか?」
反応、ナシ。
「えっと・・・どちらさまですか?」
「もしかして、真紅の友達とか・・・?」
結論。コミュニケーション不能。な、なんなんだよ本当!僕の眼鏡に何かついてるのか?
・・・ん?あれ?何か・・・聞こえてくる。これは・・・何だ?「薔薇」・・・?
「薔薇水晶・・・」
「うわぁっ!」
お、驚いた。女の子が突然距離を詰め、僕のすぐ前に近付いてきていた。
・・・目線外してなかったのに、一体いつの間に!?・・・やめよう。この子相手に疑問をあげてたらキリがなさそうだ。
と、とりあえず返答しとこうかな。
「薔薇・・・水晶?」
「私の名前・・・」
・・・どうしてもツッコミを入れたくなる。いや、今この状況に置かれたら、僕じゃなくてもまず同じ質問をするはず。
「何で唇を動かさないで喋ってるんだ?」
「腹話術・・・」
人形もないのに。それって腹話術って言えるのか?
「細かいことは、気にしない・・・」
え、今度は読心術!?・・・ツッコミ所満載だな、この子。
「ツッコミ所・・・ふふ・・・」
な、何でそこだけ反復するんだ?そして、何で微妙に微笑んだんだ?
まあ・・・何となく、笑った理由は・・・いやいや!見当もつかない!断じてわからない!信じてくれ!
「・・・ふふ・・・いいけど。」
良かった。っていうか本当に読心術?喋る必要がないなんて便利だな、なんてこと思わないからな。
・・・少し、落ち着いた。色々不思議だけど、一応置物ではなく、普通の人間みたいだ。
さっきのコミュニケーション不能は撤回して、僕は再度質問を投げかけることにした。
「えっと・・・改めて聞くけど・・・何か、用?」
心の中ではタメ語でツッコミを入れてたし、別に敬語で話しかける必要もなさそうと判断。
「特に用はないけど・・・」
女の子も・・・いや、薔薇水晶も、腹話術喋りを止めてくれた。声が少し聞き取りやすくなる。
「これもさっきした質問だけど、真紅の友達?」
「・・・友達・・・は、厳密には違うかも。」
「厳密には・・・?」
妙な言い回しを使われた。知ってることは知ってるって感じか?
「だって、私は・・・」
薔薇水晶が答えを紡ごうとしたとき、カランと涼しい音を立ててティーショップのドアが開いた。
勿論、中から出てきたのは・・・
真紅である。しかし様子がおかしい。薔薇水晶を見るなり口をぽかんと開けて硬直してしまった。
薔薇水晶は薔薇水晶で、出てきた真紅を見るなり首を傾け、いわゆるお嬢様的な微笑みを浮かべたまま固まる。
二人の関係について何も知らない僕は、何度も二人の顔に視線を往復させるだけ。
・・・この現場に出くわした人が居たら、妙な集団だと首を傾げられるかもしれないな。
最初に口を開いたのは、薔薇水晶だった。
「真紅・・・久しぶり。」
やっぱり知り合いなのか。対する真紅は、声をかけられたことによりようやく我に返ったようだ。
「薔薇水晶!・・・貴女、どうしてここに?」
「お父様の仕事の都合・・・」
「いつから来ていたの?」
「こっちに越してきたのは・・・昨日。」
・・・どうやら感動の再会的シーンらしい。状況の飲み込めない僕にはさっぱりだが。
「お姉ちゃんも・・・うん・・・」
「じゃあ来週から?・・・歓迎するわ・・・」
すっかり二人の空間だ。手持ち無沙汰な僕は、再度壁にもたれかかり、足をぶらつかせる。
「ジュン!」
「うお!?」
いきなり名前を呼ばれ、壁に後頭部を強打した。・・・今日の僕の怪我回数は異常だぞ、まったく。
「なんだよ。」
「この子、薔薇水晶。もう名前は聞いたのよね?」
「あ、ああ。それがどうしたって?」
「薔薇水晶、来週からうちの学校に編入してくるそうよ。」
「ふうん・・・って、何ぃ!?」
新学年が始まってまだ一週間も経っていないというのに、こんな時期に編入って・・・何があったんだ?
この後なされた真紅の説明から、以下のようなことがわかった。
薔薇水晶は、僕らと同じ高校二年生であること。本当は、二年生の最初から僕らと同じ高校に通う予定だったこと。
しかし、編入試験を受けるべき日にそれを受けられなかったがために、編入が遅れてしまったこと。以上。
ちなみに、真紅が説明してる間、薔薇水晶はというと、
「桜田ジュン・・・変な名前・・・」
などとぶつぶつ呟いていた。“薔薇水晶”よりよっぽどありふれた名前だと思うけどな。
説明を聞き終えた僕が、何か薔薇水晶にかけるべき言葉があるだろうかと考えていると、
「じゃ・・・私、家の荷物整理手伝わないと・・・」
「そう。それじゃ、次は学校で会いましょ。」
と、もう解散の流れになってしまっていた。薔薇水晶はこちらに背を向け・・・なんか危なっかしい足取りだな。
ともかく歩き出した。・・・ん、何の工夫もないけど、一応言っておいた方がいいかな?
「薔薇水晶!」
「・・・?」
振り向いた薔薇水晶は、まっすぐにこちらの目を見据えてくる。改めて見ると、その透き通った右目がとても綺麗なことに気付いた。
なんだか吸い込まれそうな心地になりながら、僕は常套句を口にした。
「・・・えっと、よろしく!」
「・・・こちらこそ・・・」
一言ずつ言葉を交わすと、再び薔薇水晶はこちらに背を向けて歩き始めた。
その後ろ姿が曲がり角に消えるまで、僕はただぼーっとそちらを眺めていた。
「語彙が貧困ね、ジュン。もう少し言葉を飾ることを覚えなさい。」
「いいんだよ、別に。飾り付けたって意味は一緒だろ?」
「わかってないわね」とお説教を始める真紅の言葉を聞き流していると、あることに気付いた。
薔薇水晶にした質問。真紅が出てきたのでタイミングを逃し、答えを聞いていなかった。
すなわち、“真紅と薔薇水晶の関係”について。・・・別に、真紅に聞けばいいよな。
「ちょっとジュン!聞いているの!?」
「なあ、真紅。」
お説教を遮って、僕は問いかけることにした。
「薔薇水晶って、お前とどういう関係なんだ?」
・・・何の気なしの質問だった。単なる好奇心。「友達よ」と答えがあればそれで納得したと思う。
でも僕は、この質問がきっかけで・・・今まで気付きもしなかった、驚くべき事実を知ることになる。
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