第4話
「だからぁ、真紅は乳酸菌が足りてないのよぉ。すぐそうやって目吊り上げちゃって。」
「馬鹿ね。怒りっぽい人に足りてないのは、カルシウムなのだわ。」
いつもより賑やかな帰り道。いつもより疲れる帰り道。
~重なる想い(Side:桜田ジュン)~
退屈極まりない始業式が終わり、僕らは帰途についた。・・・僕らというのは、僕と真紅と雛苺、翠星石に蒼星石に水銀燈の六名である。
柏葉が剣道部の部活、金糸雀が生徒会の仕事で帰りが遅いため、暇人揃いのこの面子が完成したわけ。
「何で下校のときまでこんな目に・・・」
自分の鞄に加え、真紅と翠星石、水銀燈の鞄を持つ羽目になった僕は、重い足取りを進めつつ深く溜息をついた。
「何言ってやがるです。翠星石の鞄を肩にかけられるチャンスなんて滅多にないですよ?光栄に思うです!」
「どこに光栄に思う要素があるんだよ!」
「やれやれ・・・翠星石がお前を奴隷として認めてやると言ってるのに、何が不満なんです?」
「全てだ!全てが不満だ!」
「ジュン、重いの?大丈夫?」
「・・・い、いや重さは全然大したことないけど・・・」
「じゃーあ問題ないですねぇ。これから毎日荷物持ち決定ですぅ!」
「な、なんでそうなんだよ!」
「ちょっとジュン、静かにして頂戴。うるさいわ。」
「な・・・元はと言えばお前がいきなり荷物を押し付けてくるから・・・!」
「あら。いつものことじゃない。いまさら何を言うつもり?」
「いまさらって・・・大体いつも持たされてる状況だって・・・」
「まったくもってうるさい家来ね。鞄ぐらい大人しく持てないのかしら?」
「う・・・そ、そもそも何で水銀燈の荷物まで僕が・・・」
「あらぁ?ジュンが二人の荷物を持ってあげてたから、便乗しただけよぉ?」
「だからそこで何で便乗するんだよ!」
「何よ、私の鞄だけは駄目って言うのぉ?それは差別じゃない?」
「そ、そういうわけじゃないけど・・・」
「じゃ、いいじゃなぁい。二つも三つも変わらないわよぉ。・・・明日の朝からは私の鞄も持ってもらおうっと。」
「あ、朝もかよ・・・」
つ、疲れる・・・ていうか悪夢だ・・・何でこいつらはこう口が達者なんだ。
と、僕が二度目の大きな溜息をついたとき、ずっと微笑んでこちらを静観していた蒼星石が口を開いた。
「ジュンくんは優しいよね。」
「・・・これを僕の優しさだと解釈するのは間違ってると思うぞ。」
「そうかな?」
何故か蒼星石は妙ににこにこしている。なんかいいことでもあったんだろうか。
「なんだかんだ言って、結局みんなの鞄持ってあげてるじゃない。」
「こ、これは無理矢理・・・!」
「無理矢理持たされてるのに放り出したりしないのは、やっぱりジュンくんが優しいからだと思うよ?」
「そ、そうか?」
励ましてくれているのだろうか?とにかく褒められるのは悪い気しない。なんだかちょっと元気が出たようだ。後でお礼を言っておこう。
二年生初日から既にお疲れモードだったけど、明日からも頑張ろう。・・・って僕、荷物持ちさせられるのを認めちゃってるよ。
「それじゃ、ボクも鞄持ってもらっちゃおっかな?」
「んな!?」
「へへ、冗談だよ。」
満面の笑み。・・・やっぱり、何かいいことがあったんだろうな。いつもより妙に明るいや。
「じゃ、私はここで。ジュン、鞄ありがとねぇ。」
「うゆ、雛もここでお別れなのよ。みんな、ばいばいなのー!」
「それじゃ三人とも。また明日、なのだわ。」
二人分の荷物が僕の肩から外され、残りは僕と双子の三人だけ。
人数が減っても僕と翠星石は口論を続けていて、気付いた時には、もう僕らは双子の家の前にいた。
「ほれジュン。とっとと荷物を渡すです。」
「持たせといてお礼ぐらい言えないのかよ、この性悪。」
「な、なんで翠星石がジュンにお礼を言わなきゃなんねーですかぁ!」
「人に仕事させたら労うのが常識だろ?水銀燈だってお礼言ったぞ。」
「む・・・で、でも真紅は何も・・・」
「翠星石。お礼ぐらいはちゃんと言わなきゃ駄目だよ。」
「そ、蒼星石まで・・・」
「・・・ね、翠星石。」
「・・・しゃ、しゃーねぇですねぇ、蒼星石がそう言うなら・・・あ、ありがとです、ジュン。」
「ん、どーいたしまして。ほら、鞄。」
「きゃっ!と、突然投げんなです!怪我でもしたらどうするですか!」
「空の鞄で怪我なんかするわけねーだろ、性わ・・・いってぇ!」
ま、また脛を・・・そろそろ僕の足、ガタが来るんじゃないか?
蹴られたところを摩っていると、翠星石は踵を返して家の方に走っていく。
「ざまみろです!さあ、蒼星石!とっとと中に逃げるですよ!」
「あ、うん。今行くよ。」
おっと、一言言っておかないと。僕は、後ろについて走り出そうとした蒼星石を呼び止めた。
「蒼星石。」
「何?」
「その・・・励ましてくれて、ありがとな。」
「え?」
ぽかんとされた。・・・何だろう。見つめ合ってるこの状況が、無性に恥ずかしくなってきた。
「そ、それじゃ!また明日な!」
別に走る必要もないのに、僕は走ってその場から立ち去った。
残された蒼星石は、軽く首をかしげ、それから微笑み、翠星石が二階の窓から自分を呼ぶ声を聞いて、慌てて家の中に入っていった。
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